プロローグ 二章

 いくつの頃だったか……。


 覚えているのは窓ガラスがカラカラと騒音を奏でていた日のこと。


 雨天だからと仕事を中断してくると思っていたのに両親がなかなか帰ってこなかった。


 鍵が開く音で玄関前に向かうと、親父はずぶ濡れになっていた。


 髪がぺたりと水分を含み、至る所から水滴が滴り落ちる。息は若干荒っぽく、鼻水を啜る音が苦しそうだった。


 親父は近づくオレを力強く抱きしめた。頬に触れた指先が濡れた服より冷たくなっていた。


「——野良……お前は家族や友人、誰であろうと首の後ろのことに尋ねられる度に、なにを言っているこかわからないと答え続けろ」


 戸惑うオレに、親父はむせびながら言った。


 なにを言っているのかわからないかったが、母がここにいないことや、珍しく弱っている姿から……疑問を呈することなどできなかった。


「ごめん。ごめんなぁ」


 謝る意味が分からない。でも、それは悲しくて苦しくて、絞り出すように溢れた言葉だった。


「お父さん」


 そういえば、この頃はまだ『親父』とは読んでいなかった。


 外の世界の話をしたときや、美しいものを見たとき、必ずこの出来事を思いだす。


 要塞を抜け出したときも……友人に目標を話したときも……そうだった。


 これは一体、なんというのだろう……。

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