第三章
第5話
――ねぇ、そしたら俺さ、遊園地に行きたいな。
――遊園地?
――うん。明るい空の下でいっぱい乗り物に乗って、パレードとかあったらそれ見て。
――お~。ベタなデートっぽい。
――夜は花火とかあったらいいなぁ。そんで、旨いんだかまずいんだかよくわかんねー飯食ってさ。
――あっはっは、おまえひどいな!
――いいじゃん!行きたいよぉ。
――うん、いいな。俺も行きたい!
子供の頃に連れてきてもらって以来、久しぶりに訪れたそこは、新しいアトラクションや設備が整えられてすっかり様変わりしていた。
それにしても暑い。どうなってんだよ、もう秋になったんじゃなかったっけ?
直『あ゛~、無理。脱いでいい?』
増「こんなとこで裸さらしたら捕まるよ?」
直『いやほら、タンクトップ一枚なら』
増「それならまぁいっか」
仕方なくうなずいた俺を見て、チャマは嬉しそうに脱ぎ始める。上着を。
何だろうねぇこの人は。俺がきみに何を言ったか、覚えてないんでしょうか。
直『チュロス食おうぜー!チョコとシナモンどっちがいい?』
増「じゃあチョコ」
直『おっけぃ!』
はしゃぐチャマは、その辺を歩いている小学生よりよほど子供のようだった。
幼いというより、無邪気で純粋な感じ。
手を伸ばしたくなるような、そのままずっと眺めていたくなるような。
直『これこれ、これ乗りたい!並ぼ!』
増「げ、待ち時間結構あるじゃん」
直『せっかく来たんだからー』
増「でもそろそろパレードの時間になるよ?」
直『夜もあるじゃん!今はこっち!』
増「はいはい」
なんだか、元気いっぱいの妹とかを連れている気分になってきた。
俺って本来、今のチャマみたいに自分からはしゃぐタイプなんだけどなぁ。
でも意外とこうやって振り回されるように歩くのも、悪くないや。
そう思っていたら、目の前にいきなり園内の見取り図が広げられた。
直『飯なんだけどさ、このレストランはどうかな』
増「あ、うん…ってこれかなり高級な店だね。旨くもまずくもない所とか言ってなかった?」
直『どうせなら少しでも旨いとこにしようよー』
増「あー、おっけおっけ。そしたらこれ乗ったら行く?それとも…」
直『違うよ、次はこれ行くの。それからだね』
増「腹減りそうだなぁ」
妹じゃないか。彼女だ。
いや、彼女じゃないか。でもこれは好きな相手だ。
何年越しになるかという幼馴染の、チャマだ。
増「夜、閉園までいたいな」
直『とーぜん!俺もそのつもりだよ』
ふたり同じ気持ちで笑いあえるのがこんなに切ないなんて、思わなかったな。
目の前でチャマが楽しそうに跳ねる。
あぁ、こいつは元々こんな明るさが似合うんだよな。
電話越しに聞いたかすれ声は、あんなに夜に映えたのに。
直『…どうしたの?』
増「ううん」
直『何か、気にしてる?』
増「……」
気にしてるというか、思い出していた。
電話越しでしか聞けない行為の声を、生で感じ取れたらどんなにいいだろう。
こんな時に思い出すべきことじゃないのに…
増「好きだよ、チャマ」
直『え』
増「俺にしない?俺んとこ来ればいいよ。そうすればチャマはいつでも笑っていられる」
口走る自分が止まらない。
目の前で大好きな笑みが少しずつ変化していく。
直『ねぇヒロ、俺は』
チャマが何か言いかけた、そこまでだった。
まだまだあると思っていた2人の時間は、不意に俺の後ろから現れた本来の所有者にあっさり打ち破られた。
藤「お待たせ、チャマ」
増「…!!」
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