第14話
とある平日。午後九時。〝
ホールの中央に鎮座する円形のテーブルを囲むのは透夜、シノ、そして雨乃の三人である。
他のテーブルやカウンター席にも、ちらほらと人影が見える。雨乃達とそう変わらない年頃の少女や、白髪交じりの老年の男性。はては小学生にもなっていないような幼児など、統一感のない顔ぶれである。
透夜は通常の無表情。シノは難しい顔で顎を押さえ。雨乃はグラスを両手で包み、ちびちびとジュースを飲んでいる。
シノ達と共に戦うと決めてから、雨乃は頻繁にこの場所に訪れるようになっていた。もちろん一人ではないが、ここ数日は毎日訪れている。時間帯は決まって夜で、シノや透夜を含むハンター達に
また雨乃が〝
誰かのグラスの氷が、カランと音を立てた。
「最近、
シノは俯いたまま言う。
このところ――正確には先月から――魔族の出現頻度が上昇しているのだという。
ハンターにはそれぞれ担当する
しかし、どうと聞かれても雨乃には心当たりの欠片すらない。知識という知識もないので、雨乃は無言で透夜に横目を向ける。
「〝
「透夜もやっぱりそう思う?」
「というより、他に考えられる原因がない」
雨乃は首を傾げる。自分のことを言われているような気がするが、いまいちピンとこない。
「おそらく、世界中の
「このまま増えていくとなると、ちょっとまずいわね」
腕を組んで唸るシノ。
「あの」
そこで、雨乃は控えめに手を上げた。
「えと……話がよく見えないけど、つまり、どういうことなのかな?」
問いを受けて、透夜が口を開く。
「〝
「解りやすく言い換えるなら、ちょうど磁石のみたいなものね。小さな磁力では重い鉄は動かせなくても、軽いやつならひっついていくでしょ? そんな感じ。厳密に説明するには、魔力の概念を一から理解してもらわないといけないから、それはまた追々ね」
シノがグラスを傾ける。
雨乃は二人の言葉を反芻する。
「それってつまり、魔族の数が増えてるのは私のせいってこと?」
透夜は答えない。
その沈黙を肯定に受け取りかけ、雨乃は悄然と頭を垂れる。
「別に人間界に来る魔族の絶対数が増えてるわけじゃないんだから、雨乃のせいって言い方はよろしくないわよ。むしろ迅速に対応できるここら辺に来てくれた方が、被害の数は減らせる。雨乃のおかげでね」
「そう……なのかな……」
「そうよ」
シノは厳然と言う。
「あなたがここにいるだけで、守れる人がいるんだから」
その言葉に勇気づけられ、雨乃はグラスを握りしめる。
「うん……!」
自然に顔が綻ぶ。シノの言葉は、いつも雨乃を助けてくれる。ここだけではない。学校でもそうだ。体育ではいつもヒーロー。テストの成績もいつも上位。そのくせ、高飛車なところは一切なく、友人のことを気にかけてくれる。
美人で、かっこよくて、強くて、優しくて。
(敵わないな。シノちゃんには)
少しだけ自嘲気味に、笑ってみた。
カウンターから、シノを呼ぶ声が聞こえた。酔っぱらったような女性の声だ。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
シノは席を立つと、カウンターで目を座らせている制服姿の少女の許へと向かった。酔っぱらいはどう見ても未成年だ。
テーブルには雨乃と透夜が残された。
雨乃は視線を彷徨わせる。透夜に対する恐怖は、ここ数日のうちにだいぶ解消されたが、いまだに苦手なことに変わりはない。無表情で内心を見せない彼にどうやって接していいのか解らず、雨乃は沈黙する。
グラスに口をつけ、上目遣いでちらりと透夜を見やる。
目が合った。
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