第31話 決着
「『聖剣降臨』!」
桐島は再び聖剣を呼び出す文言を唱え、消えていた聖剣を手元に創造する。
その聖剣の切先をこちらに向け、憎々しげに顔を歪める。
「僕は日本最強の探索者だ。仮に君がどんなずるい手を使ったとしても、最終的に立っているのは僕なんだよ。僕こそが最も優れた成功者だ」
「ごちゃごちゃうるせぇな。ビビってるのか?」
「……本気で僕を怒らせたいようだね……! ならば見せてあげるよ! 貴様を葬り去る最強の技を!」
“ちょっと待て。あれをやる気か?”
“出るのか……全てを無に帰す奥義”
“やべぇwwwww”
“天城滅也は終わったな! 足掻いても無駄なんだよ!”
桐島は切先を納め、立ち昇る雰囲気をさらに鋭利なものへと変化させる。
「……ははっ、覚悟しなよ……貴様がどんな小細工をしていようが関係ない! この一撃で全て吹き飛ばしてくれる!」
光る剣を体の正面に持っていき、目をつぶって雄叫びを上げ始める。
「はぁあああああああ!!!」
その声に呼応するかのように聖剣が激しく明滅する。
光の点滅の間隔はどんどん短くなり、程なくして力強い光が維持された状態へと成った。
「荒ぶれ! 聖剣よぉぉおおお!」
その剣を上部に構え、大きく言葉を発する。
――すると剣から溢れんばかりの光が放たれ、その光が重なり合うようにして新たな剣のような形を創り上げていく。
みるみるうちに聖剣が巨大化。ドームの天井に届くのではないかと思うほどにその丈を伸ばしていき、1つの馬鹿でかい剣を創り出した。
光そのものとも言えるエネルギーの集合体で創り上げられた剣は、表面から炎が燃え盛るかのように剣が脈動し、絶えず異様な圧力を放ち続ける。
その輝きは先程にも増し、神々しさすら感じさせるほどだ。
「はぁ……はぁ……ふふっ、終わりだよ天城滅也。この剣からは貴様は逃れられない。避けても無駄だよ。衝撃波だけで君はぺしゃんこさ」
「面白ぇ。やってみやがれ」
「その減らず口を今すぐ閉じさせてやろう。この聖剣の裁きを喰らうがいい! 偽物がぁ!!! 『
桐島は全力で手を振り下ろす。
それに従い、俺の下へ巨大な光の剣が押し寄せた。
“殺す気か!?”
“やばすぎだろww”
“それは流石にまずいのでは”
“やっちまぇええ!”
そこから発せられるエネルギーは今まで感じたことがない程に強大。
ビリビリと体に刺激を与えてくる。
へぇ……やっぱりいいなぁ。強い人間と戦うのは。
俺は右手の拳を強く握りしめる。
足を開き、地面を思い切り踏み締め、大きく右手を引き――
「おらぁああああ!」
――ガキィィィィーン!
荒れ狂う斬撃に拳をぶつける。
一時的にその衝突は拮抗を果たし、強大な2つの力が火花を散らす。
ぶつかった衝撃だけで空気が弾け飛び、空き地に生えていた草を全て吹き飛ばしてしまった。
「はぁあああああ!」
「いいねぇ! こうじゃねえとなぁ!!」
足が地面にめり込み、より一層衝突が激しさを増していく。
“止まってる!? まじかよ!”
“天城滅也……お前どこまで……”
“桐島様いけぇー! 倒しちゃえー!”
“俺はもう何も考えずこれを見届けよう”
――ビシッ! パキン!
――その時、何かしらの割れる音が聞こえた。
俺は自分の右手を確認する。
するといつもあるはずのものが見当たらなかった。
俺はその事実に驚く。
――指輪が割れた。
「指輪が……! へぇ、今まで1回も壊れてなかったってのにな」
「くたばれぇぇぇえ!!」
「すげぇなぁ! 今までに感じたことないほどにとんでもねぇ威力だぜ!」
最強の技と呼ぶのも頷ける威力だ。
――だがな……それでも負けねえんだよ俺は!
「俺の拳はこんなもんじゃ壊れねえなぁああああ!」
気合を入れ、拳に入れる力の出力をさらに高める。
拮抗していたパワーバランスが崩れていき、剣がゆっくりと押し出されていく。
「なに!? ま、まさか!? はね返されるだとぉ!?」
「へへっ、さぁ! しまいだ!」
「そんなはずは――ば……ばかな……押されて!? や、やめろぉおおおおおお!!」
「消えやがれぇぇえ!」
――バシィィーーン!
突き出した拳が剣の光を貫きながら全てを吹き飛ばす。
その勢いに飲まれ、光が一気に霧散。
聖剣が元の姿に戻り、エネルギーの関係かその聖剣さえも消え去ってしまった。
“ぎゃああああああああ! 聖剣があああ!”
“やべえええええ!! 滅也やべええええ!”
“桐島の最強の技が……敗れた?”
“あはは……あはは……何が起きてるんだ……”
「…………嘘だ…………」
「良い一撃だったぜ? あばよ」
唖然とした桐島の下にダッシュで駆け寄り、顔面目掛けてぶん殴る。
「ぐぇぇえ!」
――ドーン!
思い切り殴られた桐島は弾丸のように飛ばされる。
終わらせねぇよ。
吹き飛ぶ桐島に追いつき、両足で相手の膝を思い切り踏み締める。
――ボキィィイイ!!
「グハァ!!!!」
2度と元に戻らないように両足の骨を粉砕する勢いで足を踏みつけた。
そして――
「ふん!」
「ぐぼぇえええ!」
腹に一発、拳を打ちつける。
桐島は断末魔のような声を上げながら体をくの字に曲げ――その後四肢をばたんと地面に倒した。
もう動けねぇだろうな。
“桐島がやられた……?”
“嘘だろ? 演技だよな? プロレスなんだろ!?”
“うぉおおお! 天城滅也すげぇ!!”
“日本最強が変わったああ!!”
“こうなると思っていた人間がどれだけいただろうか……”
“腰抜けちまったよ……”
このまま追撃と行きたい気持ちもあるが、流石に公然と人を殺すわけにはいかねぇ。それくらいの常識は俺の頭の中に入ってる。
後一発殴ったら――こいつは死んでしまうだろうな。
だから辞めだ。
もう襲っては来ないかもしれんが、こいつと戦闘したことで、俺は既に桐島の気配を覚えている。
今度の機会があっても俺が後手に回ることはねーはずだ。
もう動けなくなった桐島から足を離し、そのだらーんとした姿を見下ろしながら俺は無意識に口を開く。
「桐島才人。俺は戦闘が好きだ。だからお前との戦いも楽しかったぜ? ……だがな……一つだけ言っておく」
何も考えてなどいなかった。
勝手に心から流れ出した言葉をそのまま溢す。
「2人に手を出したら……殺すぞ」
今の俺の声が聞こえたのどうかすら判別がつかぬまま、桐島は痛みが許容限界を超えたのか、白目をむいたまま意識を失った。
周りに浮いているドローンが機能を失い、ぼとりと落ちる。
配信は終わったようだ。
ドームを構成する光も消えていき、まっさらな空き地だけが残された。
俺は桐島を流し目で見た後、動けないでいたみなみと桃葉の下へ歩いていく。
2人とも問題なさそうだな。
話せるくらいの距離まで来た時、みなみが俺に寄ってきた。
服を握りしめ、少しの涙を目に映しながら俺の顔をしっかりと見据えた。
「滅也くん。……助けてくれてありがとう」
「気にすんな。どちらかと言えば俺の問題に巻き込んじまったようなもんだ。悪かったな」
「悪いのは桐島だよ。他は誰も悪くない」
「そうか」
「桐島……殺したの?」
「殺してねーよ」
「よかった……桐島が悪いとは言え、殺しちゃったら犯罪になっちゃうからね」
「確かにな……」
少しの会話を交わしたが、流石にショックが大きかったのか……それを機に口が止まる。
俺は次に桃葉に顔を合わせた。
「め、滅也……」
「お前も悪かったな」
「それよりも……さっきのセリフ」
「……ああ? 俺なんか言ったか? 覚えがねぇよ」
「…………ありがとう」
桃葉は珍しくしおらしい様子で俺にお礼を言ってきた。
「らしくねぇな。俺に感謝するなんて」
「はぁ!? せっかく珍しく感謝してやったのになんて物言いよ! ふん! 美波行くわよ!」
「え? あ、ちょっと桃葉ちゃん!」
俺の言葉が気に触ったのか、みなみを連れ立って桃葉は脇目も振らずに走り去っていく。
「まったく……」
俺もそれに追従するように、後ろから歩いていく。
それにしても、気のせいだろうか。
幼馴染の顔が――とても赤く見えた。
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