第2話 相棒

零の斜め後ろをスニーカーでテチテチ歩きながら天使のような子供─フェルは先ほど聞いた話を思い出す。──「え?魔王?」


「聞いたことない?なんかこの大陸でそう名乗るやつが現れたらしくてね〜自称魔王とかよく名乗れるね。中二病なのかな?」


───(とか言ってたけど、名乗るってことは獣人ってこと?それともギリギリ獣人されてない種族の突然変異?)


などと考えているうちに、零が入ってきた方とは反対の関所に着く。どの街でもそうだが、危険な愚獣が入ってこないように街を高い壁で囲んでいる。なのでどの街も家の増築をどうやってするか悩んでたりする。


「おい、この先は危ねーからボーッとすんなよ?お前の耐久値が分かるまでは何が危険なのかがわからん。だから自分の身はしばらく自分で守れ」


「は、はい…」


そうして関所から目的の獲物寄り道まで歩いていく。零が何も喋ってくれないので気まずい雰囲気が続く。この状況を打開すべく、テキトーに話を振ってみた


「今まではずっと一人で旅してたんですか?」


「ん?ああそーいえば忘れてた」


そう言うとおもむろにリュックを開けだす。何が入ってるのかが気になり、覗いてみると同時に、白い何かが飛び出してきた。


「きゃっ!なに!?」


飛びたした白いナニカは零の足に巻きつくようにして止まる。よくよく見ると、それは狼のようだ。


「その子は?」


「コイツはポチ」


「名前雑〜」


「冗談冗談。コイツはリール。昔叩きのめしたら懐いた」


「物騒ですね〜」


「クゥ〜ン?」


そんなことを駄弁りながら歩いていくと、ついに目的地に着く。


「これが…」


「ああ。今回の獲物の跡だ」


そういう一同の前には、大量の穴が空いていた。


「なんかゴメンね〜最初の依頼がモグラ叩きで」


「い、いえ。別に獲物の種類にこだわりはないので。それはそれとしてこれどうします?地中まで探しに行くのもあれですし」


「だよな〜…やっぱ崩落かな?」


「エ?」


そう言うとリュックの一部が変形して分離し、酸素ボンベのようになる。そしてフェルに同じく変形、分離した空気入れを手渡して言う


「さあ!空気を入れよう!」


「えー…」


その後小一時間ほど空気を入れ続けた───


───「はぁ…はぁ…空気…入れるの…早くないですか…?」


「慣れてますんで」


そして零は酸素をいれるのに疲れてグッタリしたフェルを放っておいて、リールの両脇に2つの酸素ボンベを着せる。そして謎の球体を咥えさせて穴の中に突入させた。


「だ、大丈夫なんてすか?」 


「もちろん。中で出会ったらちょっとまずいけどまぁ何とかなるでしょ」


「なんでまずいんですか?」


「獲物仕留めちゃう。死体回収できない…」


「あぁそっかぁ…」


そうこうしてる間に、別の穴からリールが勢いよく出てきた。


「よし、準備OK!少し離れよっか」


そう言うと少し遠くへと走る。そしてちょうどいいところで、謎の板を取り出す。


「何ですかそれ」


「スマホ」


「すまほ…?」


話しながら、慣れた手つきでスマホを弄る。と、スマホから機械音でカウントダウンが流れだす。


「0になったら耳を塞いで」


「?わかりました」


そうしてカウントが進み…「3…2…1…0」0になった瞬間、凄まじい轟音が響いた。と同時に地面が大崩落を起こした。耳ふさいでも意味ないじゃん…と思いつつ、フェルはまだ震える脳みそに浮かんだ疑問を聞いてみた。


「な、何をしたんですか…?」


「リールに爆弾運び込ませて吹っ飛ばした」


隣にいる噴き上がった炎と土煙を無表情で眺めるリールを撫でてあげながらそう説明する。


「あの〜…今回の依頼条件って…」


「うん。生かした状態で追い返す」


「生きてます?これ生きてます?」


などといい争いをしていると、突如地面が膨れ上がり、中から丸焦げの塊が飛び出てきた。


「あの〜…コレご依頼の…」


「そう。この地域の主、地帝獣緋土竜バーン・マインだ!」


「名前に大敗してるじゃないですか…緋土竜の緋要素ドコですか?黒土竜でしょこれ?」


「細かいことはいいんだよ」


「いいわけないで…」


その瞬間会話を遮るように緋土竜が前足で叩きつけてきた。しかし、前足を退けるとそこに死体はない。その代わり背後で声がした。


「お〜い?元気〜?」


「無理です今ので首の骨折れました」


「はいはい元気ですね〜」


「いきなり抱きかかえて加速しないでください!痛いです!」


「死ぬよかマシさ」


などとまだ気の抜ける会話を続ける二人。ちゃんと警戒して唸っているリールが相対的にマシに見える。


「なぁ、お前武器持ってる?」


「あ、はい弓があります」 


そう言うと腕輪のペンダントから光輝く弓が生成された。


「…天使〜…」


「?」


「まぁいいや。それでそこから援護してくれ」


「あ、はいわかりました」


必要な会話を済ますと、リュックが大きく変形していく。そして、腕と一体化している超巨大な銃へと変貌した。驚くフェルを置いてリールとともに、緋土竜に銃を轢きづりながら突っ込むと、熊のごとく立ち上がり、迎え撃つ土竜の前足攻撃を消えるようにして避ける。銃を引きずったことでできた跡が、彼が又をくぐったことを表している。そのタイミングで正気を取り戻したフェルが、慌てて弓を放つものの、轟音の割にあっさり弾かれる。それを見て脅威ではないと判断し、跡を辿って後ろを向いた獣の目線の先には、狩人の冷たい"眼"があった。その眼は彼の下腹部へと伸びており―急所こかんに向かって発砲する。しかし、銃口からは何も出ない。にも関わらずなぜか緋土竜は悶え始めた。敵であるはずのリールに慰めてもらってる緋土竜を置いて、諸悪の根源れいはフェルの元へと戻って来る。


「あの〜何したんですか今?」


「?あいつの股間に空気砲ブチ込んだだけだけど?」


「へー?」


「まぁここまですれば街に近寄らねーだろ!」


「依頼達成ですね!」


「クゥ〜ン!」


のちに、かつて地帝獣緋土竜と呼ばれた獣は語る。「アイツラ悪魔や」と──

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