scene 9 学園襲撃

翌日……コリンちゃんの話に寄れば、今日は災いが起こるとされる日。



僕は朝から高揚感に狩られながら、退屈な授業を受けていた……のだが。



「かぁ〜! 何も起きねぇじゃねぇか!」



気がつけば、時刻は午後を迎え、週に1度の鍛錬授業が始まろうとしていた。



周りの奉仕科の生徒は、既に運動場へと移動しているなか、僕だけはただ1人、自分の席に座ったままでいた。



「ったく……これだといつもの日常じゃねぇか」



何も起こらないのは別にいい。だが、対策を練って万全な状態でいるからこそ、平凡な日常が展開されているのは気に食わなかった。



「仕方ない……僕も鍛錬授業に出るとするか」



災いを待つ時間潰しという意味で、僕はジャケットだけを椅子に掛け、運動場へと向かう。



駆け抜ける廊下は静寂に包まれている。2学年は鍛錬授業で運動場にいるわけだし、他学年は授業が始まるからだろう。



「こんな静寂が続いていれば、少しはマシになるのにな」



そんな時だった……この場の静寂を突き破るかのように、学園内に放送のチャイムが鳴り響く。



「あ〜っあ〜っ……マイクテ〜スマイクテ〜ス」


「何だぁ? この放送は」



声質からして女性のものだろう。けれど、あまりにも不可解な放送に、僕は違和感を覚える。



「……うん。声は入っているみたいだねっ! それじゃあ早速……」



女性はガサガサと音を立てながら、まるで準備を整えるかのように、大きく息を吸って……



sleep眠れ


「!?」



次の瞬間……他学年の教室から、何かが次々と床に打ちつけられる音が聞こえてくる。



「何が起こっているんだ?」



気になった僕は、目の前にあった教室の扉を、勢いよく開けてみる。



すると……そこに広がっていたのは、力を無くして倒れ込む、生徒と教師の姿であった。



僅かに驚く僕であるが、すぐさま状況確認のため、1人の生徒に近づき、首元を指で触れた。



「脈はある……今ので眠らせたのか?」



他の人たちも確認してみたが、どうやら眠らされているだけのようだった。



原因は間違いなく……女性が発した一言。魔法の類であろう。だが、生憎と俺には効いていない。



「言霊か? いや、そんなのどうでもいいな」



俺の予感はこれだけではないと告げている。そして案の定、微かに息を吸い込む音が耳に入る。



「さてと、お次はsalmonのaをuに変えて……lをmに変えてと……」



女性の言葉を頭で理解し、次に発せれる言葉を予測する。



summon召喚



その瞬間……地面の至る所に魔法陣のようなものが浮かび上がる。



そして……そこから出てきたものは、数日前に顔を拳を交えた、あの化け物たちであった。



ᚵᚢᚪᚪᚪᚪᚪ!ぐあああああ!


「おうおう! どうやら成功したみたいだね」



無数の叫び声を聞いた女性は、姿を見ずとも大はしゃぎといった様子だった。



「さてと……この場にいる人間どもは無力化していることだし、始めちゃおうかしら」



喜びを隠そうとしないまま、声色だけを冷たく変え、女性は呟いた。



「さぁ……悪夢ナイトメアの始まりだよ」



その言葉を耳にした化け物たちは、けたたましい叫びを上げながら、眠っている人間どもの虐殺を始めた。



人間の頭が1つ……また1つと血飛沫を上げながら砕け散り、その光景はまさに、目に見える悪夢のようだった。



「これが……コリンちゃんが言っていた、災いのことなのか……?」



そんなことを呟いている間にも、人間の頭は無惨にも砕け散り、血飛沫が僕の顔面に飛び散った。



ᛟᛗᚪᛖᚴᛁᛁᛏᛖᛁᚾᚪᛁᚾᛟᚴᚪ?お前効いていないのか?


ᚴᛁᚾᛁᛋᚢᚱᚢᚾᚪ気にするなᛞᛟᚢᛋᛖᛋᛁᚾᚢᚾᛟᛞᚪᚴᚪᚱᚪどうせ死ぬのだから


ᚾᚪᚱᚪなら ᛋᚪᛋᛋᚪᛏᛟᚤᚪᚱᛟᚢᛣᛖ!さっさとやろうぜ!


ᛋᛟᚢᛞᚪᚾᚪそうだな



標的を僕に切り替えた4人の化け物は、目にも止まらぬスピードで、僕の首に襲いかかる。



化け物は刈り取ったと確信したのだろう……だが、幸いなことに、僕の首は無傷であった。



その代わり……襲いかかった化け物たちの首は、何が起こったのか分からないといった顔で、床に転がっていた。



「うわっ最悪……昨日、念入りに洗ったシャツなのに」



化け物の返り血で汚くなったワイシャツを見て、僕の努力は何だったのかと思い知らされる。



「まあいいや。コリンちゃんのいう通り、災いも始まったわけだし」



僕は弾け飛んだ化け物の頭を踏み潰しながら、教室の外へと出る。



「……なるほど。流石と言ったところだな」



教室の外に出ただけで、肌に伝わる違和感……それは、眠らされている人間が、漏れなく無事であることを伝えていた。



そうと分かれば、僕の目的はただ1つ……今回の主犯格を取り押さえること。



単純に考えれば、放送室にいる可能性が高いが、既に命令を出した後で、わざわざ残っているはずもない。



僕は主犯格を見つけるため、全神経を触覚に集中させる。



「校舎内に……反応は96体。運動場に1体……だが、アレは他の個体とは違うみたいだ」



目的の主犯格はいない。けれど運動場には、退屈しない相手がいることが判明した。



「まずは、少しだけ遊んでみるとしようかな」



僕は楽しみを簡単に無くさないよう、ゆっくりと運動場へ歩みを進める。



目の前に立ち塞がってくる、鬱陶しい化け肉の塊蹴散らし、もぎ取り、たまに食したりもしながら。

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