第16話 水沢みなみの熱心な視聴者
平日の5日間が過ぎ、休日となった。
学校が休みの日は朝早くからダンジョンへ向かうことができる。加えていつもよりたっぷり寝たからやる気もより有り余ってるときたもんだ。
俺はすぐに支度を済ませ、N252ダンジョンに向かった。
「ぶおおおお!」
「ふっ」
斧を持った牛型の魔物の振り下ろし攻撃を、斜め上に飛び跳ねて躱わす。
そのまま空中で体を回転させ、重力に従い落下するタイミングで足を伸ばす。
「おらっ!」
――ガーン!
足が魔物の脳天に斧のように突き刺さり、相手は血を流して倒れた。
「ふぅ。いっちょ上がり」
これで大体500匹くらい魔物を倒し終えた。
既に5時間は経っただろうか。
ここいらで探索をやめ、転移で入り口まで戻ってくる。
今日はいつもより多くの魔物と戦り合ったな。
へへっ、大満足だ。
それじゃあ探索者ギルドに向かうか――と思っていた所、ダンジョンの入り口に見慣れない変な奴を見つけた。
「おおっ! まさか会えるなんて!」
「ああ?」
その男は俺に気づくと、ぱーっと笑顔を浮かべ俺の方歩み寄ってくる。
逞しい体をしたTシャツ半ズボンの男。
Tシャツにはデカデカと水沢みなみを模したキャラクターが貼り付けられており、『みなみな』と書かれたハチマキを頭に結んでいる。
体は引き締まっているものの服装で全てが台無しだ。
「うん? この格好か。ふふっ、仮にも私はA級探索者でね。細々と活動しているため知名度はA級の中でも最下位レベルだが、それでも変装は必須なのだよ」
「いや、そこじゃねーよ」
変装する理由よりそんな珍妙な格好する理由の方が気になるわ。いやまぁどうでもいいんだが。
「私は
「推しってなんだ」
「うん? ああそうか。君はあまり最近の言葉に詳しくないんだったね。まぁとても好感を持っている相手だと捉えて欲しい」
「そうか」
「ところで君。多くの視聴者が使う『みなちー』という呼び方、実に分かってないと思わないか? 彼女の名前はみなみまで含めて一つの形だというのに…………だから私はみなみを内包した『みなみな』と呼ぶのだよ」
「……何言ってんだお前」
目の前の男、花坂は理解不能な言葉をまくしたてる。
理解するのもめんどくせぇな。
「さて、無駄話はこの辺にして……ふむ」
花咲は顎に手を当て、俺にピントを合わせながら何かを思考する。
そして納得した顔で顔を綻ばせた。
「直に見て分かったよ。君は恐ろしく強いね。あれらはハッタリなんかじゃなかった」
「あれら?」
「君、世間から君は本当に強いのかと疑われているだろう」
「そんなことも聞いたな」
「だからこの目で確かめようと思ってね。こうしてこのダンジョンに来ていたのだよ」
花坂はより目を輝かせながら俺を直視する。
「私はね。君に感謝しているのだよ。みなみなを救ってくれて本当に感謝している。あの時私が駆けつけられなかったのは本当に悔しい……ただ恐らく私ではグランドドラゴンに勝てなかっただろう」
目の煌めきが一転し、歯を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべる。
「君がいてくれて本当に良かった。ありがとう」
さらには急に真面目な表情にすり替わり、俺に礼を言いながら大きくお辞儀をした。
顔が忙しいな。
「別にいい。ただの成り行きだ」
「ふっ。恩に着せないか。好感が持てる男だ」
俺のことを褒めながらゆっくり花坂は顔を上げる。
「みなみなが君に救われて良かった。君なら今後周りの悪意に晒されることがあっても大丈夫だろう」
「悪意ねぇ」
「僕は陰ながら君たちを応援している。もしもの時は任せてくれ。いつでも駆けつけよう」
「はいはい」
「ではな! また会おう!」
そうして突風のように花坂は去っていった。
「てことがあってな」
「あはは……ごめん。私の視聴者が迷惑かけたね」
翌日、昼休みに屋上に来ているみなみに昨日あった変なやつについて話した。
「美波、A級探索者のファンがいるのね。凄いじゃない」
「うーん。でも私その人のこと知らなかったんだよね……」
「コメントもスパチャもしない主義なのかもしれないわね。一応私は上位の探索者は一通り調べてあるけれど、彼のことはあんまり情報がなかったもの」
「へー」
「……あんたはまるっきり興味なさそうね」
「まぁどうでもいいな」
みなみの視聴者なんてただの他人じゃねえか。興味ねえよ。
そんなことより、早く魔物をぶっ倒してぇなぁ。
もしくは強い人間でも襲って来たりしないだろうか。
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