side直

第16話

―――ぴんぽーん



直『はい』

増「あ、増川でーす」

直『ん』



数日前にヒロと会う約束をした時、「おまえんち行っていい?」と聞かれた。

普通に友達だし、『いいよ』と軽く返事をした。でも考えてみると、藤くんでも秀ちゃんでもない人がこの家に来るのは、久しぶりな気がする。



増「おじゃま」

直『なんでおまえ酒持ってんの?』

増「昼間のビールもいいもんだよ」

直『アル中じゃねぇか、この夜の帝王が』

増「ちっげーよ(笑)」



小突き合い、何の屈託もなく笑い合う。

こんな感覚はどれくらいぶりだろう。



増「帝王と言えばさぁ。ウチの帝王、珍しくこの時間に起きてるっぽいんだよね」

直『え…?』

増「俺の勤め先のNo.1は知ってるでしょ。藤原基央。あいつ今、人と会ってるんだって」

直『…ひと…って?』



どくん。どくん。

心臓が急に高鳴り始める。



増「高校の同級生だった、升秀夫くん」

直『………っ』



どちらの名前も、知らないとは言わせないよ。

全てを見透かすように、ヒロの目がそう語りかけてきた。

経緯は知らないが、それでヒロが事情を把握していることはわかった。



直『…どうして、それをわざわざ俺に?』

増「理由なんて無いけど。知らない方が良かった?」



あの2人が会ってる。なんで今さら。

どれほどバレバレだとしても、今までは見て見ぬふりを続けてきたのに。



直『いや…でも、どうするつもりだろう』

増「二大巨頭の会見が終わった後?」

直『…どっちかが手を引く、とか…、そういう話になるのかな…』

増「なに虫のいいこと言ってんの」



グラスにビールを注ぎながら、柔らかい声で厳しいことを言う。こいつにしか出来ない、他のヤツがやったら間違いなくイヤミに感じられる芸当。

それをあえて無視して、もう1つの可能性を口にした。



直『それとも、ここに来るかな』

増「……」

直『ずるい嘘ばっか、つき続けてきた俺を…。2人揃って、責めに来るかな…』



ヒロは黙ったまま、グラスの中身をあおった。

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