「魔物が魔女に拾われる話」

結晶蜘蛛

「魔物が魔女に拾われる話」


 イライラするわ。

 水辺に倒れた私が映る、

 波打つ金色の髪、小さい鼻と口、下半身は蛸の触手になっている。

 普段は白い肌なんだけど、今は傷と血まみれだった。

 ここら辺の主として振る舞っている私だったけど、複数の魔物に襲われ、全身に怪我をおってしまった。


「あいつら……今度あったら八つ裂きにしてやる……!」


 ぎりっと歯をかみしめ、身を起き上がらせようとする、力が入らず、体が持ち上がらない。

 目もかすんできた。さすがにこの怪我で水の中に戻るわけにもいかない……どこかに隠れて、傷を癒さないと……。


「あら、こんなところに水辺の魔物がいますね」

「……誰よ」

「通りすがりの魔女です」

「魔女……魔女ね。私を薬の材料にするつもりね……」


 目がかすんでてよく見えないけど、とんがり帽子をかぶっている小柄な女性のようだ。

 いつもなら触手でつかんで引き裂いてやるのに、いまは力が入らない。

 悔しい。

 魔女は魔物を捕まえて、魔法薬の材料にすると聞いたことがある。

 きっと私を捕まえて、薬にするつもりだわ……。


「ただではやられないわよ……!」


 残った力を振り絞って触手をもちあげて威嚇する。

 力が入らないからよろよろとしか持ち上がらなかったけど、……弱みを悟られたくないわ。

 

「えっと……」


 魔女は困っているようね。いいわ、悩みなさい。

 しばらく私たちはにらみ合っていたけど、そろそろきつくなってきたわ。

 ふらふらと体が揺れる。触手もすとんと落ちてしまった。

 私は魔女をにらみつけていたが、視界が歪んでいき、視界が揺れたと思ったら地面がうつる。

 気を失う寸前に頭に痛みを感じながら、私の意識は闇に落ちていった。



 私が目を覚めるとごぽごぽと泡を立てている釜の中で目を覚ました。

 私は紐で縛られて、滑車とフックを使ってで吊られながら、釜の中で煮られていた。


「やっぱり私を材料にするつもりだったのね……!」

「え……? いえ、これは薬湯ですけど……」

「嘘つき! あなたがそんなことをする理由がないじゃない」

「助けたい、と思ったらだめですか……?」

「そんな言葉で納得できないわ。魔女は魔物を薬の材料にするじゃない」

「初めは迷ってたんですけど、あなたみたいな魔物は初めて見まして……かわいいと思ってしまったので治すことにしたんですよ」

「なにそれ……」


 意味が分からない魔女ね、イラっとするわ。

 はにかんだ笑顔を浮かべてるのが不気味に思えてくる……。

 けど、言ってることに嘘はないみたい。

 痛みが引いていってる。魔女の言う通り傷が治っていってるみたいね。

 ……傷を治すまで身を隠す必要があったから、触手で引き裂くのは待ってあげる。



 ……やっぱりこの魔女は変だ。

 あれから甲斐甲斐しくあたしの世話をしてくる。

 あたしのために大きな桶を3つも用意して、それぞれ水を入れ替えて新鮮な水を保ってくれてるの。

 湯治以外にも軟膏とかも塗ってくれて、お料理も上手。

 もう傷はすっかり治ってしまって、逃げることができそうなの。


「本当に変わった魔女ね。私があなたを引き裂くとは思わなかったのかしら?」

「たぶん、大丈夫かなって。それにそのつもりならもうしてるでしょ」

「変な子。魔女なのに私を薬の材料にしてしまえばいいのに」

「あたし、ずっと一人で暮らしてきましたから、久々に話ができて楽しかったんですよ。それに世話をしているうちにあなたのことがもっと気に入ってきました」


 気弱そうな笑顔を浮かべる魔女。

 その顔を見てると怒る気も起きなくなるわ。

 

「でも、あなたは怖いでしょう。逃げてしまって構いませんよ」

「もうちょっと治ったらそうさせてもらうわ」


 私が背中を向ける。

 そうすると魔女が軟膏を持ってきて、私の背中に塗り始めた。

 はじめはすーっと冷たさが染み入るのだけど、これを塗られると痛いが楽になるのよね。

 魔女、あなたの魔法薬の腕前は認めてもいいわ。 



 魔女が私たち魔物を材料に魔法薬を作るように、魔物たちも魔女を食べると強くなれるの。

 だから、魔女も魔物に狙われることになるの。


「桶の中の水だけだと狭くて気が滅入るわ。ちょっと外の水を浴びえてくる」

「暗くならないうちに帰ってきてくださいね」

「さぁ、どうかしら?」


 あたしは魔女の家を出ていく。

 それから少し歩いたところで、山羊の頭を持った魔物がいた。

 双頭の山羊は二足歩行で、数体いた。


「どけ」

「嫌よ」

「オレら、魔女、食う、強くなる」

「あの魔女は私のものよ。慈悲深く見逃してあげるからあなたたちが消えなさい」

「お前、敵だ」

「奇遇ね、あたしもそう思ったわ」


 イラっとさせてくる山羊頭ね。

 でもいいわ、この怒りをぶつけてあげる。

 そうして、山羊頭たちはいななき、私は触手を逆立て、魔物らしく戦いに入った。




「ただいま」

「あら、帰ってきてくれたんですね」

「なにそれ、本当に出ていくわよ」

「それは……寂しいかな」

「なら、素直に喜びなさい」


 山羊頭たちを倒した私は魔女の元に戻ってきた。


「けど、ちょっとこけて怪我しちゃったわ。治療をしなさい」

「はいはい」

「なによその返事、生意気ね」


 魔女と一緒にいると、少しだけ……すこーしだけ、イライラが収まる気がするわ。

 だから、もうしばらくだけ一緒に居てあげる。

 感謝しなさいよ、魔女。

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「魔物が魔女に拾われる話」 結晶蜘蛛 @crystal000

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