第27話 大ピンチに……

「桐島……才人」


 今、私が1番会いたくない人と言っても過言ではない人物がそこに立っていた。


「僕のこと知ってるんだ? 嬉しいな」

「当たり前よ! あんな配信して、知らないとでも思ってるのかしら!」

「その反応……ああ。天城滅也についての配信を見てくれたんだね」


 金色の髪をかきあげながら、鼻につく笑みを崩さずに私に喋りかけてくる。


 客観的に見たら顔が整っていると言えるかもしれないけれど……私にはそれがとても気持ち悪い。


 滅也を悪人した張本人。諸悪の根源と言い変えてもいい。


 身の毛がよだつ……頭に血が昇っていく。


「ふざけないで! 私の幼馴染が悪者扱いされているのも全てあんたのせいじゃない!」

「何を言うんだい。あれは全部彼が悪いんじゃないか。S級探索者を利用するような真似をするから」

「滅也はそんなことする人じゃない!」

「可哀想に……騙されているんだね。安心して欲しい、僕が君を救ってあげるから」

「結構よ!」


 今まで溜めた感情を全て吐き出すように、私は桐島相手に声を荒げる。


 ただ相手は気にした様子もなく、ゆっくりと……私に近づいてくる。



 何する気……



「天城滅也のことなんか忘れて、僕の女になればいい。そうすれば不自由ない暮らしを約束してあげるよ?」

「っ!」

「どうだい? 悪い話じゃないだろう?」


 一歩一歩、私のことを追い詰めてくる。


 相手はS級探索者……いざとなった時に私じゃ何も出来ない。


 足がすくむ……



 急にこの男が……すごく怖い。


 

「――そこまでにして」

「おや? 君は」

「美波!?」


 私の後ろに立っていた美波が目の前に割って入ってきた。


 え!?


「何をしようとしてるか知らないけど……桃葉ちゃんに変なことする気なら許さない」


 先程の明るい顔はすっかりと鳴りを潜め、険しい顔で美波は桐島に立ち向かう。


 美波はB級探索者。探索者の中で見たらかなり強い方だけど、S級探索者とは大きな力の差がある。



 だめよ…… 



「うん? そうか君もいたか水沢みなみ。あの件をきっかけに天城滅也と随分仲良くなったようだね」

「……」

「そうだ……どうだい? 君も僕の女にならないか?」

「お断りだよ! 滅也くんを悪者にしたあなたを私は許さない!」


 美波は強く桐島を睨みつける。


 桐島はその答えを聞いて、実に面倒臭そうな顔でため息を吐いた。


「はぁ……仕方ない。こうなったら力ずくで言うことを聞かせるしかないようだね」

「「っ!」」


 そう呟いた瞬間、桐島は手から光り輝く剣を取り出す。


 あれが桐島のスキル……『聖剣降臨』。


 あの力を使って私達を行動不能にし、後に辱めるつもりだと一瞬で悟った。



 思わず美波に『逃げて!』という言葉が口から飛び出そうになる。


 だけれど……今考えるべきなのはそんなことじゃない! 


 必死に頭を回転させて、私に出来ることを探す。



 ――そこに浮かぶ一つのアイデア。



 でもダメ……そんなことしたら危ない……



 思わず逡巡する。


 ただ私だけじゃない……美波も窮地に陥っている。


 相手が美波に気を取られている隙に、私はバレないようにスマホを一瞬で操作した。



 ただ文字を打っている途中で手が止まる。



 無理よ……どうしても危険に晒すことは……



「何をするつもりだい?」

「!」



 ――パリン!



 桐島の聖剣から光線のようなものが飛び、私のスマホを一瞬で破壊してしまった。


 そんな……


「ふっ。無駄な足掻きはよすんだ」

「っ! 桃葉ちゃんに手を出さないで! 『圧縮水泡』!」



 美波は即座に水のビームを桐島に放つ。


 少しのうねりを伴ったビームは見るからに強力な圧力を内包し、凄まじい速度で飛んでいく。


 でも……



「地龍に放っていた技だね。そんなもの僕に効くと思うかい?」


 桐島が聖剣を自分の目の前に掲げるだけであっさりとそれを防いでしまう。


 まるで何も起きてないかのように錯覚させるほど、桐島は涼しい顔で水泡を受け止める。


「っ! ここまで差があるなんて!」

「B級如きが僕に太刀打ち出来るとでも? 才能が違うんだよ」

「『連続水刃』!」


 相手の声に耳も貸さず、美波はひたすらに水の刃を桐島に放ち続ける。


「分からない人だね」


 桐島は全く避けることもなく水の刃を体に食らいながら平然とこちらに近づいてくる。


 無理だわ……実力が違いすぎる。


「っ! こっちに来ないで……! 『泡――』」

「手遅れだよ」



 ――パチン!



「きゃあああああ!」

「美波!」


 軽い平手打ちだけで、美波を数m先までふっとばしてしまった。


 嫌……


「さぁ……まずは君からだ。安心するといい、痛くはしないから」

「やめて……」


 


 助けて……!






「――てめぇ、誰に手を出そうとしてる」

「……!」




 この声は――子供の頃から何回も聞いた声。



 後ろを振り向く。その顔を見た瞬間、心が震える。涙がこぼれ落ちる。





 滅也が……来てくれた。







―――――

 

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