二十枠目 いつの間に押していた背中

「あたしさ、女の子と付き合ってたことあんだよね」

 

 驚いたが、その暇もなく居酒屋に着いた。

 飲みの席での雑談のテンションで言われるには重大なことだった。

 しかし、モガは話が重くならないように気を使ってくれたんだと思う。

 彼女なりの優しさだ。

「へぇ、そうなんだ。知らなかったや」

「その、教えてくれてありがとうね、モガちゃん」

 モガがやっと笑った。

「今日声かけたのはさ、二人の3D化のやつ観てたら会いたくなったんだ。他のメンバーは予定合わなくて来られなかったけど、みんな放送見てたと思うしお祝いしてくれてると思うよ」

「そうなんだ!うれしー!じゃあ、一回くらいヤマトで集まりたいよね?」

「流石アヤちゃん、分かってんね〜」

「でしょぉ?」

 この二人は相性良いだろうなと思ってた。

「あ、頼んだの来た、はい、ありがとうございます。はいー」

 アヤさんはハイボール。私はカシオレ、モガはノンアルビールを頼んだ。

 配信の中でも外でも、私以外の前でも、アヤさんの元々の持っている良さが、だんだんとより多く出せるようになってきていると感じている。

「じゃあ、3D化配信成功おめでとうございます。カンパーイ!」

「はい、乾杯」

「いえーい!乾杯!」

 モガと会うのが久しぶりで他愛ない雑談から始めた。

「そう言えばなんで急に祝ってくれる気になったの?」

 モガはインドアな人間なので遊ぶ時は家に遊びに行くことが大半だったので、こうしてお店に誘ってくるなんて珍しいことだった。 

 焼き鳥のねぎまを頬張って味わう。

「あぁ、いやさ、アヤちゃんが配信で、自分のかなりパーソナルな部分を話してるの聞いててさ、私、自分のこと隠さなくてもいいんだって思えたんだ。だからそのお礼がしたかっただけ」

 自分の身の上話をしたがらない彼女が語ってくれた。

 それが嬉しかった。

「そうなんだ。いやぁ、あのモガちゃんが立派に育って嬉しいよお姉さんは⋯⋯」

「あの生意気だったヤツとは思えないねぇ。偉い偉い」

「もっと褒めていいよ」

 照れ隠しか、可愛いな。

 どんな子と付き合っていたのか話してくれた。

「お互いに高校生だったから受験期に入って、自然消滅しちゃったんだけどね」

「初めて同士で距離感わからなくなって辛い思いさせたと思う」

「もう一度会えたら、なんて思うこともあるけど」

「相方には、そんなこと言ったら迷惑がられると思うけどね」

 振られる側って、引きずるよね⋯⋯

「ごめん、なんか思い出させちゃって」

「アタシもそういうの経験あるから分かるよ、じゃあ今日はアヤちゃん先輩が代わりに呑んであげるから任せてね!日本酒頼んじゃお!」

 便乗して呑みたいだけかーい!

「お酒代はこっちが出すから」

「え゛ッッッ⋯⋯」

 奢ってくれる気でいるが、先にお会計してスマートにやろう。

「舟盛りいっていいっすか先輩」

「後輩上手いよねほんと」

「末っ子だからね」

「なるほどね」

 アヤさんにつられてつまみを中心に頼んでいた。

 軟骨うんまい。

 だし巻き後で注文しとこう。


 しばらく経ってアヤさんが甘えてきた。


「ねえ、もう一杯レモンサワー呑んでいい?」

 腕に抱きついて言われると弱いんだよね⋯⋯

「これで今日は終わりですよ」

「やったぁ、レイちゃんちゅきちゅき♡」

 ほっぺに猛烈キス。

 あ、モガいんだった。

 やっべめっちゃ見られてる。

「二人ってやっぱり付き合ってんだね」

 これは認めるしかない。

「⋯⋯はい、そういうことです」

「あ、そっか。モガちゃんにはまだ言ってなかったっけ」

 隠すようなことじゃない。

 モガに知っていてほしいことではあった。

 友人として。

「まぁ、薄々そうじゃないかなって思ってたから、あんまり驚かなかったかな」

 イチャイチャしすぎてたかぁ⋯⋯

 だいぶ恥ずかしいぞこれ。

「それでここまでしてくれたの?」

「後もう一個は、謝りたいことがあってね。ずっと前にさ、誰と付き合うかみたいな話をふざけて振っちゃったじゃん?あれを、アヤちゃんに謝りたかったのもあるんだ」

 私も忘れていたことだった。

「謝ることなんてしないで、もう怒ってないから大丈夫だからね。よしよーし、あの時はアタシも強い言い方しちゃってごめんね?」

 自分から謝ることすらできる。

 なんて優しいんだ、アヤさんは凄いよ。

「ううん、なんかやらかす前で良かったなって思ってたんだ」

 アヤさんがモガを撫でる。

「うんうん、そっか、モガちゃんも誰か傷つけて、モガちゃん自身が嫌な思いする前で良かったよ」

「アヤちゃん、ありがとう」

 二人はやっと仕事仲間から友人になった。

「じゃあ、これからもお互いに配信者として喋ることにも気を配っていこうね。って言っても、まぁ、他人を一切誰も傷つけないなんてできないのかもしれないけど、それを目指すことはできるから頑張ろうっていうのが、私の考えだったりするんだ」

 舟盛りがやってきた。

 笑っちゃうほど豪華だった。

 楽しい打ち上げの時は過ぎていった。


 ちょうどいい時間だったので、タクシーにモガを載せて見送った。


「やーん⋯⋯酔っちゃったかもぉ⋯⋯」

「煽りすぎですよ、アヤさん。こっちも酔ってるんで、家に帰ったら覚悟してくださいね?」


「え⋯⋯」


 次の日は、枯れて、配信で全く声がでなくなったらしい。

 やりすぎました。てへ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る