第6話 難敵はいつも傍に

 この班には買い出し当番と言う制度が存在する。

 2人1組で3日分の食料を買いに行くのだ。

 今回は陽介と深川の2人なので、部屋には僕と白銀の2人だけが残っていた。


 僕は個体差がある事を知ったので、アンデッド兵に勉強をさせてみている。

 効果があるか分からないが。


 当然、僕自身の訓練も行っている。

 僕がもっと強くて、皆と足並みを揃える事が出来れば⋯⋯陽介が怪我をする事は無かったと思うから。


 「⋯⋯はぁ。ちょっと休憩」


 アンデッド兵は疲れを知らず、僕の命令通りに訓練を続けている。

 そんで僕は疲れを知る人間なので休む。


 「死霊の力が使えるなら⋯⋯体力を無尽蔵な状態に出来るのでは?」


 「それは人間辞めて無い?」


 僕の名案に的確なツッコミをされる。


 「ずっと訓練してるけど、楽しい?」


 「今は楽しいよ。知らなかった世界だから、とてもワクワクしてる。それに皆に追いつきたいからね」


 「無理はしないでね?」


 「無理したいんだよ。こんな僕を救ってくれた君のためにも」


 「照れるなぁ」


 僕はアンデッドが訓練している様子を眺める。

 横に白銀が座る。


 「黎くんはさ」


 その呼び名は定着しているのだろうか?


 「なんでアーチャーをする事にしたの?」


 「それは⋯⋯前で戦うのが怖かったからかな。流されるままに来てたから。自分が出来そうで戦えそうなのは⋯⋯このくらいかと思って」


 「そうなんだね」


 興味あるのか無いのか分からない反応をされてしまう。


 「だから陽介くんや白銀さんは凄いよね。前で戦ってさ」


 「えへへ。照れるなぁ⋯⋯ん?」


 頭に手を置きながら照れていたが、即座に固まる。


 「ね、いつまで苗字で呼ぶの? 下の名前で呼んでよ」


 「えっと⋯⋯それは⋯⋯」


 「それにしずちゃんの事も下の名前じゃないよね。他人行儀で嫌だなぁ。すっごく嫌だ」


 冷たい眼差しはその言葉の信憑性を高めている。

 

 寝る前に心の中で練習しているが⋯⋯やはり緊張と言うのが僕の中に存在する。

 知り合ったばかりの人と言う高い難易度に異性と言う属性が加わるのだ。仕方ないと言うものだ。

 と、言い訳はスラスラ出て来る訳だが⋯⋯。


 「⋯⋯ごめん」


 カーテン越しと言えど同じ部屋で寝るレベルの関係性だ。

 僕は申し訳なさで白銀から視線を外す。


 まだ勇気が無いのだ。

 3人はとても仲が良い。それに踏み込む勇気が⋯⋯僕には無い。


 「名前で呼んで欲しいな〜翼妃ってさ。⋯⋯それと、私も前で戦うの怖いからね」


 「えっ。そうなの?」


 驚きのあまり、隣を振り向く。

 白銀は当然とばかりに胸を張る。


 「怖いに決まってるじゃん。肉を斬る感覚も骨を断つ感覚も気味悪いし怖い。死ぬかもしれない。大怪我をするかもしれない。怖い理由なんていくらでもある」


 凄い、意外だった。


 「じゃあ⋯⋯なんで」


 白銀は僕の目を真っ直ぐと見た。

 サファイアのような蒼い瞳に僕が反射する。


 「私がやれると思ったから」


 「やれると⋯⋯思った?」


 「うん。世の中行動あるのみ! ウジウジ考えても何も起きない。だからやるの。陽くんはバリバリの前衛でしょ? 索敵とかの役目が不足してると思ったから私がやってるの。それだけ」


 「⋯⋯大変じゃない?」


 その通り、と言わんばかりに大きく目を見開き笑顔を向けて来る。


 「めちゃんこ大変だよ! 定期的に開かれるギルドの講習は受けないといけないし、トラップとかの知識や見極め方の練習や勉強。索敵とかは必死に経験を積まないといけないし」


 僕の想像以上に大変だった。

 僕は遠距離から攻撃するだけの弓兵だからだ。


 「⋯⋯僕にも索敵の方法を教えてよ」


 「え?」


 「少しでも⋯⋯君の負担を減らしたい」


 呆気に取られたのか、ボーッと見詰められた後、クスッと笑う。

 その後、背中をバシバシと叩かれてしまう。


 「ありがとう! 私も敵の気配とかあんまり分かってないから基本目視よ! だからずっと警戒すれば良いよ。⋯⋯ほんと、そう言ってくれてありがたい」


 「うん⋯⋯あ、それくらいならアンデッド兵が出来そう」


 索敵なら戦わないし、単なる移動ならスケルトンも壊れる事は無いだろう。

 しかも先手で相手の位置が分かれば、狩りの効率も上がる。


 「⋯⋯だがどうやって先行させたスケルトンと意思疎通を図るか⋯⋯スマホか?」


 「ダンジョンの中だと電波無いから無理だよ」


 「だよね」


 さて、またもや名案に的確なツッコミを受けてしまった。

 これも後々の課題だろうな。


 「僕のユニークスキル、面白いな」


 理解すればするほど新たな謎が出て来る。

 僕だけのスキルだから、僕が調べないといけない。

 そこが⋯⋯楽しい。


 自分の意思で何かが出来る、学べる今がとても楽しい。


 「⋯⋯ま、怖い事は他にもあるんだけどね」


 「え? 何か言った?」


 「なんにも言ってないよ!」


 小さく何か言っていた気がしたが、気のせいだったのか?

 バシッと背中を叩かれて否定されたので、それ以上は気にしないでおくことにした。

 背中がヒリヒリと痛い。


 ステータスの力があってこれか⋯⋯レベルの差を感じるぜ。


 2時間もすれば買い出しに行っていた2人が帰って来た。

 氷も買って来ており、生物を一箇所に冷やしている。


 「料理は帰った後に。ダンジョン行こうぜ!」


 「陽介くん、怪我の方は大丈夫?」


 「俺は剣振るって戦ってるからな。頑丈なんだよ! 行こうぜ」


 本人がそう言うなら、僕は何も言える事は無い。

 前回と同じマンドレイクの蔓延る草原へやって来ていた。

 前回は囲まれて逃げ帰ったが、今回はどんな作戦で行くのか。


 「いつも通り真っ直ぐ進んで出会ったモンスターを片っ端から倒す!」


 「作戦名、脳筋作戦!」


 「凄くダサい」


 「僕も頑張る!」


 前を進む2人を追いかけるように、僕と深川は歩みを進める。

 最初のマンドレイクはゲートからあまり距離が無いところでエンカウントした。

 アンデッド兵の活躍は期待出来ない。


 先制攻撃は僕の弓だ。


 「根の塊⋯⋯隙間を狙って⋯⋯放つっ!」


 練習の成果はあるのか、木の根の塊のようなマンドレイクの体にある隙間に矢を通した。

 内部にある心臓部へ刺さったかは謎だが、6本の蔓が内部から伸びて来る。

 最初から全力って事は激おこだ。


 「激おこプンプンだね。私が倒すから陽くんは盾役ね」


 「分かった!」


 それで良いのかリーダー。


 「これが私達。リーダーの枠組みはあるけど、皆対等でチーム。黎弥も一緒のチーム。だから、1歩下がった関係なんて必要ないんだよ」


 「どこか棘を感じます」


 「さぁ。どうかな」


 怪しく微笑む深川から視線を外し、2人の戦いを見守る。

 正直、2人の連携があればマンドレイク一体に苦戦する事は無かった。


 陽介が相手の攻撃を捌き、白銀が隙を狙ってショートソードを内部に突き刺した。

 ザシュっと音がした後に、グジュっと内部で刃を回した音が聞こえた。


 ショートソードを抜くと、プシュッと緑色の体液が溢れその身を粒子に変えて行く。


 「はい撃破!」


 「そろそろ俺も討伐数を稼ぎたいんだがな」


 「小回りが利かないとトドメは刺しにくいからね。諦めなさいな」


 「⋯⋯ヤダね!」


 陽介の考えた後に出した答えが子供のような言葉だった。

 2人はどちらかが先に倒すのか競争するかのように、鬼の如き気迫でマンドレイクを狩り出す。


 僕と深川は2人に迫り来る攻撃に対して対処を行う。

 僕は矢で蔓の動きを阻害、深川も魔法で攻撃を繰り出す。

 深川だけは、削られたマンドレイクを横から掠め取る方法を取る時があった。


 「私が1番倒してる」


 「「ずるいぞ!」」


 深川は負けず嫌いなのかもしれない。3人の中で1番倒している。

 2人が争っているのをしっかり利用した姑息なやり方である。


 報酬は山分け。

 お金に余裕が出来たから、アンデッド兵に武器を買ってやるのも良いかもしれない。

 焼け石に水かもしれないが。


 「⋯⋯ん? 何あれ、大きい」


 白銀が目を細め遠くを見た。

 その違和感ある行動に僕達も反応する。

 遠くに見える、揺らめく影。


 「全員警戒! 武器を構えろ!」


 陽介の判断。その指示が下った瞬間、影は大きく跳躍する。

 そして、俺達の目の前にドスンと着地した。


 その大きさは通常のマンドレイクよりも一回り、二回りも大きい。

 大きいだけじゃない。

 身の毛もよだつような、恐怖の感情が全身に伸し掛る。


 ⋯⋯エルダーゴブリン、同等かそれ以上の強さを秘めている。

 ダンジョンに入り、段々と感じるようになった敵の威圧感。

 それが今、重く伸し掛る。


 「やるぞ、お前ら。敵はジャック・ザ・ツリーだ!」

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