【三題噺】体育館と外套と、その視線の先に
本日の三題:体育館、外套、見つめる
ジャンル:ハーレム / 逆ハーレム
薄暗い体育館の中央に立っていた。
ざわつく声、ひとつ、またひとつと、消えていく。午後の光は高窓から斜めに差し込んで、木の床に幾筋もの影を落としていた。
その中で、私はただ、立っている。
背には、重たくも柔らかな外套。ひとの目を惹きつけるような、黒と金の紋章が背に浮かび、すそが床に届くほど長く引かれていた。
視線が、刺さる。
静まり返った空間に、視線だけが飛び交う。だが、私はそれを跳ね返すのではなく、ただ、受け止めていた。
理由は明確だった。
それが、彼らの“はじまり”なのだから。
「なにをしてるんだ、エリナ嬢」
最初に話しかけてきたのは、武門の家柄にして騎士候補の筆頭、レオン・グランツ。金髪碧眼の王子様然とした佇まいで、なぜか幼少期から私のことを“気にしている”らしい。
「まさか、俺を迎えに来たとでも?」
「違うわ」
「そ、そんな……!」
次に割り込むように現れたのは、錬金術学寮主席のリリィ・マクスウェル。天才肌の少女で、なぜか“私の実力に執着している”。
「外套が……とてもよく似合っていますわ」
「ありがとう。でも、あなたの視線は少し熱すぎる気がするわ」
「っ……エリナ様!」
続いて現れたのは、異国の王族、カディル=ライ・サマラ。肌の色も言葉遣いも異なる彼は、なぜか私に“忠誠と愛”を誓っているらしい。
「姫よ、この身、この命、いつでも君の盾となろう」
「体育館に剣を持ち込むのは禁止よ」
「す、すまない!」
最後に、教師席からぬっと現れたのは、まさかの魔術教師であるユーゴ先生。三十路をとうに超えているはずだが、なぜか“ずっと私を見守ってきた”という設定を自称している。
「やっとこの時が来たね、エリナ君。君を見つめ続けて十五年……」
「それ教育的にどうなの……?」
皆が、私を見ている。まるで“選ばれる”ことを望むように、真剣な目をして。
けれど、私はただ立っているだけ。
外套の重さが、私の存在を静かに肯定してくれる。
この体育館で、誰もが私を——見つめる。
……そして、私は思う。
「この状況、ちょっと情報過多すぎない?」
今日もまた、私の平穏は遠い。
これが、“逆ハーレム王道学園ファンタジー”の日常である。
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