第33話・アタシの大切な仲間です

 喧騒が逆に心地良いギルドの中。

 エアとモールは冒険者の輪の中に混じり、待ち受け用の座席に座りながら変化した光景を眺めていた。


『21番の番号札を持つ方、2番窓口までどうぞー』

『あいよー』


 清楚風な受付職員に呼ばれた半裸の男が窓口へと向かっていく。

 窓口の前は規律が感じられなかった以前とは違い、雑に並ぶ人間はいない。

 居るのは職員に呼ばれた客だけだ。


「へぇ。変われば変わるもんだねー」


 机に肘を当て、手のひらにあごを乗せた商人が呟く。

 改革前のギルドの実情を目にしていただけに、驚きはひとしおだったようだ。


「あのちっぽけな機械でここまで良い感じになるなんてね。世の中分からないもんだねー」

「どう? 見直した?」

「うん、やっぱりエアは凄いね」


 商人が素直な感情を吐露する。

 同時にトンガリ帽子の向きが変わり、彼女の顔はエアへと向いた。


「アタシじゃなくて発券機を褒めて欲しいな」

「そんなに好きなんだあの機械」

「だって可愛いじゃん」


(小さくて丸っこい形状。抱いて寝たいぐらい可愛い)


「それこそ未来永劫理解できなさそう」

「見る目がないなぁ。そんなんじゃ商人としてやってけないよ?」

「お生憎様。商人に大事なことは本質を見抜く能力であって、見た目じゃないんですー」


 まとも過ぎる台詞に、反論することなく受け止める。

 そして視線を友人から外し、再度受付へと向けた時。


「ブラウジングさん!」

「あ、ディビさん」


 澄み切った笑みを浮かべたギルド統括がこちらに歩いてきた。

 通り道で談笑にふけっていた冒険者たちも彼女の偉さを理解しているのか、誰もかれもが彼女の歩みの妨げにならないように道を空けていた。


「ブラウジングさんのおかげでとっても雰囲気が良くなりましたよ! ありがとうございます!」


 吐息がかかるほど傍に来るなり、彼女はエアの両手を握った。

 突然の行動にエアの眉は大きく上に動く。


「い、いえ、そんな大したことでは」

「ご謙遜なさらないで下さい! 昨日一日新しい仕様を試したら、職員からはとっても好評で、冒険者の方々からも不満の声を頂いていないんです!」

「それは良かったですね」

「これもブラウジングさんのおかげです! 依頼して本当に良かったです!」


 エアの手を包む力が強くなる。

 このままだと抱きつかれかねない勢いである。


(本当にそんな大したことしてないんだけどなぁ)


 受付の横に置いた発券機と、壁に張り付けられた掲示板を見ながら思う。

 発券機と掲示板は連動しており、発券機で記載された数字は掲示板にも出力される仕組みである。


 エアが行ったことは大きく3つ。


 券売機の設置と、出力番号を職員と掲示板に連携する仕組みの作成。

 こうすることで列を作らずに順番を管理できるようになった。


(冒険者さん達は何時自分が呼ばれるのか分かるようになるから、変にイライラすることも減るだろうと踏んだけど正解だったみたい)


 それから機械の使い方の教示。

 これらは機械を使用するのだから当たり前のことだ。


(これに関しては大分無理しちゃったけど。主にギュシランさんが)


 発券機を一般利用させるには国の許可がいる。

 彼は今もなお、役所で大量の書類と絶賛格闘中だった。


(大変だろうなぁ。今日は夜ご飯奢ってあげよ)


 国と密接な関係であるギルドからの依頼だからこそ短期間で実現できたことである。

 代わりに身近な役人が悲鳴を上げることになってしまったものの、変革に犠牲は付き物だ。


 彼も役所の隅で泣いて喜んでいることだろう。


(それで最後は――と)


 ちょうど昼を告げる鐘がなった。

 同時に、窓口にいた職員の一人が発券機にすたすた擦り寄り、真っ白な紙を張り付けた。


「お昼になりましたね。宜しければご一緒にお食事でもどうですか?」

「是非喜んで」


 はにかみながら答える。

 そして3人は揃ってギルドの外へと向かった。


「それにしても」


 途中、両手を後ろに組んだモールが切り出す。


「営業時間を厳守なんてしたら、冒険者から非難の声は上がりませんでした?」

「もちろん色々言われましたよ。ですが、今まで守ってなかったのがおかしかったですから」


 ディビがはにかむ。

 エアの目には、今までの自分の行いを恥じているかのように、笑顔の下に影が映って見えた。


「営業時間を超えての対応や事務処理は、職員の好意で実現していたことです。あるべき状態にしての文句はお門違いだと思います」

「それでも不満はあるでしょうね」


 理屈や筋は通っている。

 だが、大衆に正しい理屈を理解して貰うのは時間が掛かる。


 そのことを、機械術師であるエアは身に染みて理解していた。


「はい。ですが、近いうちにきっと理解して貰えると思っています」

「確信でもあるんですか?」

「この都市は商いによって成長した街です」


 ディビがそっと窓の方に近付く。

 釣られてエアとモールの視線も窓越しの外へといく。


「過剰労働で得られるちょっとした対価より、万全の状態でもたらされる利益が大きいと感じられれば、すぐに納得して貰えると思います」

「相手が冒険者でも?」


 こくりとディビが頷く。

 彼女は自分が住む商業都市ヘータという街のあり方を、ひときわ信用しているようだった。


「流れ者の多い冒険者ですが、うちのギルドに属する人達はこの街出身の方が数多くいますからね。きっと大丈夫だと思います」


 こちらまでつられてしまいそうなほどの笑みを向けられる。

 それは人と人との繋がりを重視してきた街に住む人間だからこそ、見せられる表情な気がした。


「そういえば報酬の件ですが」


 ギルドを離れ、脇道へと歩き始めたところでディビが話題を変えてきた。


「あ。提示したもので問題なさそうですか?」

「はい、話は通しておきました。今日からでも受注できますよ」

「本当ですか!?」


(やった! これで仕事に幅ができる!)


「なになに? どういうこと?」


 ひとり舞い上がっているところに、友からの問いが飛ぶ。

 横目でモールの方を見ると、ぽかんとトンガリ帽子を傾けていた。


「今回のギルドからの報酬のこと。対価はお金や物じゃなくて、あることにしたんだ」

「あることって?」


 分かりやすい反応についつい笑みが零れる。


「アタシもギルドの依頼を受けられるようにして貰ったの」

「ふぇ? 冒険者になったってこと?」

「いえ、ブラウジングさんに与えたのは特権です。危険性の低いクエストでかつ魔物退治を除いたクエストの受注権限を付与しました」

「アルフ村に住むエアがギルドの依頼を受けてもうま味が少ないんじゃないの?」


 至極真っ当な質問。

 だがエアは、間を置くことなくすぐさま言葉を紡いだ。


「そんなことないよ。ここはアルフ村からも比較的近いし、ちょくちょく来ると思うんだ」


 商業都市ヘータは王都よりも近いのだ。

 そして行えることも王都とさして変わらないときている。


 ただ地方都市である分、国への申請系は時間が掛かってしまうものの、出来ないわけではないのがみそだ。


「依頼を受けて無事達成すれば、アタシと機械術師の名の両方の評価が上がるでしょ。そうなれば生活も安定するし万々歳」

「へー、ちゃんと考えてたんだね」

「そりゃあアタシには野望があるからね」


(アタシと同じように社会から放り出された人を、機械を用いて一人でも多く救うこと)


 師匠に宣言したエアが果たしたい使命。

 何時だって気持ちは胸の中にある。


(忘れてないよ師匠。アタシはアタシのやるべきことをやるから)


「野望ってどんなの? まさか人に言えないやつじゃあないよね?」


 いやらしい目を向けてくる。

 商売のタネを見つけた時のような、欲望に支配された瞳をしていた。


「私も気になります。是非お聞かせ願えますか?」


 今度は山の湧き水のような純粋な目。

 キラキラとした透き通った輝きに比べ、隣の商人は砂地に溜まった泥水だ。


(凄い差。やっぱり欲望は表面に出るね。アタシも気を付けよ)


「おーい」


 注意事項を密かに胸に抱いたその時、後ろからやつれた低い声がした。

 声の正体については振り返らずともエアには瞬時に分かった。


「ギュシランさん。作業は終わったんですか?」

「お陰様でな」


 瞳の下に大きなくまを作った顔で恨めしそうに見つめてくる。

 額には大粒の汗がいくつも浮かび、非常にしんどそうなのが伝わった。


「えっと……、これからお昼に行くんですが、ギュシランさんも一緒に行きますか?」

「この状態でメシが喉を通ると思うか?」

「ですよねー」


(徹夜で書類作成して貰ったし、そりゃそうだよね)


「宿に帰って寝る」


 ぷいっと青年が背中を見せる。

 まるで愛想が尽きたと言わんばかりの行動に、エアの頭からさぁっと血の気が引いた。


「夜飯はお前の奢りだからな」


(え……?)


 続く彼の台詞に時が止まったような感覚がした。

 そして一度瞬きを挟んだ時には、リティの背中はほんの少し離れた位置にあった。


 緩い歩き方。

 乱れた歩幅。

 だらんと垂れ下がった両肩。


 彼の苦労が伝わる姿だった。


(ギュシランさん!)


「はい、夜は思いっきり食べましょう! アタシが出します!!」


 本能の赴くままに叫んだ結果、彼の右腕が呼応するように上がった。

 賛同してくれたようである。


「まったく。素直じゃないんだから」


 トンガリ帽子を両手を腰に当て毒を吐く。


「でも、とても心根が清らかな人ですね」


 今度はディビ。

 彼女はリティと直接のやり取りは無いはずだが、管理職に就いているだけあり人を見る目があるらしい。


 リティを見つめる青空のように青く透明な瞳は、彼女もまた精錬のような気がした。


「はい。アタシの大切な仲間です」


 きっぱりと言い切る。

 今ここで真っすぐに立てているのは、自分を支えてくれる人達のおかげだと胸を張って。


「ねえエア。ボクはボクは?」


 したり顔をしたモールが詰め寄ってくる。

 答えは割り切っているというのに、敢えて求めている様子だ。


(性格悪いんだから)


「はいはい。大事な仲間ですよっ」

「おー。じゃあじゃあお昼はエアの奢りってことでいい?」

「何でそうなるのっ! 普通に割り勘だよ!」

「うぇー、ケチ―」

「ケチじゃないよ! モールと一緒にしないでっ!!」


(いつもお金ばっかり考えてるくせにっ!)


「ふふふ。エアさんの周りは面白い人ばかりですね」


 クスクスと笑うディビの隣でじゃれ合いを続ける機械術師と商人。


 その様子はとても一仕事を終えた後の人間にはまるで見えず、威厳も派手さもない。

 だが、現在いまを照らす煌めきは誰よりも強く放たれていた。


------------------------------------------------------------------------

第三章・完!!


もし面白いと感じて頂けましたら、作品フォローと☆評価を宜しくお願いします! 皆さんの応援がとても励みになります。


※すみません、次の更新は未定です。

 完結まで毎日更新が出来るようストックを溜めますので、申し訳ありませんが少々お待ちください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る