第7話 刈る力と仲間の絆

 白銀がチャックをシュッと閉める。


 ジャック・ザ・ツリーはマンドレイクを大きくしただけの見た目だ。

 だが、その内に秘めた力はマンドレイクとは比べ物にならない。


 「やってやる」


 僕が攻撃を行う。

 放った矢は簡単に蔓によって弾かれる。

 出された蔓の数は10を超えていた。


 「静香の魔法が要だ! 行くぞ!」


 陽介が駆け出す。

 僕の弓は効果が無いだろう。


 「黎弥!」


 「うん!」


 僕は死霊の力を前衛二人に付与する。

 加速した二人は敵の意表を突く事が出来て、一撃を浴びせる事が出来た。


 「そら!」


 細かく速く動く白銀を蔓の手数で押さえ込もうとするが、スルスルと抜け出す。

 本体に肉薄したら嵐のような斬撃で攻撃を加える。


 「硬っ!」


 内側に攻撃を仕掛けたが弾かれたのか、仰け反る白銀。

 攻撃役を交代と言わんばかりに前に出た陽介が剣を突き刺す。


 「まじでクソ硬ぇ!」


 陽介も苦戦する程の硬さ⋯⋯ゾンビの力を付与すれば解決出来るだろうか?


 ⋯⋯死霊兵は弱くて役に立たない。

 僕の弓も奴には通用しない。弾かれるだけだ。


 ユニークスキルがあるにも関わらず⋯⋯僕は何も出来ていない。


 「火球行く!」


 深川の魔法がジャック・ザ・ツリーに命中し、その身を燃やす。


 「ーーーーっ!」


 金切り声が高く響く。

 鼓膜を引っ掻くその断末魔は僕達を怯ませる。

 行動が止まった白銀は隙だらけで、数多くの蔓が襲いに行く。


 「まずっ」


 僕が弦を引くよりも速く、白銀は動いて躱した。

 ⋯⋯僕は本当に役立たない。


 どうやったら役に立てる?


 「ちくしょう」


 悔しい。

 僕を拾ってくれて、楽しい今の生活をくれた皆のために何かをしたい。

 なのに、実力が違い過ぎる。


 「次!」


 前衛が翻弄と削りを入れて、深川が大きな一撃を与える。


 「そろそろ動きが見えて来たぜ!」


 動体視力で見えだしたのか、攻撃を弾くようになった陽介。

 強敵の登場で最初こそ震えたが、頼もしい三人のおかげで勝てそうだ。


 ⋯⋯そう、三人で勝てるのだ。

 僕は⋯⋯必要が無い。


 無意識に弓を握る手に力が入る。

 怒りじゃない。悲しさじゃない。ただ悔しいんだ。

 僕は拾われて仲間にしてもらった。だが、これでは仲間とは言えない。


 僕も⋯⋯何かしたい。

 こんなんじゃ。恩に報いる事が出来ない。


 「そろそろ終わらせるぞ!」


 僕が苦悩している間に順調に削る事が出来、討伐がそろそろ終わろうとしていた。


 僕は⋯⋯強くなりたい。

 皆と並べるくらいの、胸を張って仲間と言える程に強くなりたい。


 「これで⋯⋯なっ!」


 刹那、命の危機に陥ったジャック・ザ・ツリーが蔓でとぐろを巻くように回転した。

 あの蔓は硬く柔らかい特性があり、陽介でも斬る事が叶わない。

 さらに、回転している事により深川の魔法が打ち消される。


 体力が尽きれば止まるだろうが⋯⋯。


 「動くよな」


 回転した状態で移動しやがった。

 しかも⋯⋯僕達の方に向かって。

 戦いの中でいつもの戦法では通用しないと学習したのだ。


 「これじゃ近づけない⋯⋯」


 白銀がボヤキ、警戒している。

 回転スピードは緩やかなモノだったが、攻撃が通用しない。

 何か手は無いかと、全員が警戒しながら考える。


 だが、回転は緩やかになり収まった。


 「チャンスだ!」


 陽介の言葉と同時、白銀の背後の地面から蔓が伸びて来る。


 「えっ?」


 予想外の攻撃。

 対応が遅れた白銀は蔓によって拘束され、陽介の方へ向けられる。


 「くっ」


 足を止める陽介。

 ⋯⋯人質にしたつもりなのか? そこまでの知能を兼ね備えているのか?


 回転している間に蔓を一本地中に潜らせ、スピードの速い白銀を捕えた。

 魔法を使う深川じゃなくて⋯⋯白銀を。


 「⋯⋯アイツ、逃げる気か!」


 僕が弓を構えようとしたが、それを察してか白銀が盾にされる。

 グギギっと絞る音が聞こえる。


 「あああああああ!」


 白銀の断末魔がこだまする。


 「嫌だ⋯⋯」


 深川の魔法も白銀がいるため使えない。

 攻撃が来ないと悟ったジャック・ザ・ツリーは戦う選択肢を選ばず、確実に生存する道へ進んだ。

 つまり、逃亡だ。


 逃げられたら⋯⋯白銀はどうなる?

 用済みとなった人質の扱いなんて⋯⋯きっと人もモンスターも変わらない。


 誰にも愛されず、必要とされて来なかった人生。

 なんのために生まれ、なんのために生きるのか分からなかった。

 ただ死ぬのが怖かっただけの人生。


 そんな僕に手を差し伸べてくれた。

 僕に希望を、光をくれた。

 今の僕の生きる理由はここにある。


 ⋯⋯まだ恩返し出来ていないんだ。

 まだ仲良くなりたい。もっと皆の事を知りたい。

 誰も失いたくない。


 「嫌だっ!」


 「黎弥おい!」


 「黎弥待って!」


 僕の耳に声は届かない。


 僕は自分の足にスケルトンの力を付与する。

 僕の身体能力は魔法士の深川にも劣る。

 だが、僕はこの力を使える。


 骨の足が砕けるだけの力を出し加速し、再び形成して力強く地を蹴る。

 白銀には劣るが、このチームで二番目のスピードが手に入る。

 脱力感は酷いが⋯⋯気にするか。


 僕は止まる訳には行かないんだ。

 失いたくない。恩人を。大切な人を。


 「待てえええええ!」


 僕に追われた事に気づいたジャック・ザ・ツリーはクルリと向きを変え、僕を正面に捉え白銀を盾にする。

 逃げに専念しなかったのは、追いつかれると分かったからか僕なら勝てると踏んだか。


 「⋯⋯なん、で。来たの!」


 「助けに⋯⋯」


 「逃げて⋯⋯黎くん一人じゃがあああああ!」


 蔓に入っている力が増したのか、叫ぶ白銀。


 「止めろ!」


 言葉が通じたかは分からない。だが、苦しみに満ちた声は緩む。

 霞んだ目を白銀が僕に向ける。


 「お願い⋯⋯逃げて」


 「嫌だ。逃げるんだったらさんも一緒だ!」


 「無理⋯⋯これ、キツイ。ごほっ」


 大量の血を口から吐き出した。

 なのに⋯⋯血濡れた口で笑みを浮かべた。


「逃げて」


 僕がジャック・ザ・ツリーを睨む。

 顔は見えないが、笑っているように感じた。

 ⋯⋯僕を嘲笑っている。


 「何が面白いんだよ」


 人の苦しむ顔はそんなに愉悦か?


 「お願い⋯⋯逃げて」


 「どうして⋯⋯どうして翼妃さんは」


 僕を助けてくれた。見ず知らずの僕に手を差し伸べてくれた。

 翼妃がいなければ僕はどうなっていたか分からない。

 なのに⋯⋯自分の命を諦めてまで僕に逃げろと言うのか?


 「そんなの、絶対に逃げられないじゃん」


 近くで見ると凄く怖い敵だ。

 命だって危ない。皆で追いかけるべきだったかもしれない。

 正面で戦うのは恐怖だ。足が震えて止まらない。

 心臓が早鐘のように鳴り響く。


 恐怖、緊張⋯⋯だけど僕は逃げない。

 翼妃を助けるんだ。


 「がはっ」


 だが、どれだけ決意を固めても僕は弱い。

 蔓の打撃だけで吹き飛び、痛みに悶える。

 さらに遊ぶかのように何度も軽めの打撃を与えられる。

 先程の鬱憤を晴らすかのように何度も何度も攻撃される。


 「嫌だよ。黎くん。君だけでも⋯⋯」


 翼妃が抵抗しようと動くが、弱々しい。

 全身を締め付けられる拘束攻撃は強烈だ。


 ⋯⋯力が欲しい。


 翼妃を助けられる力を。奴を倒せる力を!


 「僕が⋯⋯戦うんだ」


 蔓の攻撃を見ていたからか、それともそのような力を望んだからか分からない。

 だが、今この瞬間、僕は新たな力を手に入れた。


 迫り来る4本の蔓。その全てを切り裂き根の皮は散らばる。


 「レイ⋯⋯ぁ」


 「⋯⋯僕が、助けるんだ」


 僕の背中から左右4本、合計8本の骨の足が生えていた。

 一本の長さは1メールくらい。先端は奴の蔓のように刃のように鋭かった。


 「なんだ⋯⋯これは?」


 気味が悪い。

 だが、違和感がない。

 元々自分の身体だったかのように、操り方が分かる。


 神でも仏でも死神でも構わない。

 今はこの力に感謝しよう。


 「はあああああ!」


 僕は突っ込んだ。

 背中の足の力に頼って突っ込む。

 相手の蔓は斬れる。なら勝てる!


 「きゃあああああ!」


 しかし⋯⋯翼妃の悲鳴が聞こえて僕の足は止まる。

 このまま進めば命は無いぞ⋯⋯そう言っているように感じた。

 このまま⋯⋯僕は何も出来ないのか?


 「俺達の仲間を離せえええ!」


 「えっ」


 「剣は持ってるよな!」


 「⋯⋯腰っ」


 弱々しい抵抗をしていた翼妃。だが、その抵抗が斬れ無かった蔓を斬るに至る結果となった。

 翼妃の剣に重なるように陽介の剣が振るわれ、蔓が斬られる。

 解放される翼妃。

 陽介の背に背負われた深川が魔法を放つ。


 まだ強化は継続していた。

 陽介が深川を背負って追いついて来た。


 「大丈夫か翼妃!」


 「⋯⋯ポーションです」


 「あ⋯⋯がと」


 ポーションを飲む翼妃。


 「黎弥! 俺の剣にゾンビの力を付与しろ!」


 「ぶ、武器?! そんなの⋯⋯」


 「てめぇの認識なんて関係ねぇ! 俺が出来ると言ったら出来る! やれ!」


 「は、はい!」


 僕は皆に付与する方法で陽介の剣を意識して強化した。

 そしたら⋯⋯普通に出来た。自分でも拍子抜けする程に。


 「腐肉は燃える! 静香!」


 「うん!」


 陽介の剣が燃える。


 「速攻の合体技。火剣だあああ! ぶっ倒す!」


 陽介が修羅の如き勢いで敵を削って行く。

 マンドレイクは斬撃にも弱い。ジャック・ザ・ツリーも当然同じ弱点だ。

 斬撃と火。二つの弱点を同時に突ける。


 その削りは先程の比では無い。

 蔓は斬られ、火の粉が舞う。


 「回復! 私も同じの!」


 翼妃にも同じ状態になる。


 「しゃあ! 倍返しの時間じゃ!」


 翼妃も加わり削る勢いは増す。

 僕も突撃し、複数の足で攻撃を加える。

 火力を上げた僕達の勢いが止まった時、それは相手の死を意味した。


 「俺達の勝ちだ!」


 腐肉を払い、火を消す陽介。


 「黎!」


 「⋯⋯翼妃さん?」


 僕を大声で呼んだ翼妃。

 その顔は怒っていた。

 怒られる? 僅かに感じる恐怖。

 だが、僕の予想に反して翼妃ははにかんだ笑顔を浮かべた。


 「助けに来てくれてありがと。カッコ良かったよ」


 「いや、必死で⋯⋯」


 「それでも嬉しかった。黎がいなかったら最後まで諦めず抵抗する元気が出なかった。だからありがとう」


 「⋯⋯うん」


 僕が照れて斜め下を見ていた。翼妃の顔を見られない。


 そんな僕の肩に強く腕を回す陽介。


 「むっちゃ速くてびっくりしたぜ! あんなの出来たんだな! すげぇぜ! だけど俺達も頼れよ。俺達は仲間なんだからな」


 「うん。その通り。私も連れて行って欲しかったよ」


 「うん。ごめ⋯⋯いや。ありがとう」

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