鎖上の楽園
@399
第1話 襲来
ガタン…ゴトン…
静まり返った大地を1台の電車が走る。
線路を挟んで左側には緑豊かな森林が広がり、また反対には広大な砂漠が広がる。まるで、線路が砂漠化をせき止めているようにも映る。
車内に目を向けると、乗客は1人のみ。運転手さえもいない。にも関わらず完璧に走る様子には、ある種の恐怖感を覚える。そして今、その唯一人の乗客が目を開いた。綺麗な碧い瞳を何度か擦り、黒白の髪を少し振るう。と、その衝撃でそばに置いてあったリュックが倒れそうになったので慌てて押さえる。その時、電車がゆっくり減速し始めた。その様子をみて彼は不敵な笑みを浮かべる。
「着いた?」
少し中性的な声で、気の抜けるような言葉を紡ぐ。顔を幾度か叩き、荷物を確認したらようやく地に降り立った。
「よし、行くか」
そう言って少し地響きのする森へと入っていった────
「あれお前かよ!?」
街の隅のようなところで、驚愕の声が響く。しかし声を上げた者も、それ以外の客も皆、人ではない。二足で立って歩くところは人と同様だが、キツネ色の毛に覆われていたり、尻尾があったりなど、差異のほうが大きく目立つ。その中で、唯一の人間である彼─零は、その声に答える。
「おう!あれ俺がやったやつ。ちょっとだけ 火薬の量ミスって大惨事になっちったわ。
変に派手さを求めずに銃使えばよかった…」
ことの発端は街のすぐ側にある森から轟く爆音である。そしてその首謀者こそが零である。なにしてんねん。
「お前のせいでみんなパニックになったんだぞテメェー!あの森の主が出てきたんじゃねーかとビクビクしたわ!」
「まぁその主は俺が花火にしたんだし結果オーライってことで」
などと話していると、一人の子どもが店に飛び込んできた。カウンターで何やら話し込んでいるが、ヒートアップしているのか飛び跳ねながら話しており、そのたびに金色混じりの銀髪と背中の翼が上下する。見た目は完全に天使のようである。
「なんじゃあのガキ?ここを酒場と勘違いしたか?」
「大体似たようなものだし酒場だとしても子供は入っちゃダメだろ」
「つーかなんかお前の種族と似てねーか?」
「確かに。鏡でしか見たことねーなあんな種族」
向かいの男とそう話していると、どうも話が終わったらしく子どもが肩を落として帰っていく。興味が出たので話してた男と別れて、さっきまで対応していたキツネの獣人に事情を聞く。
「あの子?なんかすぐにすごい狩人にならなきゃいけないからって一番すごい狩人を紹介してくれっていい出して…まだ子どもだし狩人の方にも迷惑をかけたらいけないからって帰ってもらったわ。」
「はえ〜なんか深い事情がありそうな感じだな~」
なんの中身も無い相槌を返しながら少し 思案する。
「やっぱ金が欲しいのかな?筋力無さそうだったから多分獲物持ち運べないだろうけど」
などと話していると、隣に座っていた狩人の象人(象の獣人の略。他の獣人も同じ略し方)が声をかけてきた。
「すごい狩人を探しているって言う話ならさ〜、君が預かってみたらいいんじゃない?」
「え〜」
「そうですよ!今この街で一番すごい狩人と言ったら貴方くらいじゃないですか!」
「よせやい褒めても何も出てこねーよ?」
だいぶまんざらでもなさそうに返しながら、その言葉を吟味する。
「確かにいいかもね。俺なら守れるし、一番安全なインターン先だな」
「自信がすごいね〜」
などと話していると、
「今の話、本当ですか!?」
なぜかカウンターの下からさっきの子供が飛び出てきた。
「「なんでそこにいるの(んだ)!?」」
象人と共に驚いていると、狐人からネタバラシされる。
「この子が正面からお願いしに行っても貴方多分了承しないでしょ?」
「まあな。俺ひねくれてるし」
「なんで自信満々なのかわからないんですけど?まあそれは置いといて、だからここで褒め殺しにして言質をとろうと思いまして」
「回りくどいな〜」
「よろしくお願いします!」
狐人の策略にまんまと騙された零は少し天を仰ぎ見ると、
「まあいい。俺の仕事はかなり大変だぞ?」
「はい!大丈夫です!」
「ではこちらの書面にサインをお願いします。あくまで死んでも自己責任ってことで」
「急に敬語になったね?しかもかなりガチな契約だねこれ。何で持ってるのこんな書類?」
象人からツッコミをもらいながらも契約を完了させた。
「これからはよろしくお願いします!それで、いつから仕事は始まりますか?」
「あ〜もう今現在仕事中だ。言っとくべきか。」
そう言うと掲示板に貼ってあった1枚の依頼を手に取り言う。──「魔王」──
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