第30話 板挟みギルド職員の日常
🧭 導入の書:板挟みの朝は早い
「風間さん、上から“精霊水の供給制限”通達が出ました」
「え……? こないだ契約更新したばかりだぞ?」
朝一番の報告。
通達されたのは、乾燥地の農家が頼る“精霊水供給ライン”の魔力割り当て削減。
背景には王都の魔道インフラ優先指令があった。
「今止めたら、三軒分の畑がやられます」
「でもギルド本部の方針です。“全地域均等供給”と……」
風間は書類を閉じて立ち上がった。
「よし。今日は、“現場の声”をまとめよう」
🌾 本章:ある職員の、ある日常の記録
風間はこの日、朝から晩まで村を駆けまわっていた。
水が止まれば苗が枯れると嘆く農家
ギルドの対応に怒りを露わにする若手
「精霊の機嫌を損ねたら今年は終わりだ」と焦る精霊使い
その一方で、支部に戻れば本部からの文言は冷淡だった。
「各支部、感情による現場判断は慎め。全体最適を優先せよ」
風間は独りごとのように呟く。
「“全体”と“ひとり”って、いつも反発するんだよな」
*
夜。風間はこっそり村の灌漑装置に“自主的調整”を入れた。
完全には止めず、魔力配分を再構成。
水は細くなったが、“枯らさないレベル”で回し続ける設定に。
それはマニュアルにはない、いわば“自己責任の裁量”だった。
翌朝、農家のひとりが笑って言った。
「昨日、夜中に水が戻ったんです。“奇跡”だと思いましたよ。
……風間さん、ありがとう」
風間は答えない。ただ、そっと手帳にこう書いた。
「ギルド職員は、時に“正しさ”をはみ出す者である」
*
後日、本部から問合せが来た。
「アースル支部、精霊水の削減幅が少ないようだが、再点検せよ」
風間はそれに対し、こう答えた。
「削減値の補正は、現場判断による“均衡処理”を実施。
最小限の魔力で最大限の持続力を確保し、損失ゼロ。
よって“全体最適”に資する行動だったと考えます」
返事は来なかった。
それでよかった。
🌱 収穫のひとこと
正しいことをするには、正しくないやり方を選ばなきゃならない時もある。
それでも、“農家が笑ってる”なら――俺はそれでいい。
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