第2話 フォンテーヌ家

「婚約破棄…?」

冷たい声が食卓に響く。主と奥方と、2人の息子が食事の手を止め報告する執事を見た。

皆見目麗しく、銀髪に青い瞳をしていた。青は高貴の家の者に多く、銀髪はこの家系の特徴でもあった。

「はい。夜会の前にエスコートをニナマリー男爵令嬢に変更したいと控室で王太孫様に言われ、お嬢様もそれで良いとお返事をしましたので夜会には参加せずに帰宅しました。」

「なんと…。あのボンクラ息子が!そもそも娘をあんな肥溜めの王家にくれてやることすら嘆かわしいことだったのに、愚か者めが……!!」

「貴方、落ち着いてください。あの子を連れてきなさい。なぜ報告がお前からなの?」

激昂するこの家の主と奥方に、報告をした執事は頭を下げる。悩んだが、どうにも感じた違和感が抑えられず、口を開く。

「お嬢様ですが、今は自室にてお休みいただいています。また明日お時間をとって話をしたいとのことです。…少し、気になる点が…。」

「どうしたというの?」

「以前のお嬢様とは全くの雰囲気が…その、婚約破棄がショックだったのかもわからりませんが、それにしては堂々となさっていて、内気な、大人しいお嬢様とはまったくの別というか…」

「あの娘が?こういっては何だけど、心が弱いあの子のことだもの、怯えてしまっているのでは?」

「いえ、どこか旦那様にも似た、毅然としていて…迫力があるというか…。」

「ハハハッ!私に似てだと?悍ましいことを言うな。似てるなど思ったこともない!」

「貴方…。さて、どうでましょうか。そのままという訳にはいきませんよ?あの子にも罰を与えなければいけないわ。」

執事はにっこりと笑う奥方に冷や汗を垂らしながらお茶を出す。普段は穏やかな奥方は、怒らせると旦那様よりも怖かったことを思い出した。

2人の息子は静かに食事をしだす。まるで話題に興味がないようだった。


フォンテーヌ家は公爵の地位を持ち、公爵家はこの国には3つしかない。

オーティス家、タッカー家、ギャヴィン家である。

我が家はオーティス家の分家ではあるが、オーティス家には跡取りがいないため、血脈を繋ぐために例外的に公爵の地位が私の父親に付いている。私には兄弟がいて、兄が今のところはオーティス家の養子に数年後になり、弟である次男がフォンテーヌ家の爵位を継ぐ教育を施される予定である。私は王族の後継第4位である現王の孫で次男のレオンハルトと政略結婚を組んでいた。

「ふ…。まるで私のための日記ね。」

寝台の横の机には日記がしまってあり、異国の文字ではあるが、不思議と読むことができた。日記は毎日綴られているわけではなく何かあった時に書くスタイルのようで、数年分を要点よく楽に学ぶことができた。

「あの男がレオンハルトか…。あの女、地位は低いが愛嬌を持っていてうまく取り入っている。」

さて、婚約者が奪われているというのに、この身体の持ち主ときたら呑気に日記にどのように取り入ったかまで記している。その事について両親からもきつく叱られており、婚約破棄となれば恐ろしい目にあうと恐れている内容もあった。

「愚弄されて捨てられることに甘んじているのか…。」

心のなかに、憎しみの種がある。炎で身が焼ける感覚がある。許さない。この私を軽んじることを。

「…すこし、周りを知る必要がある。明日が有るならば、明日にでも。」

疲れ切った身体を布団に潜らせる。それにしても、この布団、ベッドというもの、ふかふかで素晴らしい。なんせ、今日は硬い床の上で一度死んでいるのである。疲れどころか、このまま目覚めないことすらあり得ると思えば、この微睡みも愛おしくすら感じた。ゆっくりと目を閉じて、眠りについた。




―――すぐに、夢と解る。


何故ならば、燃えゆく城の中の己の死骸を見つめているからだ。


「ははうえ。」


ああ、本当に夢なのだ。息子が立ち上がり、私の亡骸を抱いた。死んだはずの私も、手を伸ばして抱き返す。ふと、己と目が合った。口元がうごく。



――――わたしを、たすけて。――――

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