平等なレビュー

ハユキマコト

平等なレビュー

 眠らない町、帝都。本日はその一角に店を構える『喫茶エデニウム』へとお邪魔することにした。エデニウムは『どんな動物でも入店可能』を掲げた、今日日珍しい『穏健派』のマスターが運営しているという。個人的にも大変興味をそそられる店舗だ。

早速その様子をリポートしていこう。


 店に入ってまず驚いたのは、マスターのディル・マッケンロー氏が元気な四足歩行で出迎えてくれたことだ。ディル氏は亀種の紳士的なご老人で、硝子のネクタイピンが良く似合っている。

 ディル氏は美しい青のカップにコーヒーを注ぎ、店内の端に設けられた椅子へと案内してくれた。周囲を見回してもみな四足歩行で、地面に置かれたカップやソーサーから飲食している。決して差別的な意図は無いが、特にこの帝都においては若干異様な光景だ。分四足歩行ゾーンが設けられている飲食店は探せば数件見つかるだろうが、ベースが四足歩行向けというのは大変珍しい。私は、ディル氏にその意向を伺った。


ディル(四五): 驚かれたでしょう。ですが、四足歩行というのは、やはり我々の体構造に最も適した、リラックスできる状態なんです。


 ディル氏はそう語る。このカウンターに備え付けられた数脚の椅子は私のように外部から取材に来たり、店のことを知らずに入店した二足歩行客向けのものなのだそうだ。


ディル(四五): 地面から口で食事をするなど汚らわしい、という方ももちろんいらっしゃいます。四足歩行向けの設備もどんどん減少していますし、やはり私の店は時代に逆行しているんですね。でも、ここでの飲食が一番落ち着けるという若い常連さんも最近は多くて。


 常連のブレイジー氏はその一人だ。犬種の若い女性で、私の取材にも快く答えてくれた。


ブレイジー(二): こんな姿、ママに見られたら叱られちゃうかもしれないけど、アタシにとっては一番なの。ランチは毎日ここに通うようになってから肩こりも良くなったし、自室にも四足歩行用の設備導入を検討してるわ。


 特盛のドッグフードを美味しそうにペロリとたいらげ、ブレイジー氏は快活に笑う。その姿は、一般的に四足歩行と聞いて連想する姿とは極めてかけ離れている。

 その他にも、常連だというマリン氏は私と同じ猫種の男性だ。


マリン(四): 僕は長いこと在宅で働いていて、家でも四足歩行です。家具やなんかも四足歩行用のものを購入していて、若いころに比べると背骨の歪みがだいぶよくなりました。骨が歪んでるのに無理に二足歩行を続けて体を壊すより、四足歩行で暮らす方がずっといいと思っていますよ。


 マリン氏は二代の頃、背骨の歪みから来る神経痛に悩まされて、この店へと行きついたのだという。エデニウムでは四足歩行家具の導入サポートや相談会も定期的に行っており、非常に助けられたのだそうだ。


ディル(四五): 一般的に四足歩行というと、怪我や障害でそうせざるを得なくなったと思われがちです。でも、実際には二足歩行による弊害に悩んでいる方も大勢いらっしゃるんですね。そういう方を取りこぼさずに迎えてあげられるような、そんな場所を目指して開業したんですが、正直ここまで人気店になるとは思っていませんでした。

 エデニウムの四足歩行席は常に満員で、外には街灯から隠れるようにひっそりとではあるが長蛇の列ができている。


ディル(四五): それに、最近は人間種のお客様の間でもひそかに人気が広まってるようでして。やはり人間も動物の一種ですから、四足歩行で食事をすると落ち着くんですね。


 ……そこまで記事を書いて、私はキーボードから手を離した。

 手元には人間の客へインタビューしたメモがある。『平等』を謳う我が情報誌に掲載するレビュー記事だ、やはり人間の客から聞いた視点も取り入れたい。しかし、これはどうしたものか。


斎藤(五三): いやー! こんな性癖、会社じゃ言えませんよ! いい年して四足歩行でキャットフードを食べるのが趣味なんて、バレたら差選じゃすまないです! あっはっは!

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