第28話 対峙
ピロン
「ん?」
探索者ギルドに向かって歩いている途中、俺のポケットから通知の音が鳴る。
先日みなみに設定され、LIONの通知が来るようになっていた。
携帯を開き、LIONの中身を確認する。
桃葉からのメッセージだった。
「珍しいな……うん?」
桃葉からは位置情報と共に【たす】という2文字だけの文面が送られてきていた。
「なんだこりゃ」
この2文字だけでは何も分からない。
この文字に意味があるのか、それとも文字を打っている途中で誤って送ってしまったのか。
俺は添付されている位置情報を確認する。
そこまで遠い地点ではない。歩けば20〜30分で辿り着くだろう。
ただなんで位置情報を送ってきたのかが不可解だ。
俺は『どういうことだ』と返信しようとしたが……
――ドクン
なぜか高まる鼓動。
「ああ?」
急に現れた感覚。
――なにか嫌な予感がする。
「ちっ!」
俺は飛び出すようにこの位置情報に向かって走り始めた。
なんだか分からないがこの感覚を無視したら後悔するような、そんな気がした。
携帯を見ながら走り続け、数分もかからずに送られてきた位置情報近くの所まで到達する。
並木道や田んぼがあたりを囲み、結構見晴らしが良い。
ただ桃葉達はまだ見当たらない。
それから少しばかり足を進めると、大きな空き地が目に映った。
そこには……
「いた……」
直感を信じて向かった先には、みなみがうずくまりながら必死に立ち上がろうとしている姿と、桃葉が金髪の男に詰められている姿が映った。
あの顔……こいつが桐島か……
俺はダッシュでそこに駆け寄り、
「――てめぇ、誰に手を出そうとしてる」
すかさず声を発し、相手の注意をこちらに向ける。
俺の声を聞いた男、桐島は途端に顔を歪ませ、軽薄に笑った。
「君は……天城滅也だね?」
「桐島だな? てめぇが狙ってるのは俺だろうが」
「あはははは! なーんだ、随分早い到着だ。それもS級探索者の能力なのかな?」
「何言ってんだ」
「惚けても無駄さ。まぁそんなことはどうでも良い。でも残念だなぁ。もう少しでこの2人を手籠めにした上で、君に深い絶望を叩きつけることが出来たんだけど」
「てめぇ……」
「こうなったら女は後にして……さぁ決闘を開始しようか! ここはそれにうってつけの場所だしね!」
男が何か叫んでいるのをよそに、俺は茫然としている桃葉の手を引き、倒れているみなみの下まで連れて行く。
「め……滅也……」
「滅也……くん」
「桃葉、大丈夫か」
「え、ええ」
「みなみ。怪我は?」
「だ、だいじょうぶ」
「分かった。下がってろ」
こいつらを戦闘に巻き込むわけにはいかない。
今、桃葉の手を握った時、その手は酷く震えていた。
桐島に怯えていた証だ。
俺は2人と距離を置いて桐島に近づいていく。
「うん。この距離なら問題ないね! さあ! 配信の開始だ!」
パッ! パッ!
掛け声と共に周りに不審機械――確かドローンつったか?――が放たれて、一斉に画面が灯る。
“おっ! 決闘の時間か?”
“きたきたー!!”
“天城滅也もういるじゃんww”
“いきなりか”
“高まってきたぁあああ!”
“待ってたぜー!!!”
画面の端に映し出されるチャット欄から数々のコメントが流れていく。
ただ不審機械の角度的に桃葉とみなみは映し出されていないようだ。
不都合だからだろうか。
どうでもいい……今は桐島だ。
「君の化けの皮を剥がすために今回、決闘を挑ませてもらうよ」
ピラッ
桐島は懐から取り出した1つの紙をこちらに掲げる。
「これがその認可証だ。ダンジョン省から許可は降りている。君に逃げ場はないよ」
「逃げねーよ」
「ならいい。全国民に代わり、僕が君に裁きを与えよう。安心して欲しい。もちろん殺しはしないさ。ただもう探索活動は出来なくなるかもね?」
煽るように、こちらを馬鹿にするように桐島は言葉を重ねる。
明らかに俺を貶める気まんまんな様子だ。
「呼び出してもよかったんだけど、この後ろめたい状況で君が僕の下に来るとは考えにくい。だからわざわざ僕が来てあげたんだ。感謝して欲しいな」
「何言ってんだ」
「ははっ、どうやら理解を拒んでいるようだね。それもいいだろう。どうせ君はここで終わるのだから」
“天城滅也。お前が調子に乗ってられるのも今だけだぜ?”
“桐島の能力を知ってるか? せいぜい足掻けww”
“公開処刑だ〜! 楽しみすぎるって!”
“久々にリアタイしたぜ。これだけは生で見たかったからな”
“桐島様ー! 頑張ってー!”
「みんなありがとう! 必ずや真実を暴いて見せよう! 楽しみにしておいてくれ!」
笑顔でコメント欄に応えるべく声を張る桐島。
俺が圧倒的な悪者扱いだな。
そしてとうとうやる気になったのか、桐島は次の段階へ進む気配を醸し始めた。
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