第3話『水たまり踏んだら異世界だった件(なお着地はプリン)』

※不定期更新ですが、ふとしたときに開くドアのように、また新しい話が増えていきます。


***

 学校帰り、コンビニの袋ぶらさげて、雨上がりの道を歩いてた。

 特に何も考えず、水たまりを――


「ビチャッ」


 踏んだ瞬間。


 目の前、真っ白。



 ***


 気がついたら、空を落ちていた。

 下に広がるのは……黄金色のぷるんぷるん。


「……プリン!?いや、着地地点プリンなの!?」


 叫びながらズボッと埋まった僕に、ひとしきりカラメルがかかる。



 ***


「ようこそ、プリン王国へ……」


 現れたのは頭にミントを乗せたローブの少女。


「あなたは伝説の“とろけし者”です」


「何その気まずい称号!あとカラメルしみる!」



 ***


 この国は、水たまりから落ちてきた人間を“デザートの勇者”とみなす文化だった。

 毎日ぷるぷるの戦場でプリン相撲に明け暮れる日々。


「さあ、プリンバトル、はじめッ!」



 ***


 でも僕は知っていた。

 帰る方法が、ひとつだけあることを。


“冷蔵庫の奥から、ババロアが気まぐれに取り出されたときだけ”、

 このプリン異世界の空に、乳白色のゲートが開くのだ。


 しかも――


 > 「そのババロアは、

 自分で買ったことがない人間が“なんとなく”取り出さなければならない」





 ***


 だから僕は待った。


 弟が小腹をすかせる夜。

 母が夕飯のあと、なぜか冷蔵庫を開けたとき。

 祖母が「これ賞味期限ギリね」と独りごちた瞬間――


 ピキッ!


 プリン空間に亀裂が走る!



 ***


「キターーーー!!ババロア召喚ッッ!!!」


 全身カラメルをまとった僕は、すかさずその裂け目へ飛び込んだ!



 ***


 現実世界。

 弟「え、誰ババロア買ったの?」

 母「知らないわよ。でもちょうど食べたかったのよね~」



 ***


 こうして僕は帰還した。

 ぷるぷるだった筋肉だけが、なぜか現実に残った。



 ***


 翌日。


 また水たまりを踏んだら、今度はチーズケーキだった。

 あの弟が冷蔵庫に、**「なんとなく買ったティラミス」**を入れたせいである――。



 ***


 ~完~



 ***

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