【お知らせ】大切なお話があります【レイアヤ】#16

「ヤバい、緊張する⋯⋯やっぱ一本吸ってこようかな⋯⋯」

「さっきも聞きましたって。駄目、吸いすぎです」

 ガサゴソと卓上を探る音。

 BGMを鳴らすスイッチャーだろうか。

「あれ、これってなんのランプ?」

「え、同じの買ったって、引っ越しの日に言ってたじゃないですか」

「届いたの昨日で、一人でテストも一回もしてないんだもん!」

「昨日練習したでしょ一回!てか、それで画面を変に弄るのやめなさいって⋯⋯ぶッ⋯⋯wもう配信付いてるよアヤさんw」

「⋯⋯やっべぇ、笑ってる場合じゃないって」

 待機画面なのにマイクオン。

 気がつくまで五分掛かりました。

 持ってるなぁ⋯⋯

「ちょっともう、ん゛うん゛あああ⋯⋯うん゛⋯⋯すーーーーーッ⋯⋯忘れろ~~~~~~ビ~~~~~~ムううううううううううううう~~~~~~!」

 ⋯⋯私は何を?

 ここは誰わたしは何処

 さっきまで見てた画像知らない?

 聞いたことあるビーム来たな

「はーい、レイアヤのレイ、斑鳩レイでーす」

「レイアヤのアヤ、城ヶ崎アヤでスーーーっ⋯⋯もう無理か、素バレだもんな⋯⋯」

「素じゃない素じゃない、ボイチェンボイチェン、ね?」

「そうだねレイちゃん!というわけで、プチご報告会始めるよ!」

 どんなアヤさんでも好き!

 喫煙者ハスキーボイスアヤさんとか二次創作かよ

 これ本家だぞたわけ

 さっきの会話で察した

 切り抜き確定ぇ!

「公式で切り抜くので待っててね」

「アヤさん!?」

「妄想の余地はあったほうがいいかなって」

「悪い女だねぇ⋯⋯」

 ざわつくコメント欄。

 アヤさんを見つめると頷いた。

 BGMを下げる。


「えっとね、みんなにプチ報告があります。まあ、人によっては大事なのかな」


「私達レイアヤは!」

「同居して一緒に住んでます!」


 なんやて?

 レイアヤマジ同棲ッ!レイアヤマジ同棲ッ!

 ワア⋯⋯(尊死)

 すばらしい!

 ブラボー!

 アヤが収益切ったのそういうことかよ

 匂わせだけやっとけよ

 ガチかよ

 

「みんなありがとう、よかったよかった。もしかしたら拒否のリアクションされるかもなって思ってたから、あぁ⋯⋯安心した⋯⋯よかった、ありがとね。アヤめいとのみんな⋯⋯」

「ほらほら泣かない泣かない、めでたい日は笑顔、でしょ?」

 そう言う私も、どうなるか不安ではあった。

 ホッとしている。

 やっと緊張が解けた。

 気になるコメントがあったのは残念な気持ちになったし腹も立った。

 ただ、そのような反応があるのも仕方ないとは思う。

「色んな受け止め方があってもいいけど、あんまり変なコメントはしないほうがいいよ。私はいいけど事務所側の法務部は肩グルングルンにして待ち構えてるからさ」

 しかし、アヤさんは、最初からリスナーに向けて真摯に活動していた。そんな酷いことを言われるのは筋違いだ。特定の誰かを指しているわけではないが、伸び悩んだ時にやりがちな数字を求めてエロティックな新衣装は着たこともなく、ASMRもやってないし、わざと思わせぶりな発言もしていない。

 あまり良くないタイプの稼ぎ方をするのはアヤさんの哲学に反するからやらなかったんだ。

「真面目な話はここまで。じゃあ、新居のお話をしていこうと思います」

「ちょっとお休みの時があったと思うんだけど、そこで決めてきたの」

「大変だったんだよ⋯⋯それがさ⋯⋯」

 滑り出しのハプニングもなんとか受け流して枠が始まった。

「ネットニュースになるかな。Vtubeの斑鳩レイと城ヶ崎アヤが同棲発表。業界騒然みたいな」

「取材待ってますけどね。勝手にインタビュー受けたら怒られそうだからやらないですけど」

 リスナー達へ経緯を一部説明した。

 特定されないように慎重に話す。

 女二人の引っ越しの大変さ、Vの審査ウケは本当に悪いこと、思いつきで決めたコンセントの増設はかなり面倒なこと、防音室は意外と高いことは伝わっただろう。

「今日はちょっと短いけどここまでにしますか」

「そうだね、ということでちょっと早いけどここまでにするね」

「お疲れさんでした」

「ばいばい」

 しっかりとマイクを切った。

 放送事故回があるのは今日が最後だ。

「今日は助かったよ、レイちゃんが居てくれなかったらどうなってたかわかんなかった⋯⋯」

「いえ、そもそも機材の使い方をしっかりと二人で確認すべきでした。特定につながる場合もあるのに、茶化す流れにして申し訳なかったです」

 配信者として立ち回っているのが板についてきて嫌になる。

「私が気をつければよかった話だから、レイちゃんは謝らなくていいよ」

 彩さんはいい人すぎる。

 甘えちゃいけない。

 彼女はいつか潰れてしまう、自分の善性に。

「⋯⋯じゃあ、二人で反省ってことにしましょう」

「そうだね、それもそうか」

 空気を変えよう。

「それじゃあ、コーヒーブレイクにでもしましょうか」

 二人のチルタイム。

 枠が終わった後のルーティンであるSNS巡回をする。

 彩さんを守るためだ。


「私、いつまで隠していればいいんだろ、本当の自分⋯⋯」


 そう言われて、何も答えてあげられなかった。

 彩さんがしたいことは全てさせてあげたいという新たな思いが生まれた。

「そうですよ、隠さなきゃいけないなんて言うような奴の声は聞かなくていいですもん。彩さんは全てが素晴らしい。私の彼女は最上の女性なんですから」

 彩さんの為なら何でもやってやる。


 これより、匂わせ作戦を開始する。



 

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