【狙え優勝】祭りに向けてのランクマ練習【その3】#24

「うい、といわけで、皆さんどうも。チームヤマノハのFPS有識者、レイです」

「同じく、やり込んでるモガでーす」

「エンジョイ勢の蒼真だよ」


 事務所内での某FPSゲーのトーナメント大会がある。


 あと一週間だ。

 今日はそのための練習枠だった。

 アヤさんは先輩たちと飲みに行っている。珍しく一人だ。

 マッチングして試合が始まった。

「あれ、そういえばアヤさんは?」

 モガが話しかけてきた。

 撃ち漏らした二人をしっかり落としておく。

「ちょっと待って当てるから⋯⋯ほい。よっし、今日先輩たちと飲みに行ってる」

「珍しいね、レイがついて行かないなんて。よし、一回引こうか?」

「下がろう下がろう。まぁ、唱子先輩とアリスさんと宵闇ちゃんいるからいいかなって」

 ヤマノハでシューター系ができるのがこの三人しかいなかったというのもあるが、蒼真はエイムにムラがあるけど状況判断と押し引きを図るのが上手く、モガは一対多に強くて、私は中遠距離のレンジの方が戦いやすいので、結果的にバランスの良いチームになった。

「取り敢えず迂回して範囲入ろ 

 がちゃ、ガチャガチャガチャ!ガチャン!

 配信を始めて、二時間ほどたった頃だった。

「ただいま!あれぇ?レイちゃーんどこー!」

「静かにしろアホ⋯⋯ッ!」

 あ、アヤさんが返ってき、た?

 この声はもしかして⋯⋯

「⋯⋯ん?」

「おや」

 これやばいか?

 防音室のドアが空いた。

 唱子先輩が申し訳無さそうに立っていた。

「あ、ごめんねレイ。唱子です。配信中にすまんわ。いやぁ⋯⋯アヤがさ、久しぶりに呑もうよなんていうから会ったら、楽しくなっちゃったらしくて止めらんなくてハイペースで呑みすぎてベロベロになったから連れて返ってきたんだよ。しばらく様子見で家に居るわ、世話してくる」

 振り向いて頭を下げた。

「あっ、はいっ!あざます!えー⋯⋯ただいま唱子先輩が酔っ払いアヤさんを連れてきてくれたみたいです。あ、ちょっと来ます?はいはいはい⋯⋯」

「アヤ連れてきた唱子だよ。お、やってんねぇ。全員いる?あ、ゆらゆらしてるから聞こえてんね」


 唱子先輩だ

 唱子さん降臨

 介抱者じゃん

 よっぱっぱアヤさん来てよ〜

 貴重シーン


「思わぬサプライズ嬉しいねリスナー達」

 マジでありがたい。

「じゃあ水飲ませてきます。ばいなーら⋯⋯」

 足音が離れていく。

 帰りの心配はいらないね。これで一安心だ。

「⋯⋯アヤさんどーしたの?」

「唱子先輩が酔ったアヤさん連れて返ってきてくれたんだよ。神すぎ」

「アヤさん呼んできてよw」

「だーめだってお水飲ませてもらってんだから」

「まあまあ、無事帰ってきてくれてよかったじゃないか」

「それな」

「それはそうだねぇ」


「レイちゃーん⋯⋯唱子先輩までいてくれるってぇ⋯⋯」


「あ、ただいま、ちゅ⋯⋯」

「ん⋯⋯お酒くさいです。ちょっと」

 ????

 えっ⋯⋯

 キスしてた?

 おめでとうございます

 てえてえ⋯⋯

 コメント欄はもう見ないことにする。

「⋯⋯一応言っておくけれど、音拾っているよレイ」

「あはは、やっべ⋯⋯」

 これも匂わせのプランのうちだ。

「ま、いいじゃんいいじゃん。次のマッチいこー」

「そうだね。レイとアヤはとっても仲が良いからね、それでいいのさ」

「ありがとう、その、変わらずにいてくれて⋯⋯」

 その後は一発で二枚抜き、グレネード投げ失敗で三人とも吹っ飛ぶ、蒼真の見事な10連続キルと、同居人オーディションの合格者さんの年上の女性のお声が判明(あらあらうふふ系上品落ち着いたお姉さんボイス)する、なかなか盛り上がった。

「レイちゃんごめんねぇ、呑みすぎちまったよぉ⋯⋯お水片手のアヤでーす⋯⋯」

「唱子先輩にお中元送らないとですね」

「今度見に行こうね、うへへ⋯⋯うーい⋯⋯」

「アヤさんまだ酔ってんのかーい」

 かわいい、マジで天使。

 こんな最強美人が彼女って、結婚誓った人って、夢のようだよね。

「明日の昼ごはんは一緒に食べられるよね?」

「はい。少しゆっくり食べられそうです」

 心地の良い喋る時間が喜びだ。

 私達がどういう関係かを公にする時が来たのだ。

 やっと事務所側との協議が終わったからだ。

「え、何食べたい?フレンチトースト作ったの?ありがとー」

「たまたま事務所から美味しい食パンもらってて、それで作ってみました」

「夕食はアタシがやってもいいかな。鍋にしよって思ってて」

「私も手伝いますから、二人でやりましょう」

 やっと、アヤさんの願いが一つ叶えられる。

 二人でやらなきゃだめなんです。

 私と彩さんが目指すのは、婦妻、なんですから。

「ありがと、いつも手伝ってくれて⋯⋯」

「どういたしまして。アヤさん」

 あ、二人がいるんだった。

 話してると二人だけの世界に行ってしまうね。

「おい惚気すぎだろおおお!」

「流石の僕でも胸焼けがしてきたような気がするよ」

 その後のマッチはアヤさんが見ていたので、かっこつけようとして三連続最後まで残れず。


 クッソ悔しくてもう一回戦をやったらやっと勝てた。


「まぁ、今日はこの辺にしておこうか」

「ふーあ⋯⋯そうだねぇ、モガは寝ます」

「うし、じゃあこんなところで終わりにしましょうかね」

「ということで、チームヤマノハのレイと?」

「モガちゃんと!」

「蒼真でした」


「ばいばーい!」


「⋯⋯うい、おつかれぇ」

 二人に労いの言葉をかけた。

 もう遅いので寝ないとなと思いつつだった。


「モガはもうスキンケアしたら寝る〜」

「僕も、ふぁああ⋯⋯そうするよ⋯⋯」

「はーい、じゃあ明日も練習よろしくでーす」

「アヤさんにもよろぴく」

「よろしく。じゃあね」


 枠も通話もバッチリオフにした。

 よし、愛の巣で寝よう。


「さぁ、レイアヤをこれから更に進化させちゃうぞ!」

「⋯⋯一人でなにやってんの、寝るよ」


 かっこつけらんないや、へへ⋯⋯


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る