第15話

「――!」


 飲み物が喉に詰まり、激しく咳きこむ雨乃。たっぷり数回咳きこんでから、乱れた息を整える。


「ご、ごめんなさい」


 目に溜まった涙を拭いながら謝罪する。口元と襟元がオレンジジュースで濡れてしまった。ハンカチを持ってきてないことを思い出し、はぅ、と意気消沈する。


 そんな雨乃の前に、何かが差し出される。

 雨乃が顔を上げると、そっぽを向いた透夜がハンカチを持った手を差し出していた。使えということだろうか。


「あ、ありがとう……」


 躊躇いがちにそれを受け取り口を拭う。襟を拭きながら透夜を見ると、透夜はまだそっぽをむいたままだった。

 気分を悪くしただろうか? 変わらずの能面なので、やはり解らない。


「あの、洗って返すね」


 ハンカチを鞄にしまう。

 再びの無言。


「ねぇ、透夜君」


 勇気を振りしぼって、声を出す。ちょうど、聞きたいこともあるのだ。


「透夜君がハンターになった理由、シノちゃんから聞いたよ」


 すると、そっぽを向いていた透夜が雨乃を捉えた。

 実際は、雨乃が透夜を怖いと感じる理由なのだが、シノから話を聞く過程で透夜がハンターになった理由も知ることとなった。


「そうか」


 特に感慨もないように答える透夜。


「透夜君とシノちゃんって、親戚とかじゃないんだよね?」


「ああ」


「でも、一緒に暮らしてる」


 透夜とシノが同じ屋根の下で暮らしていることも、シノの話の中で知った。シノの口からその事実を聞いた時、声を上げて驚いたものだ。


「結婚してるとか?」


 もしかしたら本当にあり得るかも、と思った雨乃は、その時初めて透夜の表情が変わるのを見た。ほんの僅かな変化ではあったが、透夜の顔には確かに呆れの感情が浮かんでいた。


「俺はまだ十五だ。少なくとも、戸籍の上ではな」


 とても十五歳には思えない落ちつき様である。


「ふむ。それを言うなら、俺とシノは兄妹ということになるのか」


「え?」


「シノからどこまで聞いたのかは知らんが……まあいい。俺は、養子なんだ」


 養子。その単語で、雨乃はピンときた。なるほど、と。

 空席の椅子が埋まる。シノが戻ってきた。


「何の話してるの?」


「別に。他愛のない話だ」


「ふーん」


 シノが雨乃を見て、くすりと笑みを漏らす。


「二人とも打ち解けたみたいでよかったわ」


 打ち解けたのだろうか?

 雨乃にはまだそうは思えなかった。気難しそうな透夜と打ち解けるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

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