第31話


「僕はあの子に嘘の情報を流し込んだんだ」

「嘘?」

「そう」

麗の涙も止まり、行ってしまったバスももうとっくに見えない。そんな時、まだ手を振っている酒鬼さんに麗は話しかけた。

それは律花と天界で最初にあった時の事だ。

「律花がここに来たときに、僕は知識をまず吹き込んだ。だってあまりに幼いと話にならないからね」

「まあそうだな」

「次に僕は律花の死ぬ際を偽装した」

「死ぬ際を偽装…?」

麗の言葉に首を傾げる酒鬼さんに麗は顎を引き、

「そう。本当は律花が交通事故に遭った直後、お母さんなんて来てないんだ」

律花が交通事故に遭ってから最初に見たのは、警察官だ。確か名札には大空…そう書いてあった気がする。

「でもなんで…」

「それは、この世界でお母さんに会わせない為だったんだ」

「もしそうなら失敗してるじゃねぇか」

酒鬼さんはまだ手を振って、その状態で麗にツッコミを入れた。

「本当は律花にはお母さんには合わせる顔が無い…そう思ってもらってそのまま僕が上手く騙して今みたいに送り出す予定だった」

「でもなんで、幸せそうだったじゃないか」

「それは結果論だ。事実お母さんに律花が会った時の精神状態は心配するほどだった。あの時は無理やり記憶を消そうと思って、ここに来たんだ」

「ハッ!」

全てを察したように酒鬼さんは笑い飛ばし、続けた。

「記憶の削除を俺に手伝って欲しいと、」

「そうなんだ」

「おかしいと思ったんだ。新入りのお前が俺を頼るなんて、だが。俺はその願いを叶えてはやらなかったと思うぞ」

「だからどうしようかと思ったんだが、そんな時に律花のお母さんに何かあったんだ」

その場のノリと勢いで。そう続けた麗は少し黙り込んで酒鬼さんを見やった。

「まぁ終わりよければなんとやらだ」

「それもそうですね」

だが、もうそんな悩みしなくてもいいらしい。

律花のことは心配で、本当の所送り出したいと言ったものの、神様になっていて欲しいというのも嘘ではない。

だけど、律花の幸せを願うなら麗自身、今の選択を間違ったなんて思っていない。

そんな思いを噛み締めて、ようやく手を振るのをやめた酒鬼さんと後ろを向いた。






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