新衣装お披露目会【神出鬼没】 #17
「どうもー。定刻になったのでお披露目会を始めます。えっと、アヤさんにアシスタントとして呼ばれてきた司会の斑鳩レイなんですけど、肝心のアヤさんが居ませんね、どこ行ったんだろ」
アヤさんの新衣装は、ママであるリリ太郎♀先生と二人で作り上げた、渾身の新衣装であり「彩さん」自身が持っている要素を盛り込んだものになっている。
本人の希望で、初期衣装より露出度が抑えられている。
初期衣装は、リリ太郎ママも仕事として衣装を作ったので、事務所側からのチェックを受けるのが決まっていたために、好意的に写るよう二人の合意の元、やむを得ず衣装の一部に露出があったりターゲット客層の受けの良いキャラクターの体つき、セクシーさを感じるものになっていた。
活動を続けるためにはリスナーがいなければいけない。
アヤさんもそれは十分わかっていたはずだ。
勿論気に入っていたから採用され、変えずに使い続けていたんだろう。
今回は、事務所にデザイン案を変更しないことを約束させたらしい。
アヤさんが自分を隠さずにいられるような環境づくりをしたいと思っているが、この新衣装はその偉業へ向けた大きな第一歩となることだろう。
髪色は白のまま。髪型はよりリアリティを高めるように、本人の髪型のショートカット、左耳には涙型のイヤリングがしっかりと見えるようになっている。
着ている衣装は、着崩したワイシャツにパーカーを開いて着ていて、正面に「I’m crazy about Smells Like ''Teen Spirit'' Girl」と書いてあるが、リスナーは読むことはできない。
そして、フードから ネコの耳が生えている。
ティーン・スピリットは女の子向けシャンプーのことらしい。
履いているスキニージーンズはダメージ加工がしてある。
左手には電子タバコを持っている。
これは事務所から許可が出た。
「お披露目会だっていうのに主役が来ないなんてびっくりですなぁ⋯⋯」
リスナーから心配の声が上がる。
待機所もSNSへの告知も急だったので面食らったことだろう。
「昨日もアヤさんに早く寝てねって言ったんですけど、提出物溜めてたのを私が見つけちゃって、明日新衣装なのにヤバいじゃんって言って二人でヒイヒイいいながら書いたんです」
コメント欄も活気ついてきた。
「作業終わったのが十二時ぐらいで、そのままベッドに直行したんですよ」
てぇてぇ⋯⋯
レイアヤはやっぱりガチ
やはり供給ありがたい
公式が最王手でとても嬉しい
素敵すぎる
「おねむアヤさんずっと眺めてられるんだよなぁ⋯⋯」
そういう匂わせいいいから
かっちーん、ライン超えだよそのコメント。
「匂わせっていうけど、そのつもりないけどなぁ。昨日の夜にあったこと話してるだけだし」
このタイミングでマイクオンにする。
空気悪くなりそうだったし。
「⋯⋯こら、アタシのこと喋りすぎ。ちょっと恥ずかしいじゃん」
「すみません、アヤさんの寝顔の良さを布教したくなっちゃってつい」
声だけの登場になった。
「ごめんねみんな。着替えてたら遅れちゃった。レイちゃんごめんね♡」
「まぁ、結果的に良い感じに焦らせたからオッケーってことで⋯⋯え、甘やかしすぎ?だってあんな良い顔でごめんねって言われちゃったら許すでしょ誰でも⋯⋯」
私の彼女はマジで顔がいい。
歌もうまいし優しいし料理はうまいしいい匂いするし、好きだ。
こっちから告った彼女、甘やかしたくなるのはしょうがない。
「レイちゃんありがと。じゃあ早速だけど、新しい衣装もう見せちゃおうかな。いくよ~」
背景は新たに、自宅にある配信部屋をもとに、お披露目枠の為に作ってもらった。
コメント欄も待ち切れないようだ。
「画面一回切り替えます」
はーい!
わくわくわくわく
見せて〜
「はい、着替えたよ。どう?」
ねこみみ?
え、カッコよすぎ
クール系お姉さんだ!
「でしょ、ねこみみ気に入ってんの。あとこれ、イヤリングも」
「アタシってさ、自分でもネコっぽいところあるなって思ってて。ねぇ、レイちゃん?」
そりゃあもう、バチコリ抱いてますから知ってますよ。
心のなかで相槌を打つ。
「可愛いところもネコっぽいですよ」
ベッドの上で見てますとは言えず誤魔化した。
年齢制限付いちゃうから⋯⋯
「でしょ。そうだ、ママのリリ太郎は配信でも言ってるように、高校からの女友達だからアタシのことかなり知ってるワケ。だから衣装に関してしっかり話し合ったの」
「いやぁ、でも髪、バッサリいきましたね」
最も驚かれた変化だっただろう。
「そーそー。頭涼しいし、いいことばっかりだよ」
「それとしっぽも可愛いですよ」
「ひゃ⋯⋯もう、急に触んないでよ」
「うわ、さらさらしてて柔らかくて、なんか面白い」
尻尾が生えているであろう場所を撫でる。
「ちょっと、もう。枠が終わったら後で触らせてあげるから」
腰細っそ⋯⋯内蔵入ってんのこれ⋯⋯
尾てい骨のあたりをトントンと軽く叩いてみる。
だんだん耳が赤くなってきた。
「ちょっと一瞬待ってね」
アヤさん側だけマイクが切れている。
「すみませんでした。今日の服可愛かったからつい」
「照れてるアヤさんも良いですけどね
「リスナーが待ってますよ。マイクつけますね」
これは聞かせるための会話だった。
「ただいま、ってあれ、さっきの聞こえてた?そう、レイちゃんってクールそうに見えて意外とスキンシップ激しいの。寝る前に抱きついてきて甘えてくるんだよね」
「それ言わないでくださいよ、やべー、顔あっついなあ」
それは内緒だったのに。
やられた。
でも許しちゃうんだけどね。
「まぁ、それはそれとして、新しい服どう?」
「そうですね、いつもの格好も素敵ですけど、今回の衣装はラフというか、飾らないアヤさんの本来持っている魅力が出てるなって思いますね。後は何しろねこみみですよ、最高です」
「気に入ってもらえて嬉しいけど、急に素直すぎてビビるんだけど⋯⋯」
「えぇ?いつもこのぐらい褒めてるじゃないですか」
いちゃいちゃしやがって
羨ましいぞ!
これが正妻の余裕か
俺等のアヤさんが⋯⋯
BSSなんだけど
「⋯⋯そろそろ猫吸いしたくなってきたんで、終わりにしませんか」
「あぁ、もうかまって欲しくなってきちゃったんだ。しょうがないな、もう」
アヤさんが自分のすべてを隠し続けるのはやめたいと思った理由が分かった。
リスナーから好意的な声は嬉しいという前提にはなるが、アヤさんは、基本的に男性に対して強い忌避感を持っている。体格の差に少なからず恐ろしさを感じるのだという。
苦手であるということは何度か配信でも言っていた。
状況を整理すると、アヤさんはデビューして四年目の時に、新グループの「ヤマトノコトノハ」に助っ人として、チャンネル登録数が伸び悩んでいた事もあり、加入することになった。
事務所のスタッフや同期、先輩たちといった「仕事仲間」として一定の距離感を持てば、男性と接することができるようになってきた。
だが、忌避感がある性別に、直接的な感情を向けられるのは、やはり大きなストレスだった。
さらに、アヤめいとにも不誠実に接しているとも思っているようだった。
男性ファンにもアヤさんは諦めてもらいたい、これは私個人の思いでもある。
本当の自分を見せたい。知ってほしい。私はここにいる。彼女の叫び。
アヤさんが望むなら、なんだってやる。
「お披露目会、お開きとさせていただきます。ありがとうございました」
「じゃあね、ばいばい」
ED曲は新曲の「Luv Myself Again」だった。
私はアヤさんも「彩さん」も笑顔でいてほしい。
ただそれだけだった。
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