第9話 友達ってなんだ
『お、お友達とかはどうですか!?』
数日前に大崎から言われたことが今でも頭の中を反芻している。
人気女優からの友達申請。こう言えばまるでゲームのフレンド登録みたいに聞こえるが、実際はボタン一つで気軽にできるものじゃない。
最初は損害賠償がどうだのと芸能人の闇の部分を垣間見た気がしたが、どういうわけか請求が可愛らしいお願いに変わったのは置いておこう。
迂闊に突っ込みを入れると大崎がまた拗ねる可能性があるしな。
「……でも、女の子の友人って何するんだ」
生まれてこの方女の子、しかも同年代の子と交友関係がなかったので、具体的な関係性がいまいちピンとこない。
二人でどこか出かけるのは付き合っていなくてもするものなのか。
じゃあ、夜や暇な時間に連絡を取り合うのは??頻度はどのくらいだ??
そんな数々の疑問が湧いては解決できずに積み重なっていく。
せっかくの午後からの授業でゆっくり寝られるというのに、変に頭が冴えてしまったせいで、新聞配達のバイクの音だけがブルブルと響く時間に起きてしまった。
いくらなんでも早すぎるぞ……
「聞くしかないか……」
ただでさえ友人がいないというのにその判断をたった一人の人間に委ねるのはどこか危ない気がしてならないが、ここはあいつの良心を信じるしかないか。
そんな微かな別ベクトルの不安を抱えながら、俺は恭也とのトーク画面を開いて短いメッセージを打ち込んでおいた。
――
「で、話ってなんだ。お前から誘うのなんて今まであったか??」
「まあなんというか。恭也にちょっと聞きたいことがあってな……」
俺たちが通う国立八橋大学の食堂。
ランチタイムは人でごった返しているこの場所も時間が過ぎて夕方近くになると、いるのは掃除しているおばちゃんと数名の課題に追われている学生だけだ。
ある意味時間を考慮すれば何かと話ができるここで、俺が奢った缶コーヒーをすすりながら恭也が問いかけてくる。
「まあいいが。いつも世話になっている礼だ。部活始まるまでなら大丈夫だ」
「そんな大そうなことじゃない」
ポンと缶コーヒーを置いて、促すように視線をこっちに向けてくる。
「まあ、なんというか最近知り合った女の子が――」
「おいマジかよ。お前彼女できたのか?!」
「声がでかいし、いちいち立たなくていい。しかも彼女じゃない、話は最後まで聞け」
「お前がこうやって改まって話始めて、出てきたワードがそれなら誰だって驚くだろ普通」
「驚かねえよ。俺みたいなやつにそこまで興味持つやつはいない」
ガタっと椅子から立ち上がった恭也をなだめて、俺はため息をつきながら普段飲まないカフェラテを一口含む。
そんなに俺のプライベート謎に包まれえていることないとは思うのに、恭也の反応は新種の生物を発見したかのような興奮具合だ。
「改めて言うと、最近知り合った女の子がいるんだけどな。俺、同年代の女子の友達とかいなかったから接し方がわかんないんだよ」
「なるほどな。それで解決できそうな俺が抜擢されたと」
「ただ知り合いがいないから聞いてるだけだ。ただ恭也がいろいろ経験があるっていうアドバンテージがあるだけ」
「まあ、その手の話ならある程度答えられる気はするが……」
「……なんだよ」
腕を組んで俺を見る恭也の目は、どこか品定めをしているような感じだ。
何か俺の顔に付いているのかと、ペタペタ顔を触っても何もない。
「お前、どうしてそんなこと聞くんだ??」
「は??」
「言ってただろ??『俺は友達が中高でいなかった』って。お前が性格に難ありで友人ができなかったわけじゃないぐらい俺でもわかる。お前は色んな理由で積極的に周りと絡みに行けなかった。そんなお前がどうして、その子との関係を考えようとしてるんだ??」
「それは……」
そう言われて初めて深く考えた。
今まで、友人が欲しいと特別思ったことはない。必要ないとは言わないが、機会がなかったのは間違いない。
では、機会があれば友人がたくさんいればいいのか、と言われれば、それはYESではない。
誰だって気の合う人と過ごしたいし、好きな人であれば何かと話題を作ってでも関係を続けていこうと努力するだろう。
じゃあ、俺に当てはめるとどうなるのか……
しばらく考えて、俺は恭也に向き直る。
「その子との縁を大切にしたい、からじゃダメか」
「いいんじゃね。そこにどんな理由があろうと俺はどうでもいい。ただ、その気持ち一つでこれからする行動はおのずと見えてくるんじゃねえの」
「気持ち一つで……??」
「ああ。お互いまだ知り合って日が浅いなら自己紹介みたいな感じで連絡取り合って、好きなものの話をするなり、気になった場所に行ってみるなりできるだろ」
「まあ、確かに……」
「別に、お前が考えていたような付き合い方のテンプレートなんてねえ。自分のしたいこと、相手がしたいことを探りながら進めていく。それも一つの友達付き合いじゃねえの??」
どこか達観したように言った恭也は缶コーヒーを一気に飲み干して、近くのごみ箱に放り投げて重そうなカバンをよいしょと背負う。
「んじゃ、俺もう時間だから行くけど??」
「……あぁ、すまん。もう一個だけいいか??」
恭也から言われて自分なりに考え、大崎との友達付き合いをしていくうえで必要なことが星の数ほどあるのは何となく理解できた。
それが普通の友達付き合いとは少し、いやかなり違うものであってもだ。
俺がしたいこと、大崎がしたがっていることは必ずあるはず。
それを踏まえて恭也に聞かないといけないことが、今とっさに思いついた。
「……どこか落ち着いいい店、知ってるか??」
「任せろ、いくらでも教えてやる」
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