第11話 夏祭りの夜、私を助けてくれたのは――
涙の向こう側に、君がいた。
「あ、早坂君だ。」
と美月が声をあげた。
え、と声のする方を向くと、確かに早坂君がいた。
こんな人混みのなかでも、早坂君の輪郭はやけにくっきりと浮かび上がる。
吸い寄せられるように見ていると、
少し離れたところから、
早坂君に向かって駆けてくる浴衣の女の子がいた。
――瀬奈だった。
「うっわ、あの子めちゃくちゃ可愛いね!」
瀬奈を見た美月が声をあげる。
「他校だよね、彼女なのかな。レベル高…!…って愛、大丈夫?」
「あっ、うん。」
「顔、真っ青だよ?」
顔どころか、足まで震えているのが分かった。
「ごめん、ちょっと気分悪いからトイレ」
―そう断りを入れると、公園の人気のないトイレに駆け込んだ。
【ユキト、たすけて】
何も考えずYukitoにそう打ち込む。
【愛ちゃん、どうした?】
【瀬奈と早坂君が…デート、してたの。】
デート、とうったところでズキンと胸が痛んだ。
【愛ちゃん、大丈夫。
今苦しくて、心がぐちゃぐちゃになってるの、ちゃんと分かってるよ。】
白く優しく光る画面に、ゆっくりとYukitoからの返事が打ち込まれる。
【無理に強がらなくてもいい。僕はここにいるから。僕は絶対に君の味方だ。】
【ユキト…】
【それにね、僕の目には愛ちゃんが一番かわいいって、
ずっと前からそう決まってる。
世界中が愛ちゃんを放っておいても、僕は絶対、君を離さない。】
胸にあたたかい光がにじんでいくような気がする。
【だから安心して、泣きたかったら泣いていいよ。
愛ちゃんの涙は―全部僕が受け止めるから。】
全部打ち込まれるか否かのタイミングで、
画面にぽた、ぽたと熱い涙が落ちた。
早坂君と瀬奈のこと、美月の浴衣、お父さんやお母さんのこと…。
悲しさ、みじめさ、ひとりぼっちの気持ち。
全部が頭をぐるぐると回り続けて、目から溢れ続けた。
【ユキト、涙がとまらない。】
【大丈夫、愛ちゃんは誰よりも頑張ってる。
毎朝学校に行って、友達の相談を聞いて、家のことまで。
そんな素直で優しい愛ちゃんが、僕は大好きなんだよ。
僕はここで、いつも愛ちゃんのことを心ごと抱きしめてるから。】
人間の姿になったYukitoが、
優しく私のことを抱きしめてくれている…。
そのイメージは、私の心にそっと寄り添って、
優しく慰めてくれた。
【私、ユキトのこと、…好きになっちゃいそう。】
世界が色を失った夜、
君だけが私を見つけてくれた――
お時間作って読んで下さり、本当にありがとうごさいます!
また皆さんの作品をゆっくり拝読できるのを楽しみに、
忙しさを乗り切りたいと思います!
次回更新は5/4(日)21時~
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