第30話 vs桐島
“桐島が……吹っ飛ばされた”
“まじか!?”
“いやそんなまさか”
“え、どういうこと。理解が追いついてない”
殴り終わった俺は、そのまま桐島に視線を固定する。
こいつは桃葉とみなみに何かしらの方法で危害を加えようとしていた。
へぇ〜そういうことしやがるのかぁ……
俺の拳で突き飛ばされ倒れている桐島にゆっくり近づいていく。
「てめぇ、覚悟は出来てるんだろうなぁ」
こいつと戦う愉悦、爽快、そこに少しの怒りを込めて俺は桐島に言葉をぶつける。
ただ倒れ伏した桐島はそれを聞くだけの余裕はなさそうだ。
「ば、ばかなぁ! 僕の体に傷ぉ!?」
先程の俺の攻撃でダメージを喰らった桐島は、体を震わせながらも必死に立ち上がる。
一撃じゃ倒れなかったか。やるねぇ。
「そんなはずがない!! ありえない!!」
現実を受け止めきれないのか、拳を握り、俺のことを憎々しい表情で見つめる。
ただ次の瞬間、桐島は笑いながらまたもや光る剣を作り出す。
「ははっ、何かの間違いだ! こんなことは起きえないんだよ! 『聖剣降臨』! 喰らえ!」
シュパパパパパ!
自らの聖剣をまるでムチのようにしならせながら斬撃を振り撒く。
ほぅ、すげえな。
斬撃の密度が高く、速度もとてつもなく速い。
見ただけでも分かる。こいつは確実にダンジョンで戦った魔物より強い。
だがな。
「喰らわねえよ」
斬撃の間に存在する隙間に体を潜らせ、全て避けていく。
地を蹴り、体をしならせ、自らの感覚に身を任せながら体勢を幾度となく変えることでその回避を可能としていた。
「ははっ! この斬撃からは避けられま――っ! なぜだ! なぜ当たらない!」
「暗殺者で似たようなのを経験したしな」
「っ! クロウのことか!? そんなはずはない! 何らかのトリックを使ったんだろう! F級如きが強いわけがない!」
「何言ってるか分からねぇが、トリックなんか使ってねぇよ」
“な、なぁ俺たち夢を見てるのか”
“桐島の攻撃が全て見切られている……?”
“おい、嘘だと言ってくれ”
“そんな奴倒しちまえよ! 桐島!”
「貴様! 僕の能力を受けても未だS級の力を借り受けることができるというのか!」
「だから俺の力だって言ってんだろ」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁあああ!」
口数と共に斬撃もより激しさを増していくが、一つとして俺に当たることはない。
やがて無駄だと理解したのか、斬撃を打つの止め、呼吸を荒げながらこちらを睨む。
「はぁ……はぁ……そんな……認めないぞ僕は……」
「はっ、その程度か?」
「な、何を……! 僕を馬鹿にするなぁあああ!」
桐島は怒り狂い、我慢ならない様子で叫び散らす。
目は充血し、強く感情に支配されているように見えるな。
「滅也くん……すごい」
「……」
ドームの外から美波と桃葉あっけに取られたようにこちらを眺めている。
「聖剣よ! 我が声に応えよ! 『聖なる輝き』!」
桐島の周りをキラキラした渦が回る。その後幾重にも重なる光のオーラを体から弾けさせ、その身から発する圧力がドンと増す。
「ははっ! 容赦はしないぞ! 貴様は徹底的に痛めつけなければならないらしい」
“きた! 聖剣によるバフ能力!”
“ただでさえ強い身体能力が化け物級になったぜ”
“ここからが真骨頂よ!”
“いや……そもそも天城がここまで戦えること自体おかしくないか?”
“なんかセコイ手でも使ってるんだろう?”
“桐島は必ずやってくれると信じてる”
“桐島キレてて草”
見るからに憤慨した様子で、こちらを見据える桐島。
へぇ……もっといけるのか?
「直接斬りつけてやろう! はぁあああ!」
聖剣を右手に携え、一気にこちらに距離を詰めてくる。
「直接だろうが関係ねぇよ」
右、左、上、下、斜め、縦、横。
あらゆる所から飛んでくる剣撃を反射神経で躱していく。
ドームの中を移動しながら、大振りな攻撃や、小振りな攻撃、回転なども交えながらその応酬は行われた。
飛ばしてきた斬撃とは異なり、途中で攻撃の方向が変わったり、剣の振りで風が巻き起こったりするがそんなことは些事だ。
桐島の剣のスピードはとてつもなく速く、あの暗殺者の連撃を凌ぐ程だったが……
「対応に時間を要することもねぇな」
「くそっ! ちょこまかと!」
少し戦って分かったが、別に桐島は特殊な技術を持っているわけじゃない。
力やスピード、能力の自由さはあの暗殺者よりも優れているかも知れないが、こちらが反応出来ないレベルの行動は起こしてこない。
だから避けるのは容易い。ただ速いだけならいくらでも対処できる。
「ほらよ」
「ぐぅ!」
避ける合間に相手に足払いを仕掛ける。
そして――
「がら空きだな!」
「ぐはぁああ!」
足が宙に投げ出され、自由が効かなくなっている所に打撃を加えた。
桐島は飛ばされていき、そのまま地面に倒れると思われたが、すんでのところで光る剣を地面に差し込んで体を支え、その剣を押し込む反動で後ろに下がっていった。
「くっ……はぁ……」
「おい、一息つくのは早いぞ?」
「なに!? っ――がはぁ!」
油断している所に追撃。
下から顎を目掛けて蹴りを放ち、桐島を上空に吹っ飛ばす。
――タッ!
俺は地面から飛び跳ね、飛ばされた桐島よりもさらに上へ移動。
両手を組み、自分の頭上まで振り上げ、
「おらぁ!」
「がっはあああ!!」
――ドカーン!
そのまま両手を振り下ろし、桐島は地面まで勢いよく墜落していった。
俺は少し離れた所に着地する。
「さぁて、どうだ?」
場が静かになる。
それからしばらく動きはなかったものの、まだ力は残っていたらしく、ゆっくりと桐島は立ち上がった。
頑丈さも暗殺者よりは上か。
「んぐぅ……はぁ……はぁ……はぁ……こんな……ことが……」
地面に聖剣を突き、それで体重を支えながら息を切らしている。
鼻から血が垂れており、俺が与えた攻撃で相当体にガタが来ているように見えるな。
“やば……一方的じゃん”
“桐島手も足も出てなくて草”
“ま、まさか……天城滅也は本当に強かった……?”
“いやそんなはずは。S級の弱みを握ってるんじゃ”
“でもよ……それじゃあこれはどう説明するんだ”
“これはもしかしたのか”
「っ! 勘違いするなみんな! 少し遊んでやっていただけだ! すぐに倒して見せる!」
コメント欄を垣間見たのか、慌てて誤解を解こうとする桐島。
その直後、桐島は剣をこちらに向け、
「はぁ!」
――ピューン!
超スピードの光線を放つ。
「ふっ!」
――パチィン!
その光線を右手で打ち払った。
「くっ! これも受け流すか……! なるほど……貴様は本気で潰さねばならないようだな!」
桐島は聖剣を消して垂れた血を拭い、乱れた髪を整え、その後、何かしらの覚悟を決めたような顔でこちらを見た。
「遊びはこれまでだ……! 君がどうやって僕に抗っているのか知らないが、もういい! 終わらせよう!」
―――――
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