戦国異世界転生 ~戦国の姫君、異世界で無双する~

@kakiatari

第1話 絶望

絶対に許さない。私を追いやったもの、裏切ったもの、弱い己も、すべて。

床に広がる赤い血を眺めながら、全くの無表情で床を掻いた。零れ落ちる己の命を眺めながら、すでに落ちてしまったわが子の命を想う。この手にあった幸せをすべて奪われてしまった。

もしも、とつぶやく。音にもならなかった。もしも来世があるのならば、絶対になにも奪われない。手にした幸せをしっかり掴んで一粒も取り零さない。そして、もし奪おうとするものがいるならば、絶対に許さない。命が燃え尽きる直前でも私は一切を許さなかった。神も仏でさえも私は許さない!


「許さない!絶対にっ!!」


大きな声だった。体に痛みも苦しみもない。何より驚いたのは目の前の景色だ。見たこともない藁のような髪色の男が目の前にいた。服装は伯父を思い起こすような外套を肩にかけている。目をぱちくりと瞬くと、とたんに景色が色鮮やかに襲ってきた。机、椅子、壁、天井、床、すべてに豪華絢爛な装飾がなされている。ここはどこだ。伴天連のいう、極楽浄土か。それにしては着ている服の重みがなんとも現実的である。

「…許さないとは、急にどうされたのですか?ヨランダ殿。」

声は優しく、それでいてどこか横柄な響きを持っていた。藁の髪の男がこちらをうかがう。よくみれば瞳は青く、顔も神秘的な美しさである。頬に触れてこようとする手を咄嗟に払いのけた。

「まあ!大丈夫ですか?王太孫様!」

男の後ろに女がいた。これも奇天烈な薄紅色の髪と真っ赤な瞳をした女だった。こちらをにらみつけて男の前に立ちはだかる。

「婚約破棄をされて、許さないもなにも、貴方の許しなど要らないのですよ。夜会の前に人目のないところでお伝えくださった王太孫様に感謝するべきだわ。」

「ニナマリー、いいんだ。急なことではあるし、手続きもまだだ。動揺する気持ちもわかる。だが申し訳ないが、もう君に気持ちはないんだ。僕の運命はこのニナマリーにあった。美しいルビーのこの瞳から、目が離せない。」

「王太孫様…!」

目の前ではしたなく抱き合う男女を、軽蔑した眼差しでみてしまう。破廉恥で羞恥心のかけらもない愚か者と。

「…よう、解らぬが、許す。」

「は?」

「え?」

「許す。よくよくお似合いのようだ、ほれ、あちらに行かれよ。盛るなら、私の目に留まらぬところでせよ。」

王太孫は瞬きを何度もした。ニナマリーも同じである。呆然としている二人の前に、自分の後ろに控えていた男が立ちふさがった。

「申し訳ございません。お嬢様は混乱しておいでのようですので、これで失礼致します。」

肩を抱えられるように扉に誘導され、そのまま外まで長い廊下をあるき、荷車に乗せられる。なぜだろう、この男は信頼できる。この訳のわからない状況でそう感じた。

「お嬢様。大丈夫ですか?なぜ急にあのようなお振舞を…」

「お前、名は?」

「は?」

「名を。なんという?」

「ミノスです。お忘れですか?」

「ん?みつなり?」

「ミノスです。」

合点がいった。この妙に信頼できる男はあの佐和山の狐、石田三成ににている。しっかりと整えられた薄茶の髪に、神経質そうな眼差し、眉間のしわ。何よりおそらく身分が上であるあのふざけた破廉恥男にも臆せず自分の主をかばったあの姿は素晴らしく三成に似ていた。あの家康からも唯一私の息子をかばい続けたあの男に。死なせてしまった、敗軍の将。

「お嬢様、この件は旦那様にもご報告させていただきます。よろしいですね?」

そう言われても、状況が全く解らない。ここはどこで、自分はいったい誰なのだろうか。そっとガラスに映る己の姿を眺める。歳は14、5だろうか、不思議なことに若返った己がそこに映し出されている。この極彩色にあふれた世界に不釣り合いな真っ黒な髪と瞳。

「…私は、美しいか?」

おそらく、婚約者に振られ自信喪失していると思われたか、脈略のない言葉にもミノスは咎めずにこちらをまっすぐと見た。そっと慈しむように両手を取る。そこにはいやらしさが微塵も感じない。親兄弟のような温かみのある行為だ。

「貴方様が生まれたときより、執事として仕えております。信じてください。お嬢様はどこのご令嬢よりお美しく、可憐です。その唯一無二の漆黒の髪と瞳は、この世の夜の美しさを閉じ込めたようだと、かの王太子殿下からのお墨付きではございませんか。まぁ、そのせいであのアホ太孫とご婚約が決まってしまったのはご不幸ではありますが、婚約破棄されたとしても、夜の女王と言われたお嬢様なら次のご婚約者様にもすぐ恵まれますよ。」

「…夜の女王か。くくっ、それは良い響きだ。気に入った。」

美しい。それだけわかれば十分だ。

私は確実に死んでいる。魂は、死後どこにいくのか、その答えをみているのかもしれない。または長い長い夢をこの体で見ていただけなのかもしれない。いずれにしても心の中にあるのは、刻まれた後悔と憎悪である。それらがチリチリと心臓を傷めつけた。

奪われるな。何もかもを手にいれなければ。

天地は同じ、夜は暗がり。朝は明るいのだろう。それでいい。それさえわかれば、私は私だ。この異国の生まれ変わりに意味があるのか、はたまたただの夢絵巻だろうがなんだろうが、この憎悪を抱えて生きてやる。

「身体が、熱い。燃えてしまったのは、身体だけだったのか…。魂は、どこにきたのか…。」

「お嬢様?」

「詮無いことだ。よい。」

高度な技術の薄いガラス越しに外をみた。冷めた魂は新たな世界を手に入れた。頬を涙が伝う。息子に会いたかった。また、産み直せるだろうか?腹を擦り呆然と外を眺めることしかできない。

ここは、どこなのだろうか…。







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