第26話

わたしが事故に遭ったのは学校寄りの通学路。


ひと気のない静かな田圃道だけど、車通りは比較的多い。だから通るときは気をつけていた。



本当にたまたま。


涙でぼやけた視界に、刺すようなハイライト。



自己ベストなんか悠に超えあっという間に地面に叩きつけられて、痛みよりも先に気を失った。



次に目が覚めたとき一番に見たのは、傷と痣だらけになって、変な方向にぐにゃぐにゃと曲がった、いのちよりも大切な脚だった。




「隼奈、待ってるから一緒に帰らない?相談したいことがあるんだけど」



部活の合間で水を飲みにきた彼女にそう声をかけると、彼女は疲れなんて一切感じさせない笑顔で頷いた。




隼奈は別の中学だったけれど、その存在は知っていた。


『鳥羽さんはどこの高校に行きますか!?』


さね先輩を見かけた大会でそう声をかけられたけれど、それよりも前から知ってたんだ。



きっとわたしと同じくらい跳べる子。


きっと、いつか、わたしを超して翔んでいく子。



嘘の高校を教えたのに、どこかで調べたのか、1年遅れで入学してきた。


まだ未熟な、成長していくであろう羽根をはためかせながら。




隼奈が目の前に現れてから、

わたしは、自分がふつうであると、言い聞かせるようになった。


隼奈が真っ直ぐな目を向けてくるたび、

何度も勝手に出てくる涙を我慢したし、そのうち我慢できなくなった。

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