第13話・本当に機械のこと何とも思ってないんだ

「ボクは酒場に商品を卸しに行くけど、エアとギュシランさんはどうする? 一緒に行動する?」


 村の入口で馬車を停めたトンガリ帽子が荷台の方を向いて言う。

 彼女は運転席に居ることが多かっただけに、馬鹿馬鹿しい口論に巻き込まれることが少なかったせいか元気そうだった。


「んー、折角だし見て回ろうかな。機械のゴミ山も見たいし」


(どれくらいの規模か確認しないことには留まるかどうかの判断も難しいしね)


「あ、でもまずは村長さんに挨拶あいさつした方が良いのかな?」


 新米ながらも、エアは国が定めた立派な機械術師である。

 リティのように王の命令で動くことは無いとはいえ、一般人には無い権限を持つ存在だ。


 要らぬ誤解を生まないためにも、あらかじめ筋を通しておくべきだろう。


(よそ者であることには変わりないしね)


「村の中を見学してるぐらいなら問題ないと思うよ。村長さんは温厚な人だしね」

「そうなんだ。良かった」


 やんわり胸を撫で下ろす。

 故郷の思い出が強いせいで、頭では分かっていてもどうしても嫌な感情が渦巻いてしまっていた。


「あ、MAIDSメイズは急な時以外は黙っててね」

「了承。困ったことがあればいつでも呼んでください」

「一生黙ってろ」


 後ろでぼそりと青年が呟いたのを、エアは聞き逃さなかった。


「ギュシランさんもだよ!」

「ぬっ!?」


 無関係な雰囲気を醸し出していたリティに向かって釘を指しておく。

 彼はエアの見張りなのだから、当然一緒に行動することになる。


 突然相棒に喧嘩を売るようなことは何が何でも避けて欲しかった。


「今度喧嘩したら血を吐く自信がありますからね!」

「どういう脅しだ……。分かったよ」


 どうやら彼の中でもやり過ぎた自信があるらしい。

 リティは気まずそうにこめかみに手を当てると、エアと視線を外して答えた。


「それじゃあこっちの用事が終わったら合流するよ。小さい村だし、待ち合わせは必要ないかな」

「うん、じゃあまた後で」

「うんうん。じゃ」


 トンガリ帽子に別れを告げ、荷台と運転席の隙間から地面に降りる。

 乾いた砂の地面に自分の足で立った途端、世界が広がったような感覚に襲われた。


(気持ちいい)


 故郷も同じくらい田舎で動物が多く住む分にはそこまで困らない地域だったが、木々が少なく子供には面白みが少なかった。

 第二の故郷である王都もまた人工物が多く、自然を感じるには郊外に出なければならなかった。


(のどかだなぁ)


 反面、現在エアが立つ村は新鮮な空気で満ちている。

 村の後ろには山の恵みに満ちた緑濃い山がそびえていた。


(あれなら獣も沢山住んでそう。山菜も取れるかな?)


 そして横を見れば、非常に透明度の高い小川が流れている。

 思わず近寄り顔を覗き込んでみると、手のひらほどの長さの魚が何匹も泳いでいた。


「住みやすい村だなぁ」

「そうか? 俺にはド田舎としか思えんが」


 エアの跡を追ってきた青年が反応を返してくる。


「ギュシランさんはずっと王都住みなんですか?」


 首を後ろに向け、何気ない質問を彼に送る。

 すると青年は、含みを込めるようにほんの少しだけ目を細めた。


「まあな」


 やたらと重たい声が耳に入る。


「そうですか。アタシは幼少期をド田舎で過ごしていたので結構親近感ありますよ」

「ふぅん。ま、でも、王都の方が良いとかは思ってねーよ」

「えぇ!? 意外です!」


(言い方からして王都大好き人間だと思ってた)


「お前割とズケズケ物を言うよな」


(そ、そうかな? 気にしたこと無かった)


「自分の中では普通だと思ってるんですが――」


 言ってから何かに気付いたようにあごに指を当てるエア。


(そういえば師匠に『我々は禁忌とされるものを扱うのだから、意見があるなら黙ってやり過ごすな』って教わったっけ)


 ルエルから真っ先に教わった教え。

 まだまだ小さかった時に学んだことであるため、エアの中では一般的な感覚が根付いてしまっていた。


「いえ、機械術師のさがのようです」


 小さく口角を上げ返す。

 教わったことが身に付いているのだから、恥じることでは無いと思えたのだ。


「行きましょうか。もっと見て回りたいです」

「ん、ああ」


 返事を確認して前かがみを解除する。

 そして踵を返すと、いよいよ村の中へと進んだ。


「この村には何か特産品でもあるんでしょうか? 同じような畑がちらほら見えますが」


 隣を歩くリティに尋ねる。


 村の何処を見ても、必ずと言っていいほど青色の花が咲いた畑が目に付く。

 地面に差した棒の周りを植物のツルが絡み合っているのも特徴的だ。


(アサガオでも育ててるのかな)


「ありゃあアオ芋だな」

「へぇ、アオ芋ってあんなに綺麗な青い花が咲くんですね。あ、だからアオ芋って言うのか」


 アオ芋はサツマイモの一種で、強い甘さが特徴的な品種である。

 ふかして食べても美味しいが、お菓子の材料として使用されることが多い。


「いや、確か芋自体が青いのが由来だったはず」

「ふぇー。ギュシランさん、物知りなんですねー」

「たまたま知ってただけだ。大したことじゃない」

「でもアタシの知識は増えました。ギュシランさんのおかげです」


 隣を歩く男子の目を見て話す。

 せっかく褒めているのに何故か彼はプイッと顔を背けてしまった。


(んん?)


 リティの反応が理解出来ず、ついつい首を傾げるエア。


(何かしたかな?)


 あぜ道を歩きながら頭を働かせてみるも答えは謎のまま。

 20センチ以上ある身長差によって上目遣いで感謝していたことなど、青春を機械と過ごしてきたエアには想像の範囲外だったのだ。


 そしていくら大人ぶっているとはいえ、リティもまだまだ年頃の男子であることも彼女は気付けなかった。


「あ。モールさんが言ってた機械のゴミ山ってアレじゃないですか!」


 木造民家を5、6件ほど通り過ぎ、村外れに足を伸ばしたところで、村の後方にそびえ立つおかしな山が姿を現し始める。


(何か面白いものないかな!)


 山というにはボリュームが足りず、実際のところいいとこ高台ぐらいのものだが、それでも機械の集合であることには変わりない。

 自然とエアが歩く速度も上がっていた。


(あれ)


 ゴミ山へと近付くと、数人の小さな子供達の姿が目に入った。


 男の子が二人と女の子が一人。

 エアの胸ほどの身長しか無さそうなちびっ子たちがゴミ山の上で無邪気に走り回っていた。


「モールさんの言ってた通りだ。本当に機械のこと何とも思ってないんだ」


 夢のような光景につい我を忘れて見入ってしまう。

 友達の話であっても何処か信じきれなかったせいで、幻想的な光景に見えてしまった。


「村も親も緩いなら、機械の山なんて子供にとっちゃただの遊び場だろうしな」

「ギュシランさんは注意しないんですか?」


(あんなに毛嫌いしてたのに)


「子供から玩具を取り上げるほど腐ってねーよ」


 軽く言われる。

 第一印象と異なり、実際はそこそこ融通が利く性格のようだった。


『わたしの方が強いもん!』


 更にゴミ山へと近付くと、少女が機械の中から先端が輪っかの形をした棒のようなものを手に取った。

 相手もまた木の枝を握っているところを見ると、戦闘ごっこのようだ。


『いっくよー!』


 と、叫びながら機械を持ち上げ、剣のように構えるボブ髪の女の子。

 すると、持ち手の一部分が明るく光った。


(まさか電源が入ったっ!? 危ない!?)


 ぼんやりと見守っていたリティを置き去りにし、エアが走り出す。

 だがゴミ山に足が届いたところで、彼女の予期した未来がやってきてしまった。


『ひゃあ!? なにこれ! 動く!?』


 電動機モーターのけたたましい音がとどろく。


「手を離さないで! しっかり捕まえてて!!」

『怖いよぉ! お母さーん』

「んっ!?」


 茶色い錆で凝り固まった金属の山をすぐさま登りきり、機械の棒に振り回される少女を視界に入れる。

 そしてエアは先端に刃が付いた機械に怯むこと無く、少女の元へと走った。


『だめぇ!! 助けてぇ!』

「そのまま掴んでてっ!」


 泣き叫ぶ女の子の間合いに飛び込んだ瞬間、刃の先端が腕を掠めた。


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