第17話

増「だとしたら、どうする?」

直『え』

増「逃げたい?それとも、ここで全部壊れるのを待ちたい?」

直『そんな…っ』



そんな言い方をしなくても、と思いつつ、それが真実だということもまた分かっていた。



直『…どうすりゃ、いんだよぉ…』



涙がこぼれる。でもこれだって結局は自分可愛さで流れているもの。俺はつくづく勝手な人間だ。



増「チャマ」

直『…ヒロ…』



ぎゅっと抱きしめてくれるヒロがありがたかった。こんな時頼りになる友達がいてくれて、本当に良かった。

そう思って抱きしめ返した瞬間。

視界がふわっと浮き上がる感じがした。


―――床に、寝かされてる?


そう理解するまでに、まばたき数回分の時間がかかった。だってあまりにも動きが自然だったから。



直『ひ、ヒロ?』

増「………」

直『なっ…何してんだよおまえ、冗談よせって。どうしたんだよ?』



わざと明るい声を出しながら起き上がろうとしても、肩を押さえつける力が強すぎて抵抗できない。

真剣な瞳で俺を見下ろしてくるヒロは、全く知らない人間に見えた。



直『…なぁ、マジでやめろよ。洒落に…』

増「洒落じゃない。冗談でもない。俺は真剣だよ」

直『……』



だったら、なお悪い。



増「チャマ。おまえが藤原と付き合ってたこと、俺は高校の頃から気づいてた」

直『…え?』

増「あいつと再会したのは、最近でしょ?あの同窓会みたいな飲み会の夜からでしょ?」

直『あ、』

増「ずっと藤原のこと引きずってたくせに…。秀ちゃんはどうやっておまえをかっさらったの?」

直『や、やめろ!俺はともかく、秀ちゃんのことまで悪く言うな!』



秀ちゃんは、ありのままの俺でいいと言ってくれた。

飾り気のない真摯な言葉で好きだと言ってくれて、不快だったはずの俺の告白も全部受け止めてくれた。


過剰な優しさはないけれど、あのまま付き合っていたら、きっと一生を共にしたんじゃないかと思える人。


…そうだ。俺は、そんな大事な人を裏切ったんだ…。



増「…秀ちゃんといるの、疲れる?」

直『……っ、う、…ぁあ…』



俺が悪い。藤くんと再会した途端に気持ちが再燃するような半端な覚悟で、秀ちゃんの優しさを踏みにじった。

俺は、最低だ。

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