第7話 ひと筆の面影
「あー……絵を買うっていうのは、そこにいるらしいオバケのことか?」
クロカはハイラがいるところとは、見当違いな場所を指さす。
「オバケはこっちです」
「オバケじゃなくて、ハイラって呼んで!」
ハイラは頬をふくらませて、プイッとそっぽを向いた。
「……ハイラって、呼んでほしいそうです」
「わかったよ。じゃあ、ハイラ。とりあえずついてきな」
クロカはおきあがると、2階のアトリエに向かっていった。
* * *
相変わらず散らかっているアトリエの入口付近には、前に来た時には気づかなかった、ホコリまみれの大きなタンスがあった。
「売るとしたら、この辺かなぁ」
クロカはタンスから何十枚と束になった絵を取り出すと、部屋には古い紙のにおいが広がる。
「かざってある絵は、売らないんですか?」
クロカは少し答えにつまっていた。
「……んー。私が描いてないものも、混じってるからな。いちいちかざってあるものを取るのもめんどくさいし、できればここから選んでくれ」
クロカが描いてないというと、シロハが描いたものでも、あるのかな…?
あの人が絵を描くなんて想像もつかないけど……。
「なによ、ここ!すっごい汚い!」
アトリエに入ったハイラは、この不潔すぎる部屋におどろいたのか、文句をもらす。
「この量の絵を広げて見るスペースはないので、すぐに下の階に行きますよ」
私はクロカがまとめた絵の束の半分を持って、3人で階段をおりた。
* * *
1階でも、比較的広いスペースで絵を並べていく。
ある1枚の絵が気になったのか、ハイラはフワフワとその絵に近づいた。
「この絵……おばあちゃんの絵にそっくり」
ハイラは優しい瞳で、その絵を見つめる。
「おばあちゃん?」
ハイラは、コクリとうなずく。
「というか、あのカラスが描いたっていう絵は全部、おばあちゃんが描いた絵にそっくりなのよ。この絵は特に、似た絵が家にあったの」
ハイラは懐かしむように、目をつむる。
「まぁでも、私、おばあちゃんに会ったことないんだけどね」
「え?」
「私のおばあちゃんって絵描きだったらしくて、何枚か家に、絵がかざってあったの。私が生まれてすぐ、行方不明になっちゃって、おばあちゃんのことは、絵でしか知らないのだけど……」
ハイラは絵を手にとる。
「このキラキラとした優しい絵が、昔から私を支えていたのかもね」
クロカはビクッと肩を揺らす。
「うお、絵が浮いた」
クロカがあまりにも間抜けな声で話すものだから、ハイラと私は、同時にため息をついた。
「そのセリフは場違いです、師匠」
「仕方ねぇだろ!なんにも、わかんないんだから!」
クロカは浮いた絵を目印に、ハイラに近づく。
「やい、ハイラ!その絵を買うってことでいいのか?」
「えっと、えぇ、そうさせてもらう」
クロカはハイラの声が聞こえないからか、私が言え、とでもいいたげに手をチョイチョイと動かす。
「買うっていってますよ」
「……そうか!そうか!私には見えないが、オバケってのはなかなかいいヤツだな!」
クロカは嬉しそうに笑い、浮いた絵をとる。
「で?いくらで売るつもりなんですか?」
クロカの翼がピクリと動く。
「……あ」
この人、考えてなかったんだな。
「……そうだ!実は私、絵を売るのは初めてでね。……ということで君に!その絵にいくら払っていいか、価値を決めていただきたい!」
クロカはいいこと思いついた!とでも言いたげなドヤ顔で、ハイラのいる場所とは少しズレた方向に指をさす。
「……そうねぇ、アタシは新聞記者をやってるの。ちょうど、ネタがほしかったところだし、アンタたちのこと、記事にしてもいいかしら?そうしたら、その記事の売り上げの二割を代金として支払うわ」
なるほど、それなら絵を妖怪たちに知らせることもできるかもしれない。
「師匠、この人、新聞記者みたいで。師匠のことを記事にして、その売り上げの二割を代金として支払うというのはどうでしょうか、と」
クロカの翼が、ピクリと動いた。
「そ、それはつまり、私が有名人になる……ということか!?」
クロカはその場で、ピョンピョンとはねている。
「それは、早とちりだと思うけど……。記事にするためのインタビューはいいかしら?」
インタビュー、か。
ほぼ間違いなく、私が翻訳しなくちゃいけないのだろう。
ただでさえ、今の受け答えもめんどくさいんだけどなぁ。
「えー…記事のために、インタビューを受けてほしいそうですよ」
私の言葉を聞いたクロカは、わかりやすく喜び、ウキウキでその場にすわる。
「インタビュー…!いい響きだなぁ!いいぞ、じゃんじゃん聞きたまえ~!」
* * *
私の予想通り、翻訳役として、いやに疲れた一時間となった。
しばらくハイラは、それらしい質問をつづけて、最後の質問。
「もう記事に書くには十分なネタをもらえたし、これは個人的に気になったことなんだけど―――」
クロカは今までのインタビューで機嫌をよくしたのか、満面の笑みだ。
「私のおばあちゃん、いろね、っていう名前なんだけど…聞き覚えとかある?」
私は、クロカに質問の内容を伝える。
「いろね、という名前に聞き覚えはありますか?おばあちゃんらし―――」
「いろね…?」
私の声にかぶるように、クロカの動きがピタリと止まる。
さっきまでの陽気な表情は消え、何かをこらえるような暗い顔で固まっていた。
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