不安
第12話
「今日は遊びに行かないかい?」
それを聞いた瞬間、あたしは正気なのか?と耳を疑った。その麗の言葉には麗の言ったことと矛盾しており、昨日確かめ合った共通認識『ここで焦っても何も産まない』と意を反したことである。
焦っても何も産まないが、勿論遊んで良い訳ではない。その間、計画を練って最高の結果を一つ作るのというのが焦らないと言うことだ。それなのに、今日は遊びに行かないか?とはどう言うことだ。
ただでさえ時間が無いのに、遊んでいる暇なんてあるはずもない。
「何言ってるの?そんな時間ないよね?」
場の空気が少し悪くなった。
ピンと張った紐が部屋中に張り巡らせている中を、掻き分けて進むような、そんな空気を感じながら麗は笑って、
「違う違う」
と呑気に言い放った。
やはり麗の言っていることが理解できない。何が違うのか。何も違わない。時間が無い中作戦を考えずに遊ぶと言っている所の何が違うのか、百文字以内で簡潔に説明して欲しい。
「そんな目をしないでくれよ」
「——」
そんな目をするなと言われても、意識してなくても、そんな目になってしまう事をそっちが言っている事を、まず理解して欲しい。それでも違うって言うならば——、
「どう言う事なの?」
少しでも優しくと、柔らかく言ってあたしは優しい。
そんな若干ナルシスト気味なあたしを見て、麗は待ってましたと言わんばかりのドヤ顔を見せて、あたしの事をジッと見ながら口を開いた。
「今日は作戦の考えようが無いんだ」
「考えようが無い…?」
「そう。今日は君のお母さんは何も動きを見せない」
「なんでそんなこと分かるの…?」
「——禁則事項です」
質問するあたしに、麗は指を立ててそう言うのだった。
なぜかその瞬間だけ麗が女の子っぽく見えたが、それはあたしの勘違いだろう。そんなことよりも、なぜ麗はそんな事が分かるのだろうか。禁則事項と言っても、教えてくれないと、あたしは素直に麗に付いて行けない。
——ただでさえ時間が無いのだ。
そんな意味の分からない理由で遊びに行くくらいなら、あたし一人でもお母さんの事を観察したいし、作戦だって考えたい。
「ごめんごめん」
てへぺろと漫画なら書かれそうな、そんな感じの言い方で謝る麗は再び謝り「ちゃんと理由があるんだ」と前置きをして、改まって話し始めた。
「失礼を承知で君のお父さんとお母さんの手帳、そしてカレンダーを見させて貰ったんだ。そこには今日は二人で病院に行く日だったんだ」
「病院…?」
「そう。精神科だ。あんな状態の妻をほっとく夫なんてこの世に存在しないよ」
「そっか。だから…」
「そう。それに今日遊びに行くと言っても、遊ぶという建前で勉強に行くんだ」
「勉強…?」
「そう。君はこの世界の事を知らなすぎる。だからこの世界について学んでもらうんだ」
なるほど。確かに病院に行くならあたし達の出番はなさそうだ。それにあたしがこの世界を知らないと言うのは、ごもっともな事だ。未だにあたしがここに立っていることが理解できていない。昨日の説明で多少は理解できても、完璧ではない。それが少し痒い感じもする。
確かにそれなら今日の遊ぶと云う行為は有意義に思える。
「理解してくれたかな」
「ま、まぁ」
すると麗は分かりやすくニッコリと笑って「最後に、」とまだ何かあるのか、あたしに話し掛ける。
「許可を」
突然の意味の分からない問いかけにあたしは困惑する。
あわあわとしてしまう、あたしに麗は驚きを見せて耳打ちをしてきた。
「(よし。やっちまえって言うんだよ)」
「よ、よし…なんだよーそれぇー!」
「許可を」
「よ、よし…や、やっちまえ…?」
それが必要かと言われれば、間違いなく必要無いと断言できるが、気分を上げると云う事でみれば、あっても良いのかもしれない。
実際、それで元気になっている人が一名。麗は子供のような無邪気な笑みを浮かべていた。
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