第5話 新しいダンジョンへ

 ハウスにて、僕はアンデッド兵に訓練を施していた。

 基礎的な格闘術だが、きちんと経験が積まれていると考えている。

 ゲーム的考えになってしまうのだが、訓練により経験値を増やす算段だ。


 ソウルも増えたので、兵の数も増やして訓練をして行く。

 早く使いものになる強さが欲しい。


 「⋯⋯さて、どうしたもんかな」


 「なーにが?」


 「うわ!」


 「そんなに驚かんでも」


 いきなり白銀が独り言に混じって来たのでびっくりした。

 転がった僕を見下ろす白銀⋯⋯その脚には包帯がまだ巻かれている。

 申し訳なさそうな顔をしていると、白銀が慌てて話題を変えて来る。


 「それでどうしたの?」


 スケルトンはスケルトン同士で、ゾンビはゾンビどうして格闘訓練の模擬戦をしている。

 それを眺めながら僕はある情報について共有する。


 「実はソウルにちょっとした変化が出たんだ」


 「ちょっとした変化?」


 「うん。エルダーゴブリンを倒す前は単なるソウルだったんだけど⋯⋯倒した後からは普通なソウルと上質なソウルの2つになったんだ。上質なソウルは1つだけある」


 違いは一目瞭然だろう。

 質の違いはきっと召喚するアンデッドの力に比例する。

 この上質なソウルの使い道は慎重に考える必要があるだろう。


 「へぇ〜」


 「めちゃめちゃ興味無いな!」


 「まぁ、何に使うか決めるのは黎弥だし。どんな決断をしても私達はそれを尊重する。それだけだからね」


 「⋯⋯そっか」


 僕は白銀から目を逸らし、目を瞑る。

 ソウルを認識すれば2種類のソウルが脳内に浮かび上がって来る。

 上質なソウル⋯⋯モンスターのランクでソウルの質も変わるのだろう。


 「色々と考えたい事が増えたな」


 「良かったね」


 「良い事⋯⋯なのかもね」


 考えていられる内は充実した日々を送っている事に他ならない。

 新たな発見と言えば、アンデッドの個体差もそうだろう。

 格闘訓練1つ取っても上達速度が各々違う。


 見た目の変化は区別出来ない。召喚した僕でしかまだ個々の判別は出来ない程だ。

 今後、お金に余裕が出来たら武器を与えてみるのもありだろう。


 「翼妃、足は動きそうか?」


 「痛みも無いし傷も塞がってる。問題無いよ。今は痕の修復だからね」


 「ならダンジョンに行こうぜ。ゴロゴロしてても時間の浪費だ」


 反対意見は無く、紅月の言葉でダンジョンに向かう事にした。

 前回のゴブリンのダンジョンは既に誰かに攻略されたらしいので消滅した。

 なので、近場で同難易度のダンジョンへやって来た。


 中に入ると、そこは別世界だった。

 辺り一面に広がる草原は先程までいた街中とはまるっきり違う。


 「⋯⋯ここが、ダンジョン」


 「フィールドタイプはいつ見ても壮観だな。一応日没とかの概念はあるから、時間感覚は狂いにくいぜ」


 確かに。太陽がある訳じゃないのに明るい。

 ポカポカとした温かさも無いし、不思議だ。


 「ただ広いし自由度が高いから、帰り道が分からなくなるときついけどね」


 「それやばくない?」


 僕が地図を書きながら進んでも良いが、紙とペンが無い。


 「これあるから大丈夫」


 深川が出して来たのは方位磁針だった。


 「これは市販で売られているただの方位磁針。ダンジョンの中ではゲートがS極の力があるらしくて、赤色の部分がゲートの位置を教えてくれる」


 「そうなんだね。これなら迷わないね」


 「うん。迷宮型だとむしろ迷ったりするから使いずらいけどね」


 新たな知識を得た中で攻略を始める。

 ここのダンジョンではマンドレイクが主に出現する。

 マンドレイクは木の根を練り固めたような異形の姿をしている。

 先端が鋭い刃のような蔓を操り攻撃して来るらしい。


 その見た目からも分かるように火に弱いらしく、深川の魔法がとても頼りになる。


 「ねぇねぇ」


 白銀が僕の隣にやって来る。

 何かと隣を見ると、ニコッと微笑みかけられる。いきなりなので怖い⋯⋯が可愛いと思う自分もいる。


 「あんまり緊張しないでね」


 「え?」


 「変に緊張してる方が失敗するんだよ。程よい緊張は当然必要だよ。でも、必要以上に緊張するとコンディションが悪くなるからね」


 「⋯⋯うん。ありがとう。白銀さん」


 「は?」


 白銀さんの目からハイライトが消えた。

 何かの地雷を踏み抜いた瞬間、紅月が剣を抜いた。


 「最初は一体だけだな」


 マンドレイクと接敵したのだ。


 「この話は後回しだね」


 「え?」


 白銀もショートソードを2本抜いて前へ出る。

 訓練もしたし、多少なりとも動けるだろう。

 僕はスケルトンを3体召喚する。


 1度ソウルを使って召喚した奴はいつでも呼び出せる。普段どこにいるのか分からないが、呼び出したり消したりいつでも可能だ。


 「大丈夫なの?」


 深川が心配そうに声をかけて来る。

 戦力外通知を受けているようで、少し心にダメージを受けるが大丈夫だ。


 「行けスケルトン!」


 3体のスケルトンはマンドレイクに向かって走る。

 彼らは馬鹿では無い。言葉の意味をしっかりと汲み取って動いてくれる。


 蔓が2本、マンドレイクから伸びてスケルトンを切り裂かんばかりに襲い来る。


 「躱せ!」


 模擬戦の訓練で『回避』の言葉と意味をしっかりと理解している。

 蔓のしなりを利用した素早い攻撃。だが、機動力ならスケルトンも負けてはいない。

 相手の攻撃をしっかりと回避し、肉薄する。


 「やるじゃん!」


 紅月が笑みを大きくする中、僕は攻撃の命令を下した。

 すると、根の隙間に手を突っ込むようにして攻撃した。

 その腕はへし折れ、マンドレイクにダメージを僅かに与える。

 内側に骨を撒いただけでも、活躍したと言えるだろう。


 僕はスケルトンを戻して回復に専念して貰う。

 きちんと訓練すれば戦えるようになると、これで分かった。

 今のところ実用性が無い事も、同時に分かった。


 後は普通に倒すだけだ。


 「陽くんは蔓の攻撃弾くなり斬るなりして。本体は私が直接叩く!」


 「分かった! 静香は魔力温存、黎弥は隙間を狙って攻撃だ!」


 「「了解!」」


 深川は僕よりも後ろに下がり、僕は矢を番え弦を引き狙う。

 白銀は斬撃の雨を浴びせながら背後へと回る。

 射線上に紅月がいないタイミングで矢を放ち、しっかりと命中させる。


 「私がトドメを刺す!」


 「深追いすんな退がれ!」


 紅月の言葉に素直に従い白銀が後ろに下がる。

 3本目の蔓が背中から真っ直ぐと伸びた。

 あのまま白銀が攻撃をしていたら、胴体に風穴を空けていただろう。


 「うふぇ。隠し球〜」


 「ちゃんとネットで調べてねぇだろ! マンドレイクの腕は4本だ」


 そう言いながら4本目の腕で紅月を攻撃するマンドレイク。

 僕は完全に腕が無くなった中身に向かって矢を放った。

 より深い刺さりをした矢によって動きが鈍り、その隙を突いて白銀がトドメを刺した。


 「やりぃ」


 「ナイス!」


 前衛2人がハイタッチをする中、僕はソウルを回収した。

 普通なソウル、ゴブリンと同じランクの敵らしい。


 「この調子でじゃんじゃん倒そう!」


 「油断すんなよ? 平地だと手数の暴力は脅威だからな」


 「さっすがーリーダー。その見た目で冷静だなぁ」


 「からかうな!」


 仲の良い二人を見ていると⋯⋯お似合いだと感じてしまう。

 モヤッとした気持ちを考えさせないかのように、複数体のマンドレイクに見つかってしまう。


 この草原、僅かな木々や大きな岩はあるが基本的に平地。

 敵を見つけやすく敵に見つかりやすい。


 「この数はやべぇ。一部を倒したらそこから逃げる。全員背中合わせになれ! 死角を作るな!」


 僕はどうすれば良い?

 経験不足なんて言っている場合では無い。


 「私が魔法で正面3体を倒す。魔法の準備に少し時間がかかるから守って」


 「「了解!」」


 3人の連携はスムーズである。

 僕だけが蚊帳の外だ。


 だったら、正面の敵に集中しよう。

 今の僕に出来る事はそれくらいだ。


 「私がしずちゃんの後ろを潰す。黎くん、足に骨頂戴」


 「分かった!」


 「逃げる時には全員に頼むぜ!」


 紅月は深川を全面的に守るらしい。

 深川の魔法が完了するまでの間、必死に敵の攻撃を誘導する。


 「蔓硬いなぁっ!」


 白銀の愚痴が遠くから聞こえる。

 自分の呼吸音すら遠くに感じる。

 矢を放っても、相手の手数の前に容易く弾かれる。


 ⋯⋯僕は⋯⋯弱い。


 「クソっ」


 「黎弥!」


 「えっ」


 紅月の叫びが真後ろから聞こえた。

 振り返ると、そこにはマンドレイクの蔓が迫っていた。

 先端がキラリと輝き、真っ直ぐ僕に迫る。


 「危ねぇ!」


 「っ!」


 紅月が僕を突き飛ばし、横腹を蔓が抉る。


 「あか⋯⋯」


 「ボサっとすんな! 魔法!」


 「あ!」


 僕は全員の足にスケルトンの力を付与する。

 火の魔法で3体を同時に処理した瞬間、全員で走り抜ける。


 「マンドレイクは根を張って移動するモンスターだ。移動スピード自体は遅い。このスピードなら逃げ切れる!」


 紅月の言葉。

 彼は横腹を抑えながら走っていた。


 「ご、ごめん。僕が⋯⋯油断してたから」


 「まだ3日目だ。囲まれたら冷静になれねぇのも理解出来る。だが、自分の命がかかってるんだ。死ぬ気で生きろよ」


 「うん!」


 「なら良い!」


 自分が1番辛いはずなのに、太陽のように眩しい笑みを僕に向けて来た。

 この人は⋯⋯とても明るく、引っ張ってくれる存在だ。

 とても、頼りになる。


 「⋯⋯よ、陽介くん」


 「⋯⋯っ! おう、なんだ」


 「ありがとう」


 鳩が豆鉄砲をくらった顔をしたが、すぐに眩しいくらいに明るい笑みを浮かべる。


 「当然だぜ。なんたって俺はリーダーだからな」


 「クソ痛いクセにカッコつけつけちゃって」


 「うん」


 「お、お前らな」


 「⋯⋯はは」


 僕は⋯⋯この人達が好きだ。

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