モブ(瀬見)『夏の日と蝉』

 街路樹に蝉が引っ付いていた。アブラゼミだった。そいつを片手で持って、家に持ち帰った。なんか、飼ってみようかなって思っただけです。


 そいつの住むところは虫かごにした。虫かごじゃなくてもよかったけど、虫かごだった。鳴きもせず、そいつはじっとしていた。


 蝉、蝉かあ。そういえば、あの夏の日も八月だったなあ。入道雲がもくもくしていた。で、どうなったんだっけな。


 翌朝、蝉が死んでいた。ひっくり返って、羽が透けていた。鳴かない蝉は、透明な貝がらみたいだった。そいつを自分が「飼ってた」とは言えない気がした。


 死体は墓っぽいものを作るでもなく捨てるでもなく、冷蔵庫に入れた。

 蝉のこと、ちょっと忘れてて。冷蔵庫の奥で、まだ夏が固まってる。

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