第9話

「で、説明してほしいんだけど、なんであたしの体は変わっちゃったの?」

今更というか、さっき聞いたきがするが、あたしの体は何かおかしい。この胸の膨らみといい、身長といい。

まるでお母さんのような体つきだ。

「正直分からないんだ。この世界に適応する体になったんじゃないかな」

「この世界に適応する…?」

「うん。あの小さい体じゃ不都合極まりないだろ」

「うーんそう、か」

あまり求めていた答えではないが、なんとなくだが理解はできた。

「じゃあ、あたしを救うってどうするの?」

そう。麗があんなにもなって言っていたこと。それはあたしを救うこと。正直まだ救われるということを受け入れたかと言われれば、そうではない。

「君のお母さん、皐月奈々を救う」

「——」

一瞬の沈黙。それがあたしのその答えに対する答えだ。

凍った空気が解凍されるのも一瞬で、次の瞬間には周りは動いている。色付いた世界であたしは改めて首を傾げた。

「お母さんを助ける?」

疑問は一つ。お母さんを助けることが、あたしを助けることに繋がるのか、だ。

「そう。君が安心して天国に行けるように心残りを無くすんだ」

「ほう」

言われてみれば、心の残りといえばお母さんの事だ。もちろんお父さんの顔を見たいと言うこともあるが、それよりもお母さんを救いたい。

「でもどうするの?」

お母さんを救うことが、あたしの心残りを無くしあたしが助かる。要するにお母さんを救うとあたしを救うを、イコールで結びつけてもいいことは理解した。だが、お母さんがあんな状態だ。どう救えばいいのかなんて、あたしには到底予想もつかない。

「それは君だよ」

「あたし…?」

あたしを指差す麗に首を傾げた。すると麗はニコッと笑い続ける。

「そう君。お母さんは君を求めている。だから君が必要なんだ」

要は、あたしがお母さんに会いにいけばいいと。なるほど。でもそれには——、

「そう。君はこの世界の人間には見えない」

あたしの心を読んだように、麗は続けた。

あたしも確信は無かったが、なんとなくは気づいていた。ただ、改めて言われると複雑な気持ちになる。

「じゃ、じゃあどうするの…」

「あのおばあさん、なんて言ってた?」

「おばあさん?」

長く思考するが、おばあさんに心当たりが無い。

あたしが、目覚めて麗に話しかけられた。そしてあたしは困惑して——、

「虫…」

そう、そうだ。あたしはおばあさんに虫と言われた。

あたしが触れた所に虫などいなかったし、仮にいたとしたらあたしが先に倒れている。なのになんで。

あの時はあたしに言われたと思ったが、今考えれば不自然だ。あたしはおばあさんに見えないはず。だから、あたしに言ったと云うことは無い。そしてあの時は風も吹いていなかった。

「そう」

すると麗は不敵に微笑み「そうなんだ」と声高らかに言い放った。

「僕たちは見えない。だけど僅かだが、僕たちのことを感じることはできる」

「あたしが触れれば、触れたことが相手にも伝わるって事…?」

「そう。だけどほんの少しの感覚だから、ほとんどは気づいてもらえないんだ」

確かに相手に感覚が伝わるのなら、あたしがここに居るよって伝えられるかもしれない——だが、それはうまく行った時の話だ。いきなり触れられる感覚が襲ってきたら、あたしなら叫んでどこか行ってしまう。恐怖だ。

それに僅かな感覚を感じれる時なんてそんなにあるのだろうか。

なんせお母さんは今あんな状態だ。

「——」

麗の話には頷くが、言葉は発せなかった。どう反応すればいいのか、分からなかったからだ。

数分の沈黙の後、口を開いたのは麗だった。

「上手くいかないと思ったらもう一つある」

「え?」

「兎にも角にも、まずはお母さんを観察しよう。時間がたっぷりあるわけじゃ無いんだ。最善を尽くそう」

「時間が無い…って?」

「あんな精神状態の人、ずっと放って置いたら、それこそ手遅れになる」

「——そっか」

焦ってはいけない。だが焦ってしまう。今まで落ち着いていたはずの心臓が、一瞬にして早く鼓動を打ち始めた。

最善を尽くす——それが今あたし達にできる事なんだ。


待っててね。お母さん。お父さん。








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