宮北『あなたへ』
拝啓、と書き出してみたけれど、
あなたの名前は、まだ、わからないままです。
もしかしたら、あなたはいないかもしれないし、
もうどこかへ行ってしまったかもしれない。
でも、わたしは今日、こうして書いています。
わたしが十五のとき、受験期で、だけど志望校も決まらず、偏差値も伸びず、心におもりを抱えていた頃。あなたの言葉に出会いました。
学校の図書室で、なんの本を開いていたのかは忘れてしまいましたが、白い封筒に入った手紙が挟まっていました。
あなたは、わたしと同じ状況に在りました。
自分も苦しいこと、でもあなたは前向きに邁進することを決意したこと、そしてあなたと同じ状況に在る人への応援が書かれていました。
わたしは、その言葉に救われました。その情熱に心が揺さぶられ、透明な雫が頬をつたいました。
とにかく頑張るしかない、と気合を入れ直すことができました。
わたしはいま、十七歳です。そろそろ、どこの大学に進むのか決めなくてはいけません。あのときと同じ状況に在ります。毎日、不安でたまりません。
でも、あなたの言葉を思い直すことにします。あなたのおかげで救われたひとがここにいることを、あなたに伝えてみたかった。
あなたが、これを読むことはないかもしれません。
それでもわたしは、いま、生きている言葉で書きました。
あなたの声が、いつかわたしに届いたように。
わたしのこの手紙も、どこかのあなたに、いつか届きますように。
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