【レイアヤ】さようなら夏の日【振り返り】#23

 彩さんがレズビアンであるということを公表した、結婚に向けての大きな一歩の配信が終わった後のこと、宵闇さんが個人的に話しかけてきた。


「実は、ずっと謝りたかったことがあるんです」


 彼女いわく、かなり前に、ENとしてコラボした時に「セクシャリティは揺れるものだから、決めつけるのはまだ早い」と、デリカシーのない、配慮に欠けた発言をしてしまった。

 心に引っかかって、小骨のように取れずにいたという。

「アヤのことをよく知らなかったのに、色々言ってごめんなさい。セクシャリティの流動性なんて暴論を迷いの中にいる貴女に言うべきはなかったわ」

 声だけを聞いても頭を下げているのが分かった。

「⋯⋯打ち明けてくれてありがとう、クロコちゃん。でもね、クロコちゃんの言葉のお陰で、自分としっかり向き合うようになって、今の自分らしさを見つけられたんだ」

「でも、アヤを傷つけたのは良くないことだし⋯⋯」

「もう謝ってくれたでしょ?だからもういいの」

 アヤさんが許すと言うなら、私はそれに従うだけだ。

 とにかく彼女は、また少し息をしやすくなったのだと思う。

「レイもいるよね?」

 気づくよね⋯⋯

「⋯⋯すみません。勝手に聞いてました」

「アヤの人生のパートナーだもんね。居たって何も問題ないよ」

「ありがとうございます」 

 パートナーかぁ。

 そうだよね、最終的に結婚するんだもんね。

「レイもごめん。これからは、できることがあったらサポートするって約束する」

「じゃ、お言葉に甘えて、頼らせてもらいますよ。クロコさん」


 また一つ、過去を超える事ができた。


「レイアヤの壁、今月の振り返り〜!」

「いえーい、ぱちぱちぱち」


 私は毎日、レイちゃんと出会って良かったと思っている。

 月に一度の振り返りの枠である。

 ライブがあったので、約一ヶ月ぶりの配信となった。

 夏から秋に季節が移り変わっていた。

 レイアヤとして壁を始めて二年目となった。

 リスナーさんの皆のお陰で、やっと定番配信として広まった。

「まずは1stライブ、お疲れさまでした」

「いやマジで疲れたねぇ、本当にお疲れさまでした」

「まさか蒼真がなくとは思わなかったですよ」

「そうだね。蒼真くんは一番頑張ってたもん。全員揃ったことが何より嬉しいことだったね」

 グッズも好評で、リスナーさん達も喜んでくれた。

 もう一つ、ライブが終わった後にも嬉しいことがあった。

 アヤさんがセクシャリティを公表した後、ヤマノハのメンバー達がSNSで、リプライではなく個人的なメッセージとして、サポートの言葉を送ってくれた。

 リスナーの中で残念ながら否定的な意見も見られた。

 悲しいことだ。彼女の何を見ていたんだ。

 それでも恐れずに「何があっても、変わらず私達は貴女の仲間です」ということを、みんななりの言葉で言ってくれた。心が救われた。本当に嬉しかった。

「ライブ後にね、私のプライベートな発表でお騒がせしたと思うんだけど、他のメンバーからいろいろな言葉をもらって本当に嬉しかったなって思いました。みんなありがとう」

 自分からその話をする勇気に胸が熱くなった。

「私もその一人です。リスナー、あやめいとの皆も変わらずアヤさんを支えてあげてね」

 自分が恋人だと言ってしまいたい。

 でも、アヤさんには迷惑はかけたくない。

「え、好きなタイプ聞きたいの?今?」

 と思ったらコメントに爆弾が投下された。

「うひッッッッッ⋯⋯!」

 え?

 レイちゃんどした

「どうしたの、レイちゃん」

 アヤさんが手を握ってきた。

「い、いや、なんでもないですよ⋯⋯ははは⋯⋯」

「私のタイプは、優しい人かな。甘やかしてほしいってわけじゃないけど、一人でいるのは苦手な性格だからくっついたりさせてくれると嬉しいなって思う」

 レイちゃんはどう?

 お似合いじゃないっすか

 レイアヤはあるって言ってるでしょ

「あー⋯⋯それは⋯⋯」

「うん。私は全然アリだよ?そもそも同棲してる時点で、一緒に生活していて過ごしやすいなって思ってたから住んでるわけだし、好感度は高いよね」

 更にアヤさんが密着してきた。

 体温と心音が肌を通じて伝わってくる。

 少しだけ早いビートを刻んでいた。

「そう、なんですか⋯⋯へぇ⋯⋯」

 汗ばんできた気がする。

 最近はお互い忙しかったからデキてなかったせいで、正直かなりムラついている。その中でここまでのことをされるのは色々と辛いことになる。

「レイちゃんから見たらどうなの、私って⋯⋯」

 アヤさんはじっとこちらを見つめてくる。

 言ってほしい。そう、目で訴えているのが見て取れた。

 皆が見ている前で、言って欲しいと。

「⋯⋯アヤさんは、私が事務所に入る前から、あ、バーチャル一般リスナーだった頃の話ですね。その時からずっと、誠実な人柄と力強い歌声のファンでした。だから、今でもそれは変わってなくてですね、そんなアヤさんが今も素敵だなって思ってます。好きです。こんな感じでどうでしょう」

 配信者としてはいけないのかもしれないけど、アヤさんしか見てない。

 コメントも追ってない。

 やばい速度で流れているのが視線の端で見えた。

「そ、そう⋯⋯なんだ、そんなに私のこと想ってくれてたんだ。いつも配信中にあんまり聞いたことなかったから、あの、びっくりしてる⋯⋯」

 アヤさんに向けて、配信上で愛をはっきりと伝えた。

 この枠はトレンドに乗るほどの異例の盛り上がりを見せた。

 その後は、日常のありふれた雑談配信として時間が過ぎていった。


「ではこのへんで今日は終わります」

「明日も頑張ろうね、ばいばい」

「じゃあね」


 少し遠い位置の音をマイクが拾った。


「お疲れさま、レイちゃん⋯⋯」

 ぎしっ⋯⋯

「アヤさん降りて下さいって」

「やだ」

「⋯⋯今日はしませんからね?ちょ、アヤさ」

 微かに水気のある音が聞こえる。ように思われる。

 本当に小さい声が耳をすませば聞き取れるような音量で流れている。


「あ、やべ⋯⋯」


 どたどたどた!

 ガッ!がちゃがちゃ!

「切れてなかったわ、じゃ、また明日、朝枠で⋯⋯」


 配信終了。


「はい、こんな感じでどうでしょう」

「う、うん、ちょっと悪いことしてるみたいで楽しくなっちゃった⋯⋯」

 アヤさんがもっと踏み込んでしまおうと思ってアクションを起こしていたのを理解した。

 それに私も乗ったのである。

「悪いことじゃないです。これはイイことですよ」

 彼女をベッドに押し倒した。

「れ、玲ちゃん?今日はもう寝るんでしょ?」

「すみません、もう我慢出来ないので抱かせてもらいます」

「うん、分かった⋯⋯♡」


 彩さんが目を閉じた。


 今日こそ、やりすぎないようにしなきゃな⋯⋯



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