7話 Because I'm really good!

 未来であって未来ではない現実に、狼狽していたジャックだったが。数日が経つと、目の前に広がる世界を受け入れようとし始めていた。


 変化を突きつけられたら、その変化に順応しようとしていく人間の本能が大いに働いている事もあるのだろう。


 しかし、それは要因の一つと言うものだ。順応に舵を切った一番の理由は、本能そこにない。無論、「一つも消えない異変の中で生きるよりも、異変を少しずつ瓦解して生きようとした方が良いからな」と、心に芽生えた諦めの境地にある訳でもない。


 ジャックは、目の前に広がる世界に「人生の成功」を感じてしまったからだ。

 だからこそ、ジャックは必死になってもがきもしない。

 アディスのクリニックからこの数十年の記憶がごっそりなくとも、だ。


 ジャックは「別に良いんだ」と、弱々しく口元を綻ばして目の前の原稿用紙に目を落とす。


 俺はずっと、脚本家になりたかった。でも、自分のちっぽけな才能じゃ到底なれないもんだと夢を諦め、平社員に甘んじていたが……成れたのだ! 俺は、アメリカ一多忙な脚本家に成れたのだ!


 空白のジャックが書き綴っていた原稿をぱらぱらっと捲ってから、ジャックはくいっと視線をあげる。

 視線の先にある、ぎゅうぎゅうと本が詰められた本棚。それぞれ色鮮やかな装丁が施されているおかげで、本棚はぱあっと華やいでいる。


 ジャックは徐に立ち上がり、色とりどりの本が並ぶ本棚から手前の一冊を引っ張った。


 並べられる本が隠していた表紙が露わになる。

 そこには題名と監督名、そして『脚本家 ジャック・ハーヴィー』と刻まれていた。


 自分の名前を見つめるジャックの口元は、ニヤッと緩む。

 ジャックはそのまま本を戻し、隣の背表紙に指を引っかけ、外の世界へ出した。

 また口元がフフフと満足げに緩んでから、その本を戻して、隣の本に移る。そうしてまた口元が緩む、その繰り返しだ。


 フフフ、ほら見ろよ、俺。ここに並ぶ本のどれもこれも、俺の名前が刻まれているんだ。


 平社員だったし、夢を諦めていたから信じられないだろう!

 でも、確かにここの俺は、脚本家として華々しいキャリアを歩んでいるんだ!


 私生活だって、順風満帆なんだぞ! ハンナが隣にいて、息子も居て(今は寮生活らしくて会えていないんだが)、娘も居る!


 気にかかるのは、クラウンの事だが。奴はあれから姿を見せていないし、声だって聞こえてこない。奇怪が起こる事もない。


 だから……だからな、ここから急いで出ようなんてしなくて良いんだよ。

 どれほど狂気に満ちていたとしても、夢かと疑るしかない世界だとしても、この成功の中に居られるなんてなかなか出来ない事だろう? 


 そうだろう?


 ジャックは「早くこの異変から抜けださないと駄目だ!」と、内で焦燥を煽る自分と言う名の危機感を窘める。


 ジャックの心が、募る怪訝よりも、目の前に広がる幸せで満たされているからこその事だった。


 そうして、彼はじわじわと思い始める。


 今までの自分が現実だと思っていた世界こそ馬鹿馬鹿しい夢の世界で、この世界こそが自分の本来あるべき世界だったんじゃないか。

 新たなる物語の刺激と若かりし頃を思っていた自分が、生み出しただけの馬鹿馬鹿しい幻想世界だったんじゃないか、と。

・・・

 普通じゃないとどこかで感じ取っていながらも、金と幸せと成功がある世界にそのまま居る事を選んだジャック……!

 なんでこんな展開にしたのか? と言われますと、金と成功と幸せが絡んで変わっていく人の姿を描きたかったんですよ~😳それも、ある種の恐怖で狂気だなぁと思っているので(´∀`*)


 しばし、この富の生活が続くのか。それともクラウンが現れるのか……奴にハラハラ・ドキドキしながら、この先もお楽しみくださると大変幸せでございます(≧∇≦*)

 椿野も、こうして偶に現れる事があるので……本編が駄目でも、小話だけでも楽しんでいってくださいませ(*^^*ゞ

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