第18話 表ヒロミチ総統の背耳

 大聖堂に浮かび上がる、二つの影。


「サキコ、どう考える?」


 少年は少女に問うた。

 少女は顎に手を当て、思案する。


「こんな真似が出来るのは、一人しかいないわ」


「やっぱりか」


 少年はあからさまに嘆息した。


「渡瀬ショウが、きたんだな……」


 頷く少女。


「マズイどころの騒ぎじゃないわね。どうしようか」


「全力で迎え撃つしかない、な」


「やっぱそうよね……」


 その時、大聖堂の扉が勢いよく開かれた。


「目標、確認。殲滅を開始する」


 奈美子である。最重要目標を発見したバトルヒューマノイドウェポンは、自身の戦闘能力を、最大以上に引き上げる。


「松田タクヤの遺産か。中々厄介なのが出てきやがった」


「あんまり相手はしたくないわね」


 奈美子は二つの影へと飛んだ。

 瞬間、天井のステンドガラスが破れ、一人の少年が突入してきた。

 その姿は、ヒロミチ。


「ファイナルエディション!?」


 四つの影は、激しくぶつかる。



ーーーーーーーーーーーーー



 渡瀬ショウは、パレスの回廊にいた。

 向かいから走ってくるフォースエディションに立ちはだかる。

 ショウの姿を発見したヒロミチ・フォースエディションは驚愕に目を見開く。


「渡瀬、ショウ……」


 とっさに身構えるヒロミチ。


「馬鹿な! なぜ貴様が!」


 ショウの表情は、僅かも変化しない。


「表ヒロミチは、要らない」


 ショウは掌をヒロミチに向けた。


「偽物も、本物も」


 その手を握る。

 ヒロミチの体が、グシャッと潰れた。まるで、卵の様に。


「全ての者に、苦悶の死と、深淵たる絶望を」


 渡瀬ショウは静かに、大聖堂に向かう。



ーーーーーーーーーーーーー



 奈美子のラッシュがサキコを襲う。

 速すぎて目で追うことの出来ない奈美子の攻撃を、サキコは感覚だけでかわしていく。


「肉弾戦は、得意じゃないのよ、ねっ!」


 距離をとって跳躍。


「紅の旋風!」


 叫ぶと同時にサキコの周囲に紅の流れが巻きおこる。それはサキコを包むように、しかししたたかに流動する。


「受けなさい! 紅村時雨っ!」


 刹那、紅い旋風は散々となり、粒子となって奈美子に降り注ぐ。


「回避モードに移行。エマージェンシー」


 奈美子は残像も残らないスピードで左右に振りながら上方からの攻撃をかわしていく。


「紅覇散亥! 流れる紅い紹巴!」


 サキコの拳が一閃、奈美子の首筋をないだ。裏拳の炸裂。

 奈美子は軽々と吹き飛び、壁に激突した。

 次の瞬間、背後に回った奈美子の空中逆二段回し蹴りがサキコの顎と脇腹に直撃する。

 衝撃で宙に浮いたサキコは休む間もなく再び紅の粒雨を降らす。さらに投げナイフ2000本のおまけ付き。


「ッ!」


 驚愕に身構える奈美子は回避不可能と判断し、反撃で相殺に出た。


「ファイナルリミッター解除、実行。緊急攻撃用バーサーカーシステム起動、最低レベルで制御機能を稼働」


 奈美子の瞳の色が変わる。


「目標ノ殲滅ヲ最優先トスル」


 眼球そのものが赤黒く染まった。

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