第8話
家に戻ってすぐ、玄関で靴も脱がないまま抱きしめられた。
抵抗するひまもなく唇をふさがれる。
薄い壁の安アパートで、隣同士の音も聞こえてしまうのに。
切羽詰まった藤くんの目が、久しぶりに俺を求めているのが見える。
この数か月の間漂っていたつかみどころのない雰囲気は何だったんだろうね?
そう、思わせるような。
藤「チャマ」
直『んっ…あ、ふ、藤く…ちょ、急すぎ…』
藤「待てない」
直『や、やだぁ、待って…だって俺っ…』
藤「だめだ」
止まらない。止まってくれないことがひどく嬉しいけれど、俺は…
藤「ちゃま、ちゃま…っ」
直『あぁ…あ!や、ぁ…っく…』
藤「…っ?」
やばいと思った瞬間には出ていた。
長く体を震わせる俺に、さすがに藤くんが驚いたように動きを止める。
藤「おまえまさか…挿れただけでイったの?」
直『うるせぇ…』
悪態をついたはずの声がかすれる。それを聞いて満更でもなさそうな表情の藤くんがむかつく。
俺が誰のせいでヒロに走ったと思ってんだ、あぁん?
直『いたい』
藤「え?」
直『手。ちょっと痛い、優しくして』
藤「あぁ」
くすりと笑ってそのまま動き始めるのがむかつく。
ちゃま、ちゃま、と俺を求める甘い声がむかつく。
その声を欲しがってどうしようもなかったついさっきまでの俺が、むかついてしょうがないんだ。
直『ど、して、俺っ…』
藤「え?」
直『おまえ、なんか好きに、なっちゃったんだ、ろ…っ』
藤「…ふん」
直『ヒロと、いっしょに、いれば…、あぁっ』
藤「あいつの名前は出すな…!!」
あぁ、初めてまともに嫉妬の表情を見たかも。
妬かれることがこんなに幸せに思えるなんて、俺はきっと頭がおかしい。
俺の全部を支配して。
俺をきみの虜にして。
俺はきっと藤くんのために生まれてきたから。
藤くんのことを考えすぎて、藤くんのことしか見ていなくて、他の全部はもうどうでもいいから。
直『あぁ…ふじ、く…またイッちゃう、いっちゃぅ…!!』
藤「今度は俺も、一緒に…な?」
直『あ、あぁん…』
世界が白くはじける瞬間、そういえばここはまだ玄関だったと思い出した。
道理で背中が痛いわけだ。
でもこれでいい。藤くんの手が俺の背中をかばって痛くなるより、この方がずっとマシだ。
直『藤くん…、愛してるよ』
藤「うん。俺も愛してる」
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