第32話・この子はとっても凄い子なんです!!

 急な依頼により連泊することになり、宿の部屋に戻ったエア達。

 宿泊に掛かるお金はギルド持ちということもあり、悠々自適な気分でエアは紙に構想を描いていた。


「なんか活き活きしてるねー」

「自分の世界に入るのが楽しいんだろ。昨日のは機械は関係なかったからな」


 ペン先を走らせていると、後方から仲間の雑談が聞こえてくる。

 一致団結して悪人を懲らしめようと画策していた時とは違い、今回二人は蚊帳の外だった。


「でも今回も機械は絡んでこないよ?」

「アイツの頭の中には機械でどうにかできる算段があんだろうな」

「機械バカだからねー」


(誰がバカだ。誰が! それに全部聞こえてるからね!!)


 うんうん唸っているせいで、聴こえていないとでも思っているのだろう。

 機械バカであることは認めるが、こうはっきりと言われと反論したくなるというものである。


「日焼け止めを売るの協力したのに、その物言いは傷付くんだけど!」


 感情のままに振り向き、そしてベッド傍にいる薄情者達をにらみつける。


「あ、現実に帰ってきた」

「最初からどこにも行ってないよ!」

「同意。エアは物理的な移動をしていません」

「額面通りに受け取るな。比喩表現だ」


 残念な相棒の助けをリティが跳ね返す。

 もっともな反論だと理解したのか、MAIDSメイズはぶつくさ小言を走らせたものの、怒りをさらけ出すことはなかった。


「まったくもう。集中してるんだから邪魔しないで」

「それならボク達にも案を聞かせてよ。一人でやってたら手伝えるものも手伝えないじゃん」


(え……?)


「手伝ってくれるの?」

「当然じゃん。そんなお金になりそうな案件、こちらからお願いしたいぐらいだよ」


 何を当然なことを、と言わんばかりの勢いでトンガリ帽子が放った。

 やはりお金に絡むものには貪欲どんよくである。


「ギュシランさんもどうせ暇でしょ?」

「一緒にすんな。俺だって報告書の作成とか鍛錬とか色々あんだぞ」

「申告。エアを監視するのがお前の一番の仕事でしょう。傍にいることが必要不可欠なら、手伝いなさい」

「別に手伝わねーとは言ってねーだろーが」


 冷静に反論するリティ。

 今までなら声を荒げていた場面だが、言葉は乱雑なもののとても落ち着いていた。


 この態度に、自然とエアの首が横に倒れる。


(何か丸くなった?)


 そんなことを考えていると、左目周辺の皮膚が揺れた。


「エア。整理した問題点の周知をしましょう」


「あ、うん」と、エアが紙を持ち上げる。

 すると、紙の上に置いていた万年筆が机に零れ落ちた。


「まずギルドの依頼は労働環境の改善。これの原因は、冒険者が増えたことで業務量が増えたからだね」


 うんうんと、モールとリティの頭が上下に揺れる。


「急激な業務量の増加により、職員から不満が出ているみたい。同時に冒険者の方からも対応が遅いって、苦情があちこちから生まれてる状況だね」

「負の連鎖だな」

「うん、これらの状況をどうにかするのが今回の仕事」


 きっぱりと告げる。

 難しい問題ではあるものの、決して到達不可能なものではない思える自信がエアにはあった。


「職員からの具体的な不満はなんだ? 不満と言っても、色々考えられるだろう」

「回答。既に調査済みです。残業時間の超過は元より、多種多様な受付対応に疲労が重なっているとのことです」

「お客が増えても対応する人数は変わらないとなると、しんどいよねー。受付だって依頼の斡旋あっせんだけが仕事じゃないもん」


 モールの言葉に賛同するように首を縦に振る。

 受付の仕事は達成した依頼の確認や、メンバーが不足している人へのパーティの紹介。

 それらに加えて、ギルドに来る宅配業者や郵便業者の対応があるのだ。


 忙しいどころの話ではない。


「そう簡単にはいかない問題に思えるが、どうする気だ?」


 壁に寄りかかっているリティが疑問を投げてくる。


「はい。まずは効率化の面で攻めようかと」


 言って、カバンから箱型の機械を取り出す。

 一辺が10センチほどの機械を机の上に出すと、仲間はまじまじと見るべくこちらに寄ってきた。


「何これ?」


 当然のようにやってきた問いに答えるべく、隅の突起物に手を掛けた。

 すると小さな駆動音が鳴り始め、機械の中央から数字が書かれた紙が出てくる。


「これだけ?」

「うん。この突起物ボタンを押すとね。番号が書かれた紙を出力してくれるんだ」

「へぇ、他には?」

「他? これだけだけど?」


 酷く冷めた目を向けられる。

 モールの瞳にあったキラキラはすっかりと消え失せてしまっていた。


「なんかしょうもなくない?」

「しょうもなくないよ! もう1回押すと次の番号が出てくるんだよ! とっても賢くて素晴らしい機械だよ!」


(四則演算ができない人も珍しくないのに、なんて言い草なんでしょう!)


 モールは商人で計算が得意だからそんな反応をするのだ、とエアは黙って頼れるもう一人の仲間へと視線を向けた。


「すまんが、俺にも理解できん。何のために使うんだこいつは」


 しかしながら、彼もまたいぶかし気な面持ちをしていた。


MAIDSメイズ。アタシは悔しい。こんな素晴らしい機械の魅力を伝えられないなんて」

「同情。仕方ありません。凡百の人間の発想力は貧相なのですから」

「悲しい世の中だね。うるる」

「くだらないこと言ってないで、その機械の有用性を説明しろ」


 相棒と寸劇を繰り広げていたところに突っ込みが入る。

 エア達の物言いが気に入らなかったのか、腕を組みながら人差し指を小刻みに叩いていた。


「この機械の役目は整理券の発行です」

「整理券?」


 商人がオウム返しをする。

 聞きなれない単語に思わず反応してしまったようだ。


「回答。人が大勢集まる場所や状況下で、混乱を避けるために受付の順番を記したもの券のことです」

「そんなの意味あるの?」

「もちろんあるよ! 人が多数集まると、非常識な人間の割合も多くなるんだから。そういう輩は横入りだけじゃなくて、不満が溜まれば暴言を吐き捨てることも珍しくないでしょ」

「あー、確かにそういう人いるねー。」


 経験があるのか、トンガリ帽子がうんうんと頷く。


「これなら発券した順に順番は固定されるし、今対応している番号を公表すれば自分の待ち時間がある程度分かるでしょ?」

「おお。そう聞くと便利な気がしてきたな」

「ですよね! この子はとっても凄い子なんです!!」


 食い入るように青年の方を見る。

 エアの上りに上がった気分は禍々しい気を放っており、視線を向けられたリティがドン引きしているほどだった。


「で、でもさあ。これだけじゃ冒険者側の不満は減らせるかもしれないけど、ギルド職員の問題は解決できないんじゃない?」


 たどたどしい言葉を漏らすモール。

 彼女もまた部屋の照明に照らされ化け物染みていたエアに恐怖したようだった。


「そこもばっちり考えてる!! 大丈夫、この子は優秀なんだから!!」

「エアのこの機械に対する情熱はなんなの? エアの子供なの? てか何でそんなの持ってたの?」

「発掘してから一晩中語り合った子を、ひとり村に置いていけるわけないじゃん!」

「普通に気持ち悪い発言きたな。修理してただけだろ」

「補足。深夜に機械と向き合っている時のエアは、何時も気色の悪い表情をしています」


(みんなしてひどいっ!!)


 多方面からの文句により、冷や水を浴びせられたように頭が覚めてくる。

 同時に、昨日と同じく布団の上に飛び込み顔を埋めたい衝動に襲われた。


 大事な仲間達だが、こういう割り切っているところが玉にきずである。


「脈拍の低下を確認。エア、誰だって自分の世界に入れば気持ち悪くなるものです。気にしないでください」


(ちっともなぐさめになってないんだけど?)


 相棒の残念な台詞に顔をしかめる。


 親しき仲だからこそ、こういう時こそ心が落ち着くような言葉を聞かせてくれるものじゃないか、とエアは思った。


「ねぇ、エア」

「ん、なに?」


 愛しい発券機をべたべた触りながらモールが聞いてくる。


「これだと一般人が機械を使用することになるけど大丈夫なの?」

「大丈夫。そこもばっちり考えてるよ」


 心配ご無用とばかりに胸を張る。

 そしてゲスな笑みを浮かべると、エアは青年の方をまっすぐ見た。


「な、なんだよ」


 過去の嫌な記憶が横切ったようで、リティの額には汗が滲んでいた。


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この展開どっかで見たな。


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※次の更新は7/14(月)を予定しています。

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