第9話

「ご。ごめんなさい!」

「そこまで謝らなくても大丈夫だ」

 ぼうっとした視界と頭をなんとか正常にさせた時、私は何をしたのかを再確認したのだ。今日は忙しい中、お父様が夜ご飯のために帰ってきてくれたのにずっと寝ていたのだ、夜ご飯の時間になっても。

「私と優斗、栞里はすでに夕飯をいただいている」

「本当にごめんなさい」

 そこまでいってしまっているなら、優斗には後日、絶対に馬鹿にされるのは確定しているようなものだ。今回に関しては甘んじて受け入れるしかないが……。

「本来なら夕飯の時に聞こうと思っていたことがある。普通なら入学前に聞きたいことではあったが」

「……!」

「お前はあの学校で何を為す。そして、どんな自分になりたいのだ」

 わかっていた、なんとなくではあるが。

「私は……」

「……」

 中途半端を絶対に許さないという意思。それをとても鋭く感じる。決して、中途半端を許さないような人だ。実現性がないからとかそんな理由で私の目標を変えてしまったら、その視線は鋭さを失って失望に変わってしまうだろう。だから、愚かでも私の意見は曲げちゃいけないんだ。

「私は閃光の勇者のような人になりたい。あの人みたいに人をこの手で助けたいんだ!」

 お父様のことだ。優斗みたいに鼻にかけて馬鹿にしないだろうという安心感はある。それでも、と一人思案していると、お父様が神妙な面持ちで私のことを見ていた。

「あの兄妹がいる中で……か。これもなにかの運命なのかもしれない」

 ぼそっと呟いた言葉に、私は意味も分からずじまいだったが、お父様の方では何かしらの結論が出たらしい。

「蒼井悠。何かあったら彼を頼ると良い」

「蒼井さんですか?」

「……彼とは知り合いなのか?」

「今日、たまたま一緒にいまして……」

 それを聞いて、お父様はまた渋い顔になりながら私に告げた。

「詳しくは彼に聞いてみると良い」

 そうして、お父様は部屋を出て行こうとしたが、振り向いて私を見た。

「入学おめでとう、あすか」

 そう言って、お父様は部屋を出ていった。

「はあ〜〜」

 なんか思ったような話し合いじゃなかったし、途中に知り合いの名前が出てきてびっくりしたけど、なんとか終わることができた。自業自得だけど、お父様との一対一の話し合いになったから、優斗っていう余計な茶々を入れてくるアホもいなかったのが、ストレスの少なさに貢献したんだろうな。

「それにしても、蒼井さん……か」

 あのお父様が知っているというだけで只者ではないことがわかるが。

「そういえば、蒼井っていう名字。どこかで聞いた覚えがあるんだけどな……」

 どこだったか、一緒に帰っている時にはあんまり気にすることでもなかったから、こう咄嗟に思い出したりなんてことはできないけど、本当にどこかで聞いた覚えがあるんだよな。

「蒼井……う〜ん、なんだか答えが喉につっかえたみたいなんだけどな」

 あれこえ、ウンウン悩むこと早10分。喉に引っかかった答えをなんとか絞り出そうと頑張ってはみたが、あんまり良い成果を出せずにいた。

「なんだろうな〜どうしてもこの違和感は取っておきたいんだけどな……あ」

 そんな悩んでいる私を嘲笑うかのように腹の音がなった。そういえば、夜ご飯を食べていなかったことを思い出し、私は少々遅い夜ご飯を食べに部屋を出ていった。

 そして、そのまま使用人の数名とはすれ違ったものの、優斗や栞里さんに出会わなかったことで穏便にダイニングに進むことができた。私が向かうことがわかっていたのか、料理はアツアツの状態でテーブルにあった。

「いただきます」

 一つ感謝の礼をして、食事を始める。と言っても、誰もいないダイニングで黙々とカチャカチャとだけ音が響くのはあまりにも味気ないので、いつもその役目を果たしていないテレビを見ようとふと考えついた。

「テレビ、つけてもらえる?」

 疑問系ではあるが、ほとんど命令に近いことは私にだってわかる。そうして、近くにいた給仕さんにテレビをつけてもらっていた。そうしてついたテレビがやっていたのはあの忌々しい事件のことだった。

『あのテロ事件「No Peace」の収束から早10年が経過しました』

「もうそんなに経ったんだっけ」

 10年前、もう時間が経っているのはわかるがいつまでも私がお母様の死を引きずっているがどうしても情けなく感じてしまう。多くを失った人は他にもいる。その人たちもだとしてもと前に進んでいる。

 わかる。人に違いがあることは。

 わかる。引きずりすぎる人もいることにいるんだと。

 わかる。私はそれなんだと。

『今回はスペシャルゲストにお越しいただいております』

「誰だろう」

 思考に耽っていると、グタグダとした事件のあらすじが終わり、ゲストの話に移るみたいだ。

『今回のゲストはみなさんご存知のあのお方!』

「……」

『その麗しの剣技、まさに閃光の如き!』

「……!?」

『閃光の勇者――蒼井キリノだ!』

 その名前に私はつい立ち上がってしまった。テレビに映ったのが世界を救った英雄だから? 違う。いや、全くないわけではないが、今のそこはあまり重要な論点ではないからだ。それよりも喉につっかえたものが取れたのだ。

(蒼井さんってまさかその蒼井!? 歳の差が9歳……ありえないわけじゃない。それはお父様知ってるわけだよ。心器の開発資金、結構提供してたもんね。え、でも全然似てないよね。え〜〜?)

 私の頭の中は急な情報の洪水でパンパンになってしまったのだ。

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最強英雄の教育道 ろうこう @mayaten2

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