温もりに溺れたいから

第8話

「君を助けたい。ただそれだけだ」

麗は長く思考したうえ、短く端的にそうあたしに言い放った。あたしの質問の回答には到底ならないその答えを聞いて、あたしは黙り込んだ。

どう反応していいか分からなくて、数秒の沈黙を後に麗が再び口を開いく。

「僕は君を救いたい」

さっきと同じ言葉。だがその言葉には続きがあった。

「君が幸せになってほしい」

あたしは困惑した。今までの麗のクールで冷たい視線はどこにもなく、熱い視線をあたしに向けて、訴えてくるように話してくる。

そのギャップにはあたしも思わず驚いてしまう。だが、そこまでしてくれる理由はなんなのか全く分からなかった。あたしの質問にも答える気は無さそうだし、そもそもまだ麗のことだって知らなすぎる。

よって、あたしが麗に救われる理由も分からない。あたしが麗に何をしたのか。命の恩人か何かなのか。そもそも救いたいとは、何から救いたいのか。

あたしが理解するには言葉が足らなすぎた。

「ごめん…熱くなりすぎた」

身を乗り出した麗は冷静になり、元の位置と戻ると静かになった。見れば下を俯いて、ただじっとしていた。

「ねぇ麗。なんであたしはこの世界にいるの?」

「——」

「ねぇ、麗。なんで黙っちゃう…の…」

言葉尻が弱くなったのは麗を見てからだ。麗はこちらをじっと見ていた。怖いくらいにじっと、まっすぐな視線があたしを突き刺している。

痛いくらいの視線の意味はなんなのか。それが分からず困惑しているあたしに麗は——、

「君は地獄になんて行く必要ない。幸せなところにいてほしいんだ。でも、そんな地獄に連れてきたのはこの僕。だから、地獄から救出するために、僕は君を助ける」

「——」

——律花は自分の思い出この世界に残りたいと思った。だが、それを阻止することは麗にできた。でも、しなかった。

仮に律花がこの世界に残っても辛いことしかない。でも、麗はこの世界に残る律花を認めた。暖かい光を感じたからだ。

それが今となっては後悔だ。律花は麗にとって大切な存在。理由なんてない。律花を見た瞬間から、麗は理解した。

一歩通行の気持ちでも構わない。その気持ちは麗のものということは変わらない。

だから僕は——麗という愚かな神は君。いいや、律花を助けたい。でも——。

「うまく言葉に表せない」

内面では何回も何回も言っていることを、律花の前では言葉に詰まってしまう。何か縛りがあって、それに縛られているようだ。

「ここが地獄って言うなら、麗。ありがとうね」

「——」

何を言っているんだこの少女はと、心の底から麗は思ってしまった。

——僕に感謝?

——僕にありがとう?

なぜ僕が君に感謝されなければいけないんだ。僕は悪だ。悪魔だ。なのに、なのになんで…なんでそんな暖かい目で僕を見るんだ。

「だって麗がいなかったらあたしはこの世界に残れなかったんでしょ」

「——」

「天国ってとこに行っちゃうんでしょ」

「——」

「だったら、ありがとうだよ。だって麗のおかげであたしはお母さんに会えた。あんな姿だったけれど、あれは間違いなくお母さんだよ。あたしはもう一度お母さんに会いたかった。お父さんに会えてないのが、少し寂しいけど、それでもあたしは嬉しかった。だから…」

「——」

「——だから、麗。ありがとう」


この瞬間、僕は救われたような気がした。


「僕に感謝なんて…」

僕に感謝なんて君はおかしいよ。でも。でも君がそう言うんだったら、僕は救われた気がした。だったら尚更僕は君を救わなければならない。

だから改めて——。

「君を救いたい」

「なんか麗のイメージ一瞬で変わったなぁ〜」

「——」

「あたし、麗に救われちゃおうかな〜。ううん。お願いします」

「——ッ!」

僕の視界は一瞬にして光で溢れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る