第20話 エピローグ


「猫桃ちゃ~~~ん!」


「ああもう! うざいうざいうざい!」


 九月も下旬を迎えて、段々と秋の気配が深まってきた。

 肌を撫でる風は日中でも時々涼しくて、もうすぐこの短いブラウスともお別れだと思うと、悲しいような嬉しいような不思議な気持ちになる。


「逃げ出そうとした或留好捕まえたんだから早く言うこと聞いてよ!」


「そこまで言ってないわよ! ほんっと最悪! 悪魔と気軽に取引したみたいにたち悪いわね!」


 放課後。

 いつもの空き教室で逃げ惑う猫桃ちゃんを追いかける。


 傍らには、複雑そうな表情であたしを見つめる或留好と萌々寝がいた。


「邪魔よ、兎女城或留好」


「そちらこそ、子供は家に帰って飴でも舐めていたらどうだい?」


 ばちばちと、見つめ合う二人の視線の間で、火花が散るような錯覚を得る。

 その後の顛末は、特に語ることもない。


 あたしという安全地帯を手に入れた或留好は、すっかり元の調子を取り戻して、相変わらず偉そうに振る舞っている。


 萌々寝は萌々寝で、こちらも変わらず愛らしくあたしの元にやってきては、いじらしい態度を採り続けている。やっぱり、愛でるなら或留好より萌々寝だよね。


「あなた、まだわたしのことが好きなの!?」


「当然だよ! だって猫桃ちゃんは、あたしの初恋だもん!」


「ばっ、馬鹿じゃない!」


 かぁっと、ほっぺたが赤くなる。

 素の彼女と向き合うようになってわかったことだけど、猫桃ちゃんも結構わかりやすい。


 ますます、好きになっちゃう。


「愛流」


「うん? ああ」


 或留好が微笑みながらあたしに近寄ってくる。

 椅子に座ったあたしの隣に自分の椅子を運んで座って、もたれるように顔を預けてくる。


 これは、おねだりの合図だ。


「いい子ね、或留好。また、あなたに惚れてる猫桃ちゃんを適当にかどわかして、あたしのところに連れてきてね」


 頭を撫でると、或留好は嬉しそうに笑って、首を小さく縦に振った。


「さいっあく! なんで、どうしてよ。或留好、なんでこんな女にメロメロなのよぉ……っ」


 猫桃ちゃんはあたしから逃げたい。しかし大好きな或留好からのお誘いは、罠だとわかっていても断れない。結果、自分から喜んで蜘蛛の糸に飛び込む哀れな獲物の完

成だ。


 ……なんか食物連鎖の頂点に立ってみたいで、楽しい?

 いや、三竦みって言った方がいいのかな?


「すまない、猫桃。私の幸せのために、犠牲になっておくれ」


「いやああああああ! こんな或留好、見たくないのにぃ!」


 しかし、逆らえない。

 どんなに腑抜けてしまったとは言え、自分の愛する人だから。


 不憫だなあ、猫桃ちゃん。


「或留好は諦めて、あたしを選べば楽になるよ?」


「ぜったいに嫌よ! あなたなんかの言いなりに、誰がなるもんですか!」


 もう二度と顔見せないから!

 そう強がっておいて、これで何度今月あたしと顔を合わせてるのか数え直してほしいところだ。


 従順になった或留好は、萌々寝ほどじゃないけど可愛げがある。私は、目標を変えた。

 或留好と萌々寝を愛でながら、猫桃ちゃんとイチャイチャする関係になる。

 貪欲に、一度きりの人生、精一杯楽しむべきだと、開き直ることにした。


「猫桃ちゃん! これからも、諦めてあたしに付き合ってね?」


「ああ、もちろんだよ」


「なんで或留好が答えるのよ!?」


「だって、猫桃の今後は私が握っているんだろう?」


「ぐぅぅぅぅぅ! この顔さえ、この顔さえなかったら今頃わたしは自由なのにぃ……っ」


 光り輝く或留好のプリンススマイルを前に、猫桃ちゃんは青息吐息で頭を抱えた。


 果たしてこれが健全な学生生活であるのかは、甚だ不明だけど、なるようになるさの精神で今後も過ごしていこう。


 あたしは、縋りつくように寄りかかってくる或留好の重さを感じながら、ちょっとした充足感を得るのだった。

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ブラウスをめくって せいや @seiya0131

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