第14話・アタシ、ちゃんと機械術師出来てましたか?

「っう!?」


 刃が掠めた右腕の中央部分に鈍い痛みが走る。


(これ、ぐらいで!!)


 しかし戦意を喪失させることなく更に突っ込む。

 そして震える少女の手を取り、暴走する機械を抑え始めた。


「お、おねえちゃんっ!? 助けて!」

「大丈夫! 怖くないよ!」


 膝に力を込め踏ん張り、宙を右往左往していた棒を一点に落ち着かせる。

 非力な女の子だけでははえのような舞を見せていた機械も、エアが加わったことで随分と大人しくなった。


(よしよし。このまま)


 機械を制御出来たところで手元の開閉装置スイッチを探り当て押し込む。

 すると、耳が痛むほど騒がしかった機械がすっかりと鳴りを潜めた。


(ふぃ)


 安全を確保したことで一息吐く。

 その間、怖い思いから解き放たれ急に力が抜けてしまったのか、機械の棒から女の子の手が離れ彼女はぺたんと地面にお尻を落とした。


 そんな彼女の姿を見て、エアは事態の原因を地に置くと、しゃがんで幼女の頭を優しく撫でた。


「びっくりしちゃったね。もう怖くないからね」


 にっこりと笑って届ける。

 するとキョトンとしていた女の子の表情が、みるみる歪んでいった。


「うわああああああああっっっっ!! こわかったよおおおおおおおおっっ!!」


 瞳から涙を流した少女がエアの胸に飛び込んでくる。


 普段遊び道具としか思わなかったものに裏切られてしまったのだから、当然の反応だった。


「大丈夫大丈夫。怖くない怖くない」

「うええええええええええん」


 泣き叫び続ける女の子を優しく包み込みながら背中をさする。

 子供の時、両親が死んでしまう夢を見て泣きじゃくるエアに対して、母親がしてくれたのと同じように。


「悪い、反応が遅れた。腕の傷は大丈夫か?」


 遅れてやって来たリティがエアを見て言う。


「これぐらい大したことないですよ。刃が錆びていたおかげで傷も出来てないようですし」

「そうか。だがやっぱり機械は危ないな」

「いえ、本当に危険なのは知らないことです。機械も道具。使い方さえ知っていれば、恐れるものではありません」


 役人の放った台詞が見過ごせず、ついつい諭すような言い方をしてしまう。

 正気に戻った時には、恐る恐る相手の顔を見る羽目になった。


(何て偉そうな口ぶり。やっちゃったー)


 しかし、当の本人は特に気にしてなさそうな顔つきだった。

 散々MAIDSメイズと喧嘩したことで、理屈に対する耐性が付いたのだろうか。


「怪我してない?」


 落ち着きを取り戻した女の子に問いかける。

 騒ぎを最初から見ていたこともあり、負傷していないことは知っていたが一応聞いておく。


「うん。お姉ちゃん、ありがとう」

「あんまりないんだけど、今みたいに動いちゃう機械も残ってるから不用意に触っちゃ駄目だよ」

「うん。分かった」

「分かってくれたなら良かった。今日はもうお帰り」


 エアが告げると、目元をらした少女はすくっと立ち上がった。

 そして何も出来ずにおろおろしていた、仲間達の下へと駆けていった。


(これで嫌いにならないでくれると良いけど)


 精一杯の対応をしたものの、どうなるかは少女次第だ。

 機械術師としては祈るしか出来ない。


「アタシ、ちゃんと機械術師出来てましたか?」


 膝と背筋を伸ばしたエアが同行人に問う。


「あれが答えじゃないか?」


 リティは答えると、村の子供達が去っていた方向をあごで示した。

 何も考えず無意識にその方角に視線を向ける。


「お姉ちゃーん! ありがとうー!!」


 助けた女の子がこちらに向けてブンブン手を振っていた。

 加えて、先程まであった悲しみはゴミ山に捨てていったように、屈託の無い笑顔を見せていた。


(もうっ)


 彼女に応えるためこちらも手を振る。

 すると、ただでさえ眩しかった女の子の顔が更に明るくなった。


「アタシ達も行きましょうか。まだまだ見て回りたいですし」

「ああ」


 監視役の許可を得て、エア達は鉄と油の臭いが立ち込めるゴミ山を降りた。

 かちゃかちゃと歩く度に奏でられる音は、エアの行動を祝福しているようでもあった。


 一呼吸置き、再び村の中を探索し始める。


(うん、気に入ったかも)


 一通り見て回った時には、高い位置にあったお日様も西の空に傾き始めていた。


「そろそろモールと合流しましょうか――」


 と、言ったそばから正面に赤茶色のトンガリ帽子が目に入る。

 彼女はこちらを見つけると、一直線に向かってきた。


「やっほー。こういう時、目立つ格好だとすぐにわかって良いね」


 分かりやすさだけでいえば、どっこいどっこいである。


「住民に尋ねたら一瞬だったよ」

「仕事は終わったの?」

「それはもうばっちり。そっちこそ村は満喫出来た?」

「うん。かなり」

「そっか!」


 トンガリ帽子の行商がはにかむ。

 何故かエアよりも嬉しそうだった。


「じゃあ村長さんのところに行こっか。ちなみにさあ」


(?)


 にやけ面のモールが近寄ってくる。

 そして頬同士がくっつくような近距離で彼女は口を開いた。


「ギュシランさんとなんか良いことあった? 昨日とは比べ物にならないほど良い感じになってるじゃん」

「そ、そんなことないよ!」

「またまたー」

「本当だって!」


 全力で拒否しているにも関わらず、首に腕を回されほっぺを突かれる。

 同性の友達がいなかったエアには、信じられないほどの距離のつめ方だった。


「何かあったらお姉ちゃんに教えてねー」


(誰がお姉ちゃんだっ!)


 全然人の言うことを聞かない巨乳に誘導され、村の中心部へと辿り着く。

 そして西側の家の前に立つと、腕の絡みを解いたモールは入り口横の呼び鈴の紐を引っ張った。


 村で一番偉い人間の住処だというのに、他と遜色ないこぢんまりとした二階建て木造建築だった。

 しかも妙に隣の家との距離が近い。


「村長さーん。こんにちはー、モールですー!」


 外からでも中の声が聞こえそうな造りの建物。

 年季が入り色褪せていることもあり、かなり昔からありそうだ。


「おやモールちゃん、こんにちは。久しぶりじゃないか」


 十数秒待ったところで戸が開く。

 すると、中から白髪と深いしわが目立つ初老の男性が出てきた。


「こんにちは、村長さん! ご無沙汰してます」

「変わらず元気そうじゃの。何かわたしに用かい?」

「はい。村に滞在したい人を紹介したくて」


 モールの瞳がこちらを向く。

 彼女の意志を受け取ったエアは一歩前に踏み出し、老人の目を見た。


(第一印象は大事。ちゃんとしなきゃ)


「初めまして、機械術師のエア・ブラウジングと申します。宜しくお願い致します」


 作り笑顔を保ち軽く頭を下げる。


「ご丁寧にどうも。このアルフ村の村長をやっておりますイド・デバルです」


 頭を上げ、今度はリティの方を向く。

 彼も構えていたようで、やるべきことをすべく前に出た。


「王命執行局・特務官のリティ・ギュシランです」


(そんな立場だったんだ。もしかしてかなり偉い人?)


「お役人の方まで御一緒とは。立ち話もなんです、どうぞお入りになってください」

「それではご好意に甘えて」

「おっ邪魔しまーす!」

「どうも」


 三者三様の挨拶を交えて村長宅へと入る。


(あれ? 意外と広い)


 小さい家だと思ったが、家の中はいくつも部屋があるようだ。

 更に古びた外見とは異なり、思った以上に綺麗だった。


(そっか。隣の家と繋がってるんだ)


 廊下の長さが明らかに一つの家の幅を超えている。

 外から見た時に隣家とやたら距離が近いと思ったら、複数の家を中で連結させた構造のようである。


(こっち側が応接室なのかな)


「申し訳ないですが、機械術師様。ちょうど村の者が相談に来ているのですが、同席しても構わないでしょう」

「大丈夫ですよ。むしろご挨拶したいので、こちらとしてもありがたいぐらいです」

「ありがとうございます」


 村長の微笑みを受けつつ廊下を進むと、突き当りの部屋に辿り着いた。

 そしてエアが部屋の中を確認しようとするや否や、可愛らしい子供の声が鳴った。


「あ、昼間のお姉ちゃん!!」


 聞き覚えのある声色と一緒に、腰の辺りに小動物が飛んできた。


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