第23話

お風呂のあと、2人で台所に立ちました。

慣れない手つきでお米を研ぐ藤くんを見て、チャマは笑っていました。


急いで炊いたご飯と、味噌汁、卵焼き、魚。

あとは野菜を煮て、「納豆が食べたい」『だったら自分で買ってきなさい』とか言い合いをして。

できあがった料理を並べ、向かい合って座り、ゆっくりと全部食べつくしました。



藤「…ごちそうさん」

直『はい、お粗末さまでした』

藤「うまかった。すげぇ食った」

直『そう?良かったー。おかわりしたもんねぇ』

藤「いつもここまで食わないんだけどな…」

直『そういえば、ご飯ってどうしてるの?』

藤「うーん…なんか適当に。店で食うこともあるけど、買ってきたもののこともあるし」

直『ええと…お母さんはいないんだよね?誰かそういうことしてくれる人がいるの?』

藤「いや、親父の配下のおっさんが」

直『配下』



日常生活であまり使わない単語に、思わず真顔になるチャマ。

“言うんじゃなかった”という微妙な表情の藤くん。


それを見て、くすくすとチャマが笑いました。熱いお茶をいれて、片づけた後のテーブルに置きます。



直『この家は、やっぱりよそとは違うね』

藤「…ああ」

直『でも、すごく居心地がいい。藤くんがいるからかな』

藤「そうか?無理に褒めなくていいぜ」

直『ううん。俺はほら、これから帰る家がボロアパートだからさ。誰もいないし』

藤「……」

直『たとえ他のみんなに嫌がられたとしても、俺はここが好きだよ』



茶碗を両手で持って、テーブルに肘をついて、艶やかに笑う顔。

きちんと乾ききっていない赤い髪が、動くたびにしっとりと揺れます。



藤「チャマ。こっち来いよ」

直『え?ひ、ひざ?いや、その、それは…』

藤「誰もいねぇじゃん」



そうして、2つの影が1つになり―――



藤「あれ?おまえ…、なに反応してんだよ」

直『うるっせ…』



驚いたような面白がっているような、藤くんの声。

家は広くても台所はそこまで広くなく、2人の唇がやわらかく重なりました。



直『ん…、ふぅ…っ』

藤「はぁ…、ちゃま」

直『ふじくん…ぁん…』

藤「ん…?どうした。積極的だな」

直『…自分こそ』

藤「おまえがエロいのが悪い」



彼の着ていたゆかたが、帯からゆっくりと解かれていきます。

借りていた作務衣は、さらに時間をかけて、恥じらいとともに脱ぎ捨てられ―――



藤「おまえ、やーらしい…。自分から、俺を脱がすなんて…」

直『うぁ…だ、だってぇ…ふじくん、が…』

藤「おまえ、もうこんなに欲しがってるの?恥ずかしいと思わないのか?」

直『あっ、ああ!ん、ゃ、あぁ…あぁ、は、恥ずかしい…けどっ…』

藤「ん…?」

直『ふじくん…台所って、すごくエッチな気分になるね…』

藤「っ、おまえ!」



紅潮した頬と潤んだ瞳で、そんなことを言うのは反則でしょう。

明かりをつけたまま、テーブルや椅子や床に手をついて交わる姿は、他の誰にも絶対に見せないものです。



直『あぁっ!や、あぁん藤くんっ…、や、いく、いっちゃうぅ…!!』

藤「はぁ、はっ…イけよ…っ!ほら、ちゃま、チャ、マ…!!」



お互いに体じゅうから搾り取るような快感で、荒い呼吸をつきました。


その夜もまた、チャマは藤原邸に泊まり―――

藤くんの口から「ここに住めよ」という言葉が出るのは、そう遠い日のことではありませんでした。

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