童貞レースから抜け出せ。~一途な男たちの戦い~

@shoseturei

第1話 きっかけ

「なぁ俺らの誰が一番早く童貞捨てられるかな?」

とある群馬の居酒屋。男4人が囲むテーブルに一つの疑問が投げかけられる。

その疑問は答えのないような問であり、今すぐにでるような回答ではない。みなが口を開かずに沈黙が流れていたその15秒後のこと。

「あっ!れい、りくと、そうた、ゆうじゃん!」

その声の主は女を侍らせたまま声高らかに話しかけてきた。

「あっあれ?り、りく?」

動揺が隠せないまま口を開いたのはゆうだった。別に急に話しかけられたから動揺しているわけじゃなく、りくが女の子と一緒にいるということに驚いたのだろう。

それはここにいる全員の総意でもあった。

女の子について誰も聞かなそうな雰囲気が漂っていたいたことに気づいた僕は重い口を開ける。

「そ、その隣にいる子は?」

りくは「ああ」と言ってその子を紹介した。

その紹介はほんの数秒で終わり、その数秒で僕らは地獄に堕ちた。


「俺の彼女のみさき」


再び訪れる沈黙と哀愁。

僕たち4人は顔を引きつらせながらも、りくに彼女が出来たことを祝福した。

りくは仲間だと思っていた僕たちにとっては急に鈍器で頭を殴られたような感覚だった。りくも小学生のころから仲が良く、高校は違えど連絡も取り合ったり遊んだりもした。高校卒業後に僕ら4人は大学へ、りくは就職へと違う道に進んでからお互いの都合が合わず若干疎遠になっていた。

そんな中、久々に会ったりくは彼女が出来ていたというわけだ。

いま思えば、予定が合わないのもりくに彼女が出来たことにより、僕たちより彼女が優先されていたから都合が合わなかったのだ。

そんな簡単な可能性にも気づけなかった童貞4人は下を向いたまま誰一人微動だにしない。


「ははははははは。。。。」

突如壊れたように笑い出したゆうを軽蔑の目で見る3人だったが、そのゆうと同じ境遇だということに気づき再びショックを受ける。

「もう今日は飲もうぜ」

「それしかないね……。」


「『乾杯』」


過去にこれだけテンションの低い乾杯はあっただろうか。

きっとこの先これほどまでに低いテンションで乾杯があるとすれば、4人の内誰かが振られた時だろう。



2時間ほど経ちいい感じお酒が周り始め本来の元気を取り戻しつつあった。

いつものように昔話やこれからのことを話終え一段落した時、りくと以外忘れていたことを口にする。

「さっき、そうたなんかいってなかったっけ?りくが来る前に」

「ああ、確かに言ってたわ」とゆうも続く。

確かに僕も何か言ってたような記憶はあるがお酒が回り過ぎて全く思い出せない。


「あんとき誰も反応してくれないから無視されたと思ったんだよ。俺が言ったのは俺らの誰が一番早く童貞捨てられるかな?だよ」

「『『『ああ~』』』」

全員確かに言ってたわと言わんばかりの反応にそうたはちゃんと聞いておけよとツッコミを入れる。

そして誰が一番早く童貞卒業できるか予想することになった。


結果は—

「『『『それは僕(俺)に決まってるじゃん』』』」

誰も自分以外を選ばない、地獄のような状況。きっとこれが彼女ができない、ひいては童貞である一番理由かもしれない。

そこからの話は早かった。

まず一人一人問い詰めていくことになった。


まずはゆうから。

「パチンカスには無理だろ、」

「いやそもそもパチンカス以前に清潔感がないからな」

「ファッションセンス皆無だしな」

「女子と話しているのほぼ見たことないぞ」

「ダメ人間のトップ。バチ当たり」


結果—ありえない。


次にそうた。

「そもそもADHDの時点できついっしょ」

「人間として成熟してないからな」

「第一印象からずっと減点され続ける人間だからな」

「人の形した化け物だからな」


結果—これもありえない。


次にりくと。

「そもそも人を愛せないでしょ」

「女をめんどくさい生物だと思ってそう」

「ゆうと同じで女の子と話してるの見たことない」

「無表情で罵倒してきそう」


結果—やっぱありえない


最後に僕(れい)。

「絶対浮気するでしょ」

「ちんこで恋してそうだし」

「S級美女しか無理な時点でお察し」

「いつまでも夢見てる感じ将来ひもとかになりそう」

「自分の意見曲げないからすぐ別れそう」


結果—当然ありえない


「『『……。』』」

「『『乾杯』』」

本日2度目の低テンション乾杯が行われた。


「いまので分かっただろ?俺たちじゃ無理ゲーだってことが」

分かりやすいほど頭を抱えるゆうに対し、ぼくは希望の光を見せるべく言葉を紡ぐ。

「いや逆に言えばだけど、いま僕たちは全員同レべってわけだ。てことは今しかない、フェアに童貞レースができるってわけよ!」

僕はジョッキを片手に立ち上がる。

「いいかこれはゲームだ、そして僕らは仲間であり、ライバルでもある。誰が早く卒業できるかっていう分かりやすいゲームさ」

「なるほどな、それありかもしれない」

「面白そうじゃん」

「そろそろ俺らも本気出さないとな」



―このたまたま思いついたくそゲーが

僕らの人生を変えることをこの時は知らなかった。


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